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悪魔公女Ⅱ ~ゆるふわアクマ旅情~【書籍化&コミカライズ】  作者: 春の日びより
第二部 第三章・勇者の国 【異世界テス編】

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3-02 また聖女になりました ②

 加筆修正版

 




「このわたくしを、いつまで無視しますのっ!?」


 近くで騒がれたので、私は仕方なく回想を打ち切る。

 声を掛けていたのは、確かこの国の王女様で、えっと……ビアンカちゃんだったかしら? でも、ある程度回想が終わるまで待っててくれたのね。……意外と可愛い?

「ど、どうして、私を見て笑いますのっ」

 温かい笑みで優しく見つめてあげたら怯えられた。失敬な。


「おい、貴様っ、殿下のお言葉に答えぬかっ!」

 ビアンカが連れてきていた騎士達の中で、他より偉そうな鎧を着た男性が、大声で怒鳴りながらズカズカと前に出てきた。

 頭に血が上っているのか、見知らぬ異世界人に怯えないのは立派だけど、護衛騎士や従者を連れているいかにもお嬢様っぽい私に、いきなり剣を抜くのは騎士としてどうなんだろう?

 騎士と言っても私達からすれば一般人とそう変わらない。私が相手にしても良いんだけど、警戒はされても初手から敵対されるのは面白くない。

 とは言え、その抜いた剣を私に向けた瞬間、今は傍観している従者達も一瞬で彼を生きたまま解体しかねない。

 さて、どうしようか……。

 そう思った時、シュタッと何かが私を護るように、騎士の前に立ちふさがった。


『『『…………………』』』


 ……恩坐(ウサギ)くんです。

 さすがの騎士も、飛び出してきた50センチ程度のウサギのヌイグルミを、目を見開いて凝視する。

 そこにいた人間達全員が唖然とする空気の中で、ただ一人、召喚された小柄な女の子だけがキラキラとお目々を輝かせていた。


「なっ、なんだこのふざけた物はっ! 自立型魔道具かっ、怪しげな魔導師めっ!」


 思ったよりも早く正気に戻った騎士が、警戒するような視線を私に向けて、それでもどこか小馬鹿にしたような顔で恩坐くんに剣を向けた。

 へぇ……“自立型魔道具”なんてあるんだ。下級精霊を組み込んだゴーレム系? それとも人工知能のような物も開発しているのか。

 それはともかく、騎士から剣を向けられた恩坐くんは日本の拳法のような構えを取って、指先……はヌイグルミだから無いので、まん丸いお手々の先をチョイチョイと曲げて、その騎士を挑発する。

「……こいつっ!」

 騎士は物の見事に釣られて顔を真っ赤にする。

 そんな彼に他の騎士達は、困った顔をしたり、ニヤニヤ笑っていたりするから全員ではないと思うけど、プライドの高い騎士とは言え、主人が馬鹿にされて怒っているのかそれともただのバカなのか判別出来ない。

 後者だったら、こんな単細胞が騎士の中で地位があるとか、この国はやばいんじゃないの……。


「どぅおりゃあっ!」

 騎士が恩坐くんに近づいて、無造作に剣を振り下ろす。

 ふむ……脳筋そうだけど剣筋はぶれてないし、そこそこ良さそうな剣も使ってるね。充魔力式の魔力剣かな? 私が護衛の女性騎士達にあげた剣より安物だけど。

 でも力任せなのか、剣速は意外に速い。

 その真っ直ぐ落ちてくる剣先が恩坐くんに触れる瞬間、恩坐くんは剣の腹にお手々を当てて、ゆるりと受け流した。

 ガンッ!

「どぐぉおっ!」

 その剣が石床を叩く前に、飛び出した恩坐くんのお手々が騎士の顔面を殴り飛ばしていた。

『(シュタッ)』

 恩坐くんはそのまま仰向けに吹っ飛んだ騎士の上に飛び乗ると、何が起きたのかまだ理解していない騎士の顔面をポカポカ殴り始める。

「ぐおっ!? 待て、ぐはっ、こら…がはっ、ぉおッ、」

 そんなある意味ほのぼのとした光景に、ビアンカも騎士達も大半は唖然としたり、数人の騎士がニヤけた顔をしていたり、顔を顰めたりしていたけど……。


「ぐひぃ、やめ、ぐほ、…ごっ、がぁ、や、…ひぐ、ぐおっ、ごほっ、…ぉ、」

 ぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽか……


 効果音がアレだから緊迫感はないんだけど、飛び散る血飛沫や、砕けた血塗れの歯が舞うと次第に見物人達の顔が青ざめて引きつっていく。

 特に耐性が無いビアンカと召喚された四人は、今にも吐きそうな顔をしていた。

「恩坐くん、戻りなさい」

 現実離れした光景から我に返った騎士達が、剣に手を掛けて飛び出しそうになったところで、私は恩坐くんを止めて呼び戻した。

 相手が人間だから多分手加減はしていると思うけど、上級悪魔(グレーターデーモン)並の力を持つ恩坐くんに殴られ続けたら、そろそろやばい気がする。

『(ドヤァ)』

『ガウガウ』

 戻ってきた恩坐くんに、ギアスもやりたかったみたいでガウガウ言ってたけど、なに言っているのかさっぱり分かりません。

 そんな空気の中でも、あの瑞樹という子はさっきまで吐きそうだったのに、ウサギと熊の会話する様子に目を輝かせていたから大したもんだ。

 ……恩坐くん返り血まみれなのに。


「誰か治療術師をっ!」

「急げっ、このままだと持たないぞっ」


 騎士達が騒ぎ始めて年嵩の騎士達が若い騎士達に指示を出す。数名の騎士が走っていく中で、私達が側に居るから慌てて駆け寄ってこないのは優秀ね。

 あ……でも、この偉そうな騎士が嫌われている可能性もあるのか。

 そしてその騎士ですが、殴られた顔が判別出来ないほどボコボコになって、手足もあり得ない方向にひん曲がり、床でピクピク痙攣していた。

 うわぁ……


「…『光在(ひかりあ)れ』…」


 良い子に見せるのはお見苦しいので、神聖魔法を掛けておく。この世界でもちゃんと神聖魔法は発動するみたいで良かった……。

 柔らかで優しい光が広がっていくと、動いていた騎士達が足を止めて、警戒しながらも唖然としたようにポカンと口を開けていた。

 今回の使用魔法は大盤振る舞いで、高位治癒と高位再生を合わせた【エリクサー】級です。

 光が消えると、折れ曲がっていた手足や欠けた歯まで治って、正常な状態に戻った騎士は自分の身体を確かめ、目をまん丸に見開いて私を見つめた。

 私は抱っこしていた『だら~ん』状態の黒猫(リンネ)を下に降ろすと、ゆっくりと前に歩み出て、足下まである黒銀ドレスの裾を摘んで、優雅に一礼する。


「初めましてビアンカ王女。私は異世界【アトラ】から来ました、聖王国タリテルド、第二十二代国王ヴェルセニア陛下の孫娘にて、同じ姓を持つヴェルセニア公爵家子女、タリテルド王位継承権第六位、ユールシア・ラ・フォン・ヴェルセニアと申します」


 私は【聖王国の聖女】の称号を貰った時、王位継承権と王家の一員である【フォン】の名も貰っている。正式に効力を持つのは13歳からなんだけど、他国(・・)に行った時は、状況によって使う事をお祖父様(陛下)に許されているのです。

 まぁお嫁に行ったら効力切れるから、私も使うことはないかなぁ……なんて思ってたけど、今回は箔付けに使わせて貰いましょう。

 でもどうして私が六位なんだろ……? お父様が四位なのに。お姉様達は…ほら、問題が多かったからね。


 今回、使う予定もなかった“名”を使ったのには意味がある。

 ビアンカも王女として“フォン”の名を持ち、タリテルドでもそうだったけど、王や貴族の在り方が“地球”と似すぎていた。

 多分、流れてきた“異世界人”のせいだと思うけど、これが双方の世界に影響を与えているのなら問題はないが、一方的に地球だけの知識が流れているのだとしたら、そこに少々作為的なものを感じる。

 気のせいなら良いんだけど、私も“立場”を表明してどの程度の浸透具合か確かめる意味もあったのです。


「……え、あ…」

 唐突に私が貴族としての礼を執ったので、ビアンカの再起動が一瞬遅れた。

「……失礼しました。私はこのセイル国第二王女、ビアンカ・フォン・ド・セイルと申します…」

「ええ、先ほどお伺いしましたわ、ビアンカ様。二度も名乗らせてしまって申し訳ありませんわ」

「そ、そうでしたわね…」

 私が薄く微笑むと、ビアンカは最初に名乗ったことを忘れていたのか、一瞬悔しそうな顔をして、また薄い眉を吊り上げて私を睨んだ。


「……異世界の…“姫”…?」


 その声は、まだ床に座り込んだままのあの騎士の呟きだった。

 そんな呟きが漏れると、停滞していた時が流れるように周囲からざわめきが溢れる。

 まだ混乱しているのか。

「あら、どういたしまして?」

 他国の王族をこんな場所に立たせたままなんて、どういうことかしら? ……そんな感じに困った顔を作って首を傾げてみせると、良識がありそうな年嵩の騎士が寄ってきてビアンカに何事か囁く。

「……そ、そうですわね。ユールシア…様、どうぞ私とご同行願います。我が父……このセイル国の王陛下と謁見していただきますわ」

 そう言うとビアンカは、ここに召喚した経緯の説明も詫びもなく、言いたいことだけを言って背を向ける。

 私は別に良いんだけど……。

「お待ちなさい。彼ら(・・)はどうなさるつもりですの?」

 私は呼び止めると、視線だけで地球から召喚された四人を指し示す。

「……あ、」

 私の言葉に、忘れていたのかビアンカが狼狽えたような声を漏らした。まぁ、半分以上は私のせいだけど。

 あの四人は、私の視線を受けてビクッと身を竦ませていたけど、こんな異界で放っておかれずに済んで何処かホッとした顔をしていた。

 私としても彼らを蔑ろにするつもりはない。

 何しろ、この城である程度でも信じられるのは、この四人だけだと思う。

 全員ではないとしても、この国はどうも胡散臭い。甘く腐敗した貴族特有の匂いがしますから。

 王との謁見か……。少しは愉しめるといいんですけど。

 この国から、少しずつ“浸食”していきますからね。


「やぁ、美しいお嬢さん。あなたが今回の召喚された人かな?」


 開いたままだった大扉から、そんな声を掛ける人物が現れた。

 紺色の仕立ての良い衣服の上に、玉虫色の部分鎧を纏った背の高い男性で、黒髪に黒に近い茶の瞳と黄色人種っぽい肌は、この世界の誰とも違って、あの召喚された四人に近かった。

 もしかして……日本人?

 年の頃は三十歳くらいでしょうか。彼の元にニヤついていた騎士の一人が近づきそっと耳打ちすると、彼は微かに頷いてから私の所に歩いてくる。

 ……あれ、この人って……


「失礼しました、異界の姫君。私は綺堂(きどう)京時(きようじ)。……是非、キョージとお呼びください」


 ……誰だっけ?



  

 

 お前は、今まで食べたパンの数を覚えているか?


 次回は修正+α 王との謁見です。

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― 新着の感想 ―
BAD END
京時………って死んでなかったの!? ああ、折角生き延びたのに、また死亡フラグが生えてきたよ? にょきにょきと。
[一言] 命拾い....してないよな綺堂君、再会が早いね フラグ回収おめでとう
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