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悪魔公女Ⅱ ~ゆるふわアクマ旅情~【書籍化&コミカライズ】  作者: 春の日びより
第二部 第二章・シンデレラの砂時計 【現代編】

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2-10 悪意の気配 ①

 クライマックスまでシリアス多めです。 4/6一文追加しました。

 




 二句之ハムの創業70周年パーティーはつつがなく終わりました。

 王子くんと私の婚約話は、結局保留状態が続行しているけど、私達の気持ちを第一に考えてくれるように王子くんが説得したらしい。

 あの()のように可愛い美茄子ちゃんは、それでも私を『お姉様』と呼んでくれる。

「あのぉ、柚子お姉様ぁ」

「なぁに、美茄子ちゃん」

「私も、お兄ちゃんみたいに、スリムになりたいのっ」

 モジモジと業務用チーズの塊を囓りながらそんな可愛いことを言ってくる美茄子ちゃんに、私は優しく微笑んでそっと頭を撫でてあげた。

「食わないで歩け」


 それはそうと、公貴くんや華子から聞いた話によると、パーティー会場で美茄子ちゃんを泣かせた不届きな輩が居たらしい。

 美茄子ちゃんと周囲の目撃情報を統合してみると、ドリルのようなツインテールで、ピンクのフリフリプリンセスドレスを着た小学校高学年くらいの、行儀が悪いけど可愛い女の子だそうな。

 ……あれぇ? なんかそんな物体が居たような気がするよ。

 名前なんて言ったっけ……。それで、その子なのだけど、翌週から学園で見なくなったらしい。そうそうマツリだったね。もちろん覚えていましたよ。

 あんなに自信満々だったのに、何で学校休んでいるんだろ? まぁ、何かやらかしそうな雰囲気だったし、居ないほうが平和で良い。

 あれって一見美味しそうに見えるけど、考えることが薄っぺらでそんなに食指が動かなくて、あんまり興味がなかったのよね……。会話もあまり覚えてないし。


 そんな感じであのヒロイン様が居なくなって平和な日々が始まる。……とはいかなかった。

 まずは学園周りに変な人達が彷徨くようになって、月に一~二回、警備員さんや警察まで動くようになっている。

 その人達は例の如く“何か”に取り憑かれた人で、特に騒ぎを起こすことはなかったけど小学校周りを彷徨くには怪しすぎた。

 そしてその側に剃髪の男性もよく見かけるようになった。服装は普通なんだけど、目付きや体格が一般人とは違うのよね。


 後は私のことなんだけど、身体の不調がここに来て本格的になってきたのです。

 悪魔の魔力に人間の身体が耐えられないのかと思っていたけど、どうやらそれだけではないみたい。

 最近微熱が続いているし、身体もだるい。私が隠しているから周りの人はまだ身体が弱い程度の認識しかないけど……。

 これって……私が中学の時に発症した病気かも?

「……拙いなぁ」

 どうして発症が早まったのか分からないけど、発症したら私はほぼ助からない。

 移植をしなければいけない病気で、それをしても生存率は50%。そしてその時は親族に適合者が居なかったから。

 でも今の私なら助かる方法もある。

 記憶を全て取り戻して、完全な【悪魔】に戻ることが出来たら、人間の病気なんて意味が無くなるはず。

 でもそれは、人間としての“柚子”を辞めると言うことで、家族とも別れなくてはいけないかも知れない……と言う意味になる。

 まぁ、そうじゃなくて、ただの風邪かも知れないから何とも言えないけど。


「どちらにしろ、記憶は取り戻さないとダメだよね」


 そうして色々と厄介なことになりそうな予感を抱えながら、私は六年生になった。


   ***


「兄貴っ、どういう事だよっ!」


 新学期を迎え中等部の三年生になった恩坐は、ある日、久しぶりに一番上の兄に本堂へ呼び出された。

 恩坐も父や兄が、去年から状況が変わったように忙しくしていたことを知っている。それがあの【邪悪】に関することだとは分かっていたが、恩坐はその存在を一方的な見方から“邪”であると断ずることを悩んでいた。

 そこに兄から衝撃的な事実が伝えられる。

「新たな巫女となった少女から、高峯学園の初等部に【邪悪】がいると【神託】が下されたのだ」

「それが、あいつだって言うのかっ!」

「そうだ。神託では四集院華子と塔垣柚子。この二名が特に怪しいと言われ、現在、邪を封滅する【十二刻の砂時計】の効果を高める為に、この街を結界で固めている」

「俺は両方とも知ってるけど、あいつらはそんなんじゃっ」

「恩坐、アレはこの世界に居てはいけない存在だ。完全な状態で解放されれば、人間の発展してきた歴史そのものが根本から覆される」

「でも、間違いだったら……」


 術式を高める結界は、その二人の少女を中心に掛けられる。

 本来なら結界を掛けても、術式を掛けられている【邪悪】にしか影響はないが、街が一つ分の結界なら、本人達にかなりの悪影響が出るだろう。


「この国を……いや、世界を救う為だ。少数の犠牲も仕方がないと思えっ、お前も退魔師の家の者だろうっ!」

「……っ」

 兄の――退魔師としてこの国を守る者の言葉に、恩坐は愕然とする。

「この地域の僧として我らにも任が与えられた。お前はその二人の動向で何かあったら報告しろ」

 そう言い残して兄は恩坐に背を向ける。

「………」

 本堂にただ一人残された恩坐は、爪が食い込むほど強く拳を握りしめて、小さく言葉を漏らした。


「………俺が何とかしてみせる」


   ***


 新学期を迎えた高峯学園初等部にある人物が舞い戻った。

 彼女の名前は、桜咲マツリ。

 一時は行方不明になったとも言われていたが、戻ったマツリは不敵な自信に満ちた顔をしており、そんな彼女に付き従うように数名の男女が新たに転入してきた。


「やっぱり珍しいね、こんな最終学年になって複数の転入生なんて」

「ああ、そうだな。少々気になったので調べさせたが、あまりはっきりしたことが分からなかった」

「さすが公貴くん。でも、久遠家でも分からなかったの?」

「素性はわかった。実家がかなり大きな寺の子供だと思う。だが、九州から北海道までバラバラのあいつらが、どうして同時期に転入してきたのか理由が分からん」

「……もしかして、あの人がらみ?」

「ああ、俺や王子にいきなり声を掛けて、普通は知らない内情までべらべら喋りやがったあの変な女とずっとつるんでる。王子も気をつけろよ」

「僕よりも公貴くんのほうが、ずっと絡まれているじゃないか」

「……面倒なんだよなぁ」

「校内でも彼らに付き従うような人が増えてきているから、何があるか分からないね」

「一人きりは出来るだけ避けたほうがいい」


 校内にある借りっぱなしの会議室で、公貴くんと王子くんがそんな話をしていた。

 六年生の一学期が始まって数ヶ月経つけど、マツリの方から私に接触はない。されても困るけど……。

 この会議室に集まるのは勉強の為なんだけど、最近の二人にはずっと校内の情報交換をする場になっている。

 まぁ、勉強が必要なのは私だけと噂もあるけど気にしたら負けだ。

 男の子二人の会話を私と華子はお勉強しながら大人しく聞いていたんだけど……


「……こほ、」

「華子、大丈夫…?」

「ごめんなさい、少し咳き込んだだけですわ。柚子様も、あまり顔色が良くありませんが……」

「私は小さい頃からだから、ある意味慣れてるかなぁ」


「「………」」

 そんな私達の様子を、男の子二人が会話を止めて心配そうな顔で見つめている。

 私の体調が悪くなり、それから少しして華子の体調も悪くなった。

 その症状は私と似ている。私の場合は悪魔の力が有るから多少具合が悪くても無理矢理動けるけど、ただの人間である華子は、どんどん体力が削られているように見えて、最近は休み時間でも自分の机でジッとしている時が多い。


「……すみません、少々席を外しますわ」

「あまり一人にならないほうがいい」

 華子の言葉に公貴くんが席を立とうとすると、華子は慌てて手を振った。

「あ、あの、……お手洗いに」

「あ、……ごめん」

「私が一緒に行こうか?」

「大丈夫ですわ。柚子様も調子が悪いのに、付き合わせたら申し訳ないですもの」

「……うん」

 そう言われると、無理に付いていくと華子が気に病みそうな気がして、私は何も言えなかった。

 この階には来客用のトイレしかなく、生徒が使えるトイレは階段を下りてすぐの場所まで行かなくてはいけない。

 ……ちょっと遠いかな。

「やっぱり、私も行ってくる」

「うん、柚子ちゃん、華子をお願い」

 華子が出て行ってから2~3分しか経ってないけど、私が行くと言うと心配していた公貴くんから頭を下げられた。


 公貴くんと王子くんが、最近の校内の様子を気にしているのには訳がある。

 私がこうして廊下を歩くだけでも、何か嫌な視線を向けられる時があるのです。みんなもそれに気付いて常に気を張っている。

 私? 私は【人間】が“大好き”ですから気にしませんわ。

 ……正直言いまして、他人の悪意とか『美味しそう』としか思えないから、気にしていない。華子達に手を出されたら別だけどね。

 でも、この校内に薄く感じる“気配”って……例の悪意に取り憑く奴だよね?

 気配に疎い私でも気付いているのに、鋭い勇気くんはどうして何も言ってこないんだろ? 彼とは一学期に入ってからあまり会ってないんだよ。

 美紗も最近、ラーメン屋の方に来てないって心配しているし、何をやってるんだろ?


『……どいてくださいっ』


「……華子?」

 階段の踊り場辺りから華子の声が聞こえたような気がした。

 急いでそちらに向かうと、そこには数名の美少年を引き連れたマツリが居て、華子を取り囲んでいた。……彼らが例の転入生達か。


「あら、華子。どうしたのぉ? 具合悪そうじゃない」

「……あなたに自己紹介したことはありませんわ」

「煩いわね……、悪役令嬢がヒロインぶってんじゃないわよっ」

「悪役って……」

「いいのよ、どうせあんたは長くないんだから、公貴くんのことは私に任せておきなさい。あんたも転生したのに上手くいかなくてご愁傷さまぁ」

「転生……? あなた何を言って」

「しらばっくれるんじゃっ、」


「何をしているの」


 私が不機嫌そうな声を出すと、その場にいた人達が一斉に振り返った。

 私は普通にしていれば問題ないんだけど、冷たい態度を取ると一気に人間味が消えるから、面白がっていた野次馬達が波が引くように私の為に道を空ける。

 ……ここの人達も軽くだけど“気配”の影響を受けているね。

「柚子様っ」

「華子、こっちに来なさい」

 私の言葉に華子が急いで私の所に来る。……何故、嬉しそうに頬を染める。


「……やっぱりあんたが柚子だったのね。……モブ子」

 マツリが私を睨むように見て、奥歯を噛みしめるようにそう言った。

「あら、ごめんなさい。不審者に名乗るなんて不用心なマネは出来ませんでしたから」

「不審者ですってっ。モブだから優しくしてあげりゃあ調子に乗りやがって」

「言葉遣いに品がありませんわね」

「煩いっ! 私はこの世界の、」

「あ、華子、ちょっと先に戻ってて。ちょ~っとお話していくから」

「聞きなさいよっ!」

 相変わらず騒がしい子だなぁ……。

 華子は私の言葉に少し逡巡していたが、私の態度に初めて話した日の襲撃事件を思い出したのか、深く頷いて会議室に駆けていった。

 男の子達を呼んでくるのかな? あの二人がマツリと関わると面倒になりそう。


「ちょっと、いい加減にしなさいよ、あんたっ!」

「私は何もしてないけど?」

「私はこの世界のヒロインなのっ! あんた達来なさいっ」

 マツリの言葉に周りにいた転入生の美少年達が近寄り、彼女の前で跪く。

 こいつらも憑かれてるな。……どうやって集めたんだ、こんな連中。まぁ一番やばい感じに憑かれているのはマツリなんだけど。


「ふふふ……どうよっ! これが私の魅力よっ。不思議な【声】が教えてくれたわっ。私の魅力を使えばこの世は思い通りになるってっ。私は【巫女】になって国の偉い連中からも傅かれるような人間なのよっ、あんたや華子みたいなモブとは違うのっ、あはははははっ、ウケるぅ」


 随分とぺらぺら喋ってくれるのね。ただ変なモノに取り憑かれたんじゃなくて、あの“気配”の巫女?として力を授かっている感じなのか。

「それで……?」

 私が冷たい声で呟くと、馬鹿笑いをしていたマツリや、その周りの子達が顔を引き攣らせた。私、ちょっとムカついている。私に悪意を向けるのは構わないけど、華子達にも向けるのなら……

「私をどうしたいって?」

 少しずつ悪魔の気配を滲ませて前に進むと、マツリはビクッとして後ろに下がる。

「ふ、ふんっ、そんなこと言えるのも今のうちだからねっ、あんた達、行くわよ」

 マツリは早口でそう言うと美少年達を連れてどこかへ去っていった。

 ………まだ、薄っぺらだなぁ。熟成が必要か。


 マツリが去ると、もう野次馬達も散って、数名の女子生徒が残っているだけだった。

 私も会議室に戻ろうかと階段の踊り場から移動しようとした時、

 どんっ。

「…え?」

 誰かが私の背を押して、階段に突き落とした。

 落ちる途中でチラリと視線を向けると、残っていた知らない二人の女子生徒が、私を見ながらニヤニヤと笑っている。

 あ、この子らも転入生か。あの“気配”が憑いてなかったから気がつかなかったわ。

 ……と言うことは、この行動(・・)はこの子らの“()”か。

 それなら……

「手加減はいらないね」

 背中を押されてからここまで、まだ0.2秒ほど。悪魔としての身体能力を使う為に私の瞳が血のような真紅に染まる。

 私は落ちる途中で彼女達の手を掴み、ニヤついた笑みから“恐怖”に変わろうとしている二人を、久々に全力(・・)でぶん投げた。


『『……、』』


 二人の少女は一瞬で視界から消えて、悲鳴さえも残せず窓硝子を粉砕するようにしてこの世からも消滅した。

「あ、しまった」

 そこで困った事態が発生。制服の袖が空気の摩擦に耐えきれずにプスプス焦げた匂いを漂わせていた。

 替えの制服をロッカーから持ってこないとダメか。そう思って階段を下りようとすると、そこに唯一の“目撃者”を発見する。


「…………柚子……」

「あ……、恩坐くん…」


 どういう訳か、中等部にいるはずの恩坐くんが、初等部の階段の下から私を見つめていた。




 

次回、恩坐くんとの対話。悪魔と人間、どちらにつく?



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― 新着の感想 ―
食わないで歩け > ダイエットの真理だ! 間違いだったら→少数の犠牲も仕方がないと思え > 話が通じてないっ!? 間違えてても大丈夫って事ぉ!? 今まで「邪悪」としか伝えられていなかったのに、急に名…
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