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悪魔公女Ⅱ ~ゆるふわアクマ旅情~【書籍化&コミカライズ】  作者: 春の日びより
第二部 第四章・素晴らしき腐った世界 【異世界テス編】

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4-25 また伝説になりそうです ①

 思ったより長くなってしまったので二分割。後半は元旦0時と言う危険地帯に投下します。

 悪魔的な表現がございますのでご注意ください。

 



 従者達悪魔が【勇者】達と戦いを始めた時より少し戻る。


 水の勇者であるキョージは、一〇名ほどの部下を連れて、闇の勢力側の本拠地である大空洞まで到着していた。

「敵は見えるか?」

「はっ。情報通り、この地域の軍や兵達はネフルティア軍に徴集されていた為、残っているのは巡回する警備兵程度だと思われます」

「ここまでは情報通りだな。ではこのまま進む。途中で見かけた者は、兵であろうと民間人であろうと、たとえ家畜でも誰も残さないように」

「「「はっ」」」

 いくら勇者と言えど、この地に残る全軍を相手には出来ない。

 それに身体能力の高い闇エルフや獣人は、民間人でも人間の兵士よりも強いので、集まられる前にすべて殺しておく必要があった。

 家畜でさえ始末するのは、この地の家畜は魔物が多く、もし知恵のある魔物が残っていた場合、操られて兵士よりも厄介な敵になる場合があるからだ。


 人類を見捨てたような形になったキョージだが、今回連れてきているメンバーは、キョージが創る新世界とも言える、セイル国を含めた他の国家を征服する野望を知っている部下達であった。

 戦力で炎の勇者パーティに劣っていると理解していたキョージは、数年を掛けてこの信奉者と言うべき10人の【英雄クラス】の部下を鍛え上げた。

 だが彼らは所謂“養殖”で、無理矢理戦闘能力だけを上げたために実戦経験が足りていないので、キョージが直接指揮する必要がある。


 キョージ達は民家から奪った外套やマントなどで正体を隠し、出会う巡回の兵士や住民達を皆殺しにしながら進んだ。

 目指すは、大空洞の中心街。遙かな昔に闇の勢力を纏め上げた【最初の勇者】が造りし古城。

 そこにキョージの目指すモノが存在する。

 その街は、そこを得た者が闇の勢力の王になるとの謂われがあり、闇エルフや獣人が牽制しあっていたせいで権力の空白地帯のような状況になっていたが、さすがに数万人規模で住民が居るために、キョージ達も隠れるようにしながら古城に潜入した。


「管理している者は居ないのか?」

「住民達によると、ここは“聖地”のような場所で、誰かが管理するどころか中に入ることさえ恐れ多いと考えているようです」

「ただの愚か者の“墓”に過ぎないのにな……」

 最初の勇者と呼ばれる存在は、キョージと同じ地球人のようで、この地に住む蛮族のような者達を纏め上げ、文化的な生活と、自由と平等の理念を根付かせようとして……失敗した。

 彼はキョージのように勇者として召喚されたのではなく、偶然流れ着いて勇者となった漂流者のようだ。

 かなり昔の話だが、彼の思想や残した物から考察すると、地球から異世界へと言う移動だけでなく、時代さえも跳躍した“現代人”の可能性が高い。

 そんな彼の思いや残した物をキョージは鼻で笑う。

「文化を知らなかった飢えた獣に何を教えても無駄だ。まずは力でねじ伏せ、支配してからではないと、話にならん」


 それでも彼が残した物でキョージの野望……“真の目的”が達成出来る。

 その為にセフィラのような外部にも信奉者を作り、【最初の勇者】を調べさせていたのだ。


「では突入する。隊を五名ずつ二つに別けるが、君達は騎士だ。全員が盾であり矛であり、仲間を補助出来るように行動しなさい」

「「「はっ」」」


 キョージ達は正面の扉をこじ開け、城内に侵入した。

 内部の詳しい情報まではセフィラもまだ手に入れていなかったようだが、仮にも人が住んでいた城なら迷路のような構造はあり得ない。

 それでも魔術による防犯装置や罠がないとも限らないので、キョージ達は慎重に奥へ進んでいった。

「……綺麗だな」

「そうですね。芸術的にも素晴らしい装飾で…」

「いや、そうではない。千年以上も経つのに埃がほとんどない」

 セフィラの情報では、数ヶ月前に闇エルフと獣人の王族が城に侵入したという話だったが、欲に駆られた彼らが掃除したとも思えない。浄化のような魔術が掛けられている可能性もあるが……

「誰かが居る……?」


「うわぁああああああっ!?」

「なにっ!?」

 半分に別けて先行させていた五名が、突然開いた床に飲み込まれるように消えていった。キョージが急ぎながらも注意してそこに近づくと、覗き込む前に床の穴は閉じて、もう継ぎ目さえも見えなくなっていた。

「キョージ様、床を破壊しましょうっ!」

「そうだな……いや、待て。まずは全員下がって攻撃力のある者が試せ」

「お任せ下さい」

 残った部下の中で、一番身体の大きな騎士がミスリル銀の両手斧を掲げた。

「どっせぇええええええええいっ!」

 ガキンッ! と、掛け声と共に刃とは逆側の錨爪の部分が振り下ろされるが、床にはわずかな傷しか付けられなかった。

 攻撃力だけなら勇者に近いとも言われる彼の力でそれなら、キョージが行ったとしてもさほど違いはないだろう。

「……先に進む。目的の物が地下にあるのなら合流出来るかも知れん」

「「「……はっ」」」


   *


「……どこだ、ここは」

「全員無事かっ、まずは灯りを」

「軽傷二名……どちらも戦闘に問題はない」

 落とし穴から落ちた五名は、石造りの古い通路に落ちていた。

 体感ではかなり落ちたようだが、全員が【英雄クラス】だったので軽傷程度で済んでいる。うち一人は水魔法による回復も使えたので、この程度なら問題はないだろう。

「上に戻れるか?」

「……いや、無理だ。あの高さでは道具が居る」

「先に進もう。上に行ける階段を見つけて、キョージ様と合流するのが先決だ」

「おうっ」

 分隊長である仲間の言葉に、騎士達は気を持ち直して武器を構えた。

 彼らはキョージによって見出された同期とも言える存在で、上に残った面子に比べれば練度が低い若い者ばかりだが、仲間意識が強い分、連携では強い力を発揮する。


「待てっ。……何か来るぞ」

 騎士の一人が警戒を発すると全員が足を止めて、盾役の騎士が前に出た。

 しばし待つと前方の通路から、何か重い足音が複数近づいてくることが分かった。

「キョージ様達じゃない。魔法で先制するぞ」

「下がってろ」

 後ろにいた細身の騎士が前に出て、通路に向けて水の中級魔法、アイスジャベリンを複数撃ちはなった。

「……やったか?」

 だが、通路の奥からは何かに当たった音も、何者かの悲鳴も聞こえてこなかった。それどころか、重い足音は何事もなかったようにすぐ近くまで迫っていた。


『ガウ』


「「「………は?」」」

 騎士達は、歩いてきて可愛らしく片手を上げて挨拶をするクマのヌイグルミに、思わずポカンと口を開けた。

「な、なんだこいつはっ」

 緊張した汗を誤魔化すように盾役の騎士がヌイグルミを指さして嗤う。それどころか気安く近づこうとした騎士に、分隊長役の騎士が慌てて呼び止めた。

「おいっ」

「なんだよ、こんなのに怖じ気づいて、」

 途中で振り返った盾役の騎士が、言葉途中で動きを止める。

 そのままゆっくりと倒れたその騎士は、仲間達に向けていた逆側の部分が、抉られたように消滅していた。


『ガウ』


 再びそう言ったヌイグルミの口元は血塗れで、何やらガリガリと堅い物を噛み潰すような音も聞こえてくる。

「……食わ……れた?」

「こ、こいつはあああああああああああああああああああああっ!」

 先ほど魔法を使った騎士がまたもアイスジャベリンを放つ。だが、その攻撃は大きく開いたヌイグルミの口内に吸い込まれ、ガリガリと噛み潰された。

「全員気をつけろっ! 【上級悪魔(グレーターデーモン)】クラスの魔物だっ!」

「よくもあいつをっ!」

「敵を取るぞっ!」

 不意打ちで一人倒されたが、それでもここには四人の【英雄クラス】が居る。

 一対一で【英雄クラス】と【上級悪魔(グレーターデーモン)】が戦うのなら、よほどのことが無い限りは【英雄クラス】のほうが有利だ。

 今目の前にいる魔物がそれよりも強い個体だとしても、四人いる自分達が負けるはずがないと彼らは考える。

 でも彼らは忘れている……。最初に聞いた足音は“複数”だったと言うことを。


『グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』


 その次の瞬間、ヌイグルミの背後の闇から押し寄せる、十数体の【上級悪魔(グレーターデーモン)】達に襲われ、蹂躙される彼らの前で、クマのヌイグルミが可愛らしく声を上げた。


『ガウ』

 


 

 ユルまで辿り着きませんでした。

 次回、後半。キョージ戦。

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― 新着の感想 ―
ヌイグルミの口元は血塗れで > 何故か今さらグルーミーを思い出した。 よくもあいつをっ! > 名前は!? 名前を呼んであげないの!?
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