1-07 小学生になりました ①
基本は朝かお昼の更新になりますが、突発的に更新する場合もありますので、前話にご注意ください。
悪魔的シリアスパートはもう少々お待ちください。たぶんもっと凄惨です。
月日は適当に過ぎて私はついに小学生になりました。
途中で六歳の誕生日イベントもありましたが、特に凄いこともありませんでした。
お父さんからは毎年有名ブランドのクマのヌイグルミを貰っているし、お母さんからは外国の絵本を数冊貰い、琴ちゃんと大葉お兄ちゃんからは、可愛い髪飾りとお菓子を貰った。
そして王子くんから誕生日プレゼントに、米国デュロック種の豚が一匹届きました。
デュロック種はお肉が霜降りになる大変上質な豚さんです。
『ブヒ?』
つぶらな瞳が大変可愛らしいですね。
「お父さん、工場で加工して下さい」
「……柚子」
そんな目で見られても、三百キロを超える豚さんを飼う気なんてありませんよっ。
小学校の入学式ですがそちらも問題ありません。……あれ? なんだろう。過去に入学式で問題があったような気がしましたが……多分、気のせいですね。
琴ちゃんも無事に高等部に進学し、大葉お兄ちゃんも高校三年生になりました。今度はお兄ちゃんが受験生です。外部受験するならだけど。
それで琴ちゃんと美紗の父ちゃんですが……あれ? 兄ちゃんだっけ? まぁどうでもいいや。その父ちゃんですが、結構順調なようです。
最初は親戚と言ってきた中学生の女の子を、父ちゃんはあまり信用してなかったのですが、美紗も琴ちゃんに懐いているし、琴ちゃんも高校生になってずっと綺麗になりましたから。
………本当にダメンズ好きとかじゃないのよね?
小学校のクラス分けですが、なんと王子くんや公貴くんと同じクラスになりました。
……本当にちゃんと分けたのか?
でも良く考えてみれば、このクラス分けも当然でした。
高峯学園が進学校の側面を持つのは中等部からだから、小学校から高い授業料を払うより塾や家庭教師に費用を回したほうが良いと考える親も多いらしく、幼稚園や小学校から通っているのは、通学時間が丁度良かった家柄の良い子供達か、【高峯】というブランドが欲しい親の子だけ。
だから高峯学園付属初等部には、各学年4クラスしかない。
そして家柄が良くて尚かつ一定以上の教育がされている子供は、一クラス分しかいないので、問題がない限りは彼らと六年間一緒のクラスになるんだってさ。
……失敗したかな。
私って本来の実力なら、残りの三クラスのほうだよね?
「柚子ちゃん、どうしたのぉ?」
「……なんだか人生の選択を間違ったような気がして」
「柚子ちゃん、むずかしいこと言うんだねぇ」
そんな私に話しかけてくるのは王子くん(仮)である。
この一年ほど私が頑張った結果、王子くんの肉は20%ほど縮小している。そのおかげで今の王子くんは『ちょっと太めの可愛い男の子』にまでなった。
クラスの女の子達が偶に王子くんに話しかけているのも見かけるけれど、王子くんは何故か私の側に寄ってくる。
小学校にあがってクーラーボックスが持ち込み禁止になったから、私が側に居なくても良いかなぁ……なんて考えていたけど、売店や自販機があるから何かを買おうとする彼を毎回私が止めて、結局一緒にいることが多くなった。
そうなるとすっかり王子くんと親友になったらしい、本家『王子様』である公貴くんまで側に居るようになる。
公貴くんは知性がすでに小学生の枠を越えているので、クラスの女の子との幼い会話が苦手みたい。そんな訳で同じく小学生らしくない私と会話が多くなって、その結果、クラスの女子に嫉妬され、私はまた女の子の友達が居ない状態が続いている。
「人生は無情ね」
「柚子ちゃん、むずかしいこと言うんだねぇ……」
でもそんな私を神は見放していなかった。私が神様の話題をするたびに小規模な微震が起きてるような気がするけど、気にしたら負けです。
「柚子さん。……少々お話ししたいことがあります」
そんな私に話しかけてくれる女の子が居たのです。
またこの流れか。それに何でこの子は私のことを睨んでいるの? ちょっとツリ目の美人の女の子だから結構迫力がある。
……あれ? やっぱり神様、私のこと嫌いなの?
それにしても公貴くんもそうだけど、小学一年生で可愛いって印象より“美人”って単語のほうが先に出てくるなんて、上流社会の血は凄い。
「お返事を聞かせてくれます?」
「……あ、いいけど」
ちなみにここは女子トイレ。さすがの王子くんもここまでは付いてこない。こういう女の子の呼び出しだと、複数の女子で取り囲んで……とかあるかと思ったけど、この女の子は一人だった。
「ここじゃダメなの?」
「こんな場所ではちょっと……」
まぁそうだよね。綺麗なトイレだけど、誰が来るか分からないし。
私とその女の子……四集院華子さんは放課後に飼育小屋近くで会うことになった。
ちなみに華子は、ハナコじゃなくてカコちゃん。紛らわしい。
何で飼育小屋なのかと思ったら、華子は飼育係だった。……なんか意外?
一応、子供用携帯を持たされているので、運転手さんには連絡を入れておく。何の話があるのか知らないけど、同年代の女の子は美紗くらいしか友達が居ないから、こんな状況でも、ちょっとワクワクしている自分が居る。
「……………」
飼育小屋に着いてみると、動物園の檻のようなコンクリートの建物があった。
お金持ちの学校だとこんなところにもお金を掛けるんだね。
でもまぁ、それ自体はどうでもいい。気になったのは、ウサギや雉や鶏が入っている檻からちょっと離れた場所に置いてある“七輪”だった。
うん……誰か、倉庫にしまい忘れて、こんな場所に置かれちゃったんだね。そうだと言って。
「あ、柚子さん、もういらしてたのですね」
「……華子さん?」
私も下の名前で呼ばれているから私も下の名で呼んだけど、彼女はあまり友達からそう呼ばれ慣れていないのか、少し驚いた顔をしていた。
ちょっと早く来過ぎちゃったかな?
私が一瞬、間を空けてしまったのは、彼女がジャージ姿に餌の入ったバケツを持っていたからです。真面目系なんだね。
「餌やるの? 待ってるよ?」
「……少々お待ちいただけますか」
華子は少し悩んだ顔をしてから、一言断ってウサギたちに餌を与え始める。
私も待ってるのは暇なんで餌やりを手伝うと、ウサギや鶏たちが貪るように餌を食べ始めた。
「この学院の生徒達は、真面目に飼育係をしない人が多いのです……」
「へぇ……」
一応、情操教育の一環で、動物を飼って生徒にお世話をさせているけど、この学園の生徒は、お坊ちゃんとお嬢様とプライドだけが高い子供が多いから、飼育係になってもただ撫で回すだけで、まともに餌やりすらしてないらしい。
「しかも最近、動物が偶に居なくなることがあって……数週間に一羽程度ですが」
「……そうなんだ」
何となく私は、あの七輪に目を向ける。……まさかね。
この学校、なんか怖いよっ。
「お手伝い、ありがとうございました。……それでお話なのですが」
「うん」
「あなたは、久遠公貴さんと、どういうご関係ですか?」
それまで穏やかだった華子の瞳が、私を射貫くように向けられた。
そう言えば公貴くんって久遠家だったね。この辺りの名士で政治家とかも多数輩出していて、知っている人なら知っている。私もお父さんから、公貴くんには失礼がないように言われていた。
彼のお祖父さんは議員だったけど、数年前に地上げで献金を貰っていたと週刊誌に書かれて辞職している。
その為に今は機嫌が悪いようで、下手に関わらないほうが良いらしい。
それでも名士には違いないので無視も出来ない。
確か四集院家は、久遠家と同じくらいの家柄だったはず。この流れはもしかして。
「華子さんって、公貴くんの許嫁……とか?」
「っ!」
まさかそんな“お約束”はないだろうと聞いてみたら、華子の顔が一瞬で茹でたみたいに真っ赤になった。
当たりか。しかも家が決めただけじゃなくて当人も惚れているとか、うふふ。
「な、なんですのっ! そんな目で見ないでっ」
暖かな目で見てあげたら、華子はさらに真っ赤になって手で顔を隠しちゃった。
おっと、私の口元もニヤニヤ緩んでいましたね。我ながらおっさんかっ。
「公貴くんとは幼稚園から知ってるだけだよ。おう…はんひゃむくんとお友達だから、ちょっと話す機会は多いけど」
要するに婚約者が自分以外の女の子と良く話をしているので、華子は嫉妬してしまったらしい。
「……でも、他の女の子とは話さないのに、柚子さんとだけ」
「他の子達が幼くて会話にならないみたいだよ。私も子供らしい性格じゃないしね。でも、華子さんだってそんなにしっかりしたお話が出来るのなら、公貴くんも普通にお話ししてくれるんじゃないの?」
「で、でも、女は男性の三歩後ろを歩くように言われていますし、私も淑女として、公貴さんから常に三十歩さがっていたので……」
「………………」
この子、頭は良さそうなのにおバカな子だっ!
*
「そ、そうでしたの……?」
「そうなのです」
あの後、私は華子に自分達の間柄と、華子と公貴くんの付き合い方を説明した。その付き合い方のほうで説明が難航して、気がつくと空が茜色になり掛かっていた。
……久しぶりに精神が疲れた。理解してくれて良かったわ。
「……それじゃ校門まで一緒に行きましょ」
「はい、……柚子さん、これからもご相談に乗ってもらっても宜しいですか?」
「うん、いいよぉ」
おや? これはもうお友達なんじゃないでしょうか。これで女子トイレの外で、王子くんや公貴くんに出待ちされる事もなくなるんですねっ。
「そもそも、柚子さんは二句之さんとあんなに仲がよろしいのに、他の男性に目を向けることはありませんでしたね」
「……え」
まさか、私達って周りからそんな目で見られていたの……?
何となく腑に落ちない気持ちで華子と一緒に校門まで歩く。王子くんには懐かれたなぁ……とは思っていたけど、そんな噂になっていたとは計算外です。
私としては二十歳くらいになったら、ダンディなおじ様にデレデレに甘やかして貰う気満々だったのに……。
飼育小屋から校門までは、時間帯のせいもあるけど生徒は誰も居なかった。
ちょっと危ない気もするけどまだ学校内だし、私も華子も携帯で車を校門まで呼んでいるから何の危険もないでしょう。
……何故か、言ってて自分でフラグ立てている気がするわ。
『うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃあっ!!』
「ほら来たよっ!」
回収早いですよ、神様っ!
私達から少し離れた場所に奇声を発して現れたのは、どこかの高校の制服のズボンを今時かなり下げて穿いているような、いかにもな少年だった。
あ、目がイってる。
「……な、なんですのっ」
華子が初めて見るイカれた人間に、怯えたように硬直する。
鉄パイプをぶんぶん振り回しながら、彼は『この学校が、』とか『この俺が』とか、色々叫んでいたけど、あ、そっか。
「……高峯に落ちたのね」
ビクッ……と身を震わせた彼は、そんな台詞を何気なく漏らしてしまった私に、その血走った目を向けた。
「俺のせいじゃねぇええええええええええええええええええええっ!」
なんて迷惑なっ。
そんな理由で来るなら、初等部じゃなくて高等部にいきなさいよっ。
あ、そっちはダメだ。琴ちゃんと大葉お兄ちゃんがいる。
鉄パイプを振りかぶって高校生が私達に迫る。
思ったより速い。彼の筋肉が悲鳴をあげるように、太い血管がぼこぼこ顔に浮き出していた。
それなのに……私は怖くなかった。
一年前の公園以来、久しく感じていなかった【力】が、私の深い……“暗い”部分から湧き出してくる。
怯えている華子を背中に庇って、私は彼の瞳をジッと見つめた。
「ひぃ……っ!?」
高校生の動きが一瞬止まる。その時、
「うりゃああっ!!!」
掛け声と共に何かが飛んできて、高校生の背中に当たった。
飛んできた方角を見るとそこには一人の上級生の男の子がいて、彼が投げたそれは、どこかで身覚えのある使用済みの七輪だった。
高校生が体勢を崩して倒れると、ようやく騒ぎに気付いた先生や警備員さん達が駆けつけて、まだ倒れていた高校生を拘束していった。
……出番が無かった。
私達は先生に保護され、私達の運転手さん達が迎えに来るまで保健室のソファで待っていると、ショックで怯えていた華子が私の手をギュッと握る。
「……庇ってくれて…ありがとう。あ、あの、柚子様って呼んでもいいですか……?」
上気した顔で……潤んだ瞳でお礼を言う華子を見て私は思う……。
あれ? また変なフラグが立ってないですか?
登場人物はそのままに、設定やストーリーを大幅に変えたので、修正前を知っているとより愉しめると言うご意見をいただきました。
知っているとニヤニヤ出来る部分があるかも知れません。
修正前を『ネタバレ倉庫』としましたので、興味のある方はどうぞ。
もちろん知らなくても問題ありません。
次回、七輪の秘密があきらかに!





