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真剣に読まないように。

真実は如何に。

作者: caem



 唸り声が耳許をかする。

 傲慢に奮われた豪腕は何処かしら心地好く心に響いた。

 たった一発の拳は空を切り、頬に僅か程度の切り傷をつける。


 体捌きは軽やかではあるが見逃せなかったようだ。


 次に突き付けられた足技は見事なまでに冴え渡り、鍛え上げられてきた逞しい太股は悲鳴をあげた。


 例えようもない激痛。

 相手も同じく痛みを伴うであろう。

 突き刺さる蹴りは意識を刈り取るまでに衝撃も甚だしかった。


 俺は必死に激痛を堪えて、だが決して表情には出さずにするりと身を翻した。


 柔よく剛を制す、とはよくいったモノだ。

 経験は糧となり、意識せずとも身体は滑らかに滑り込む。


 脇に抱えた相手の腕をごく自然に掴み絡みとり、空を覆い尽くすほどに巨漢が宙に舞った。


「ぐ……っは……っ!!」


 固い床に叩き付けられれば、それは自然と吐き出されるだろう。

 見事な1本背負いを喰らった巨漢は肺に残った全ての空気を言葉足らずにして嗚咽と化す。


 その隙は決して見逃してはならない。


 懐から即座に冷たい鉄の鎖を取りだし、大の字で寝転がる彼の太過ぎる腕へと鍵をかけた。

 チェックメイト。

 今頃になって額に滲んできた汗を拭いつつ、最早観客(ギャラリー)と化していた後見人が「ほう……」と感心を漏らしていた。


「……ふぅ……午後22時50分ジャスト。犯人確保……っ!」


 其処らで売られている腕時計を参考に形式に(のっと)り口を挟む。

 聞きようにしては独り言のように思えるだろう。

 しかし、これこそがルールなのだ。


 極めて小さいイヤホンからは喧しいまでに小言が響き渡り、正直ウンザリせざるを得ない。

 確かに勇み足が過ぎたかもしれないし独断ではあったが……今となっては俺が正しかったと思う。


「……流石、先輩……! 見事です!!」


 謙遜は辞めて欲しい。

 だがこれ(・・)は公務なのであって、至極当然のことなのである。

 今まで散々凶悪且つ、多数の命を事も無げに奪ってきた犯罪者を地に叩き臥せるのは当然の結果であろう。

 やがて部下から差し出された葉巻を口にくわえ、微かな着火音と共に白煙が漂った。


 白髪混じりのロートルと言われても仕方がない。

 ただ、まだ四十にも充たないのは認めて欲しい。


「おら! キリキリ歩け!!」


 弟子や身内に等しい若手は勇ましくも傲慢に犯罪者をしょっぴいていった。

 バタン! と勢いよく閉められてしまった白と黒を基調とした車の中に渋々放り込まれた巨漢は狭そうに身を縮めながら、私に対して忌々しげに憎悪を叩き付けてきた。


 背丈格好などは全く比類しない私に。

 休憩紛いに片手にした缶珈琲を口に馴染ませつつ、どうても良い風にして私はため息を仄かに吐く。


 これまで数十年。

 歴戦の戦士のようにして、身を粉にして励んできたのだが……そろそろ見切り時か?


 もう、肩は頭上に上がらない。

 年はまだまだ現役なのだが。

 四十肩、五十肩にも勝るとも思えないまでに全てが億劫だった。


 寄る年波には勝てないとは正にこのことだろう。

 マスク越しに小さな欠伸をひとつ。

 初夏の薫りが擽る緑黄色に目端を細ぼらせて、懐かしむように私は言う。


「刑事ってぇのは……いつまで経っても変わらないモンだねぇ……」


 後に、その正義感からか探偵へと転職した私であったが、相変わらずいざこざは絶えない。


「伺いましょう……さぁ、どうなさったので……?」


 安っぽい肘掛けに肘を付きながら私は依頼者に問う。

 幾十にも刻まれた皺を潜ませながら……。








 刑事を引退しても、まだまだ尽きる事はないようであった ──……




毎度、馬鹿馬鹿しい小噺です。

くれぐれも真剣に読まないように……っ


≡3 シュッ


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