2-08 小学五年生になりました ②
「柚子、可愛いわっ。よく似合うわよ」
初めてまともなパーティーに出席する私の為に、琴ちゃんが張り切ってコーディネイトしてくれました。
そんなに派手にならないように色合いは夜空色で、ふわりと裾が広がった膝丈のワンピースなんだけど、首元まで覆われていながら両肩が丸出しのアメリカンスリーブなので、地味に肌色面積が多い。ついでに背中も少々見えている。
小学生なんだからもっと子供っぽいドレスの方がいいんじゃないかとも考えたけど、私の雰囲気が子供らしくないそうです。
「……それ、褒められてるの?」
「あ、当たり前でしょっ」
なぜ、どもる。
それにしても、肩を出すのにほとんど抵抗がないのも自分で驚いたけど、それよりも膝丈の方に違和感を感じた。ドレスってもっと裾が長い感じがしていたんだけど、何ででしょ?
「……柚子って、ちゃんとしたドレス着るの初めてよね?」
「うん、そうだけど?」
「なんか妙に着慣れてない? しっくりしてると言うか、まるで普段から着ていたみたいに着こなしているから」
「う~ん?」
ああ、そう言えば、断片的な記憶の方のお城にいた私は、ドレスを普段から着ていたのかも。
そして本日は二句之ハム創業70周年記念パーティーになります。
私達のような関連企業関係者や同系企業、地元の名士や著名人、政治家さん達までやってくる大パーティーなのです。
そこに私達のような子供まで呼ばれるのは、後継者達の顔繋ぎと、ぶっちゃけ、縁を作る為の嫁候補選びでしょう。琴ちゃんが心配だ。
私は家族と早めに出て、行きつけのヘアサロンで軽くメイクをされて、髪をハーフアップに結い上げ、お母さんから貰った貝を削りだした花の髪飾りを付けてもらう。
でも小学生にメイクが必要なの? 悪魔系の私の肌はニキビどころか毛穴すら見えないから、メイクしてくれる人がファンデーションとチークを持って、途方に暮れた顔をしていた。
会場は高級ホテルの500人は入る大宴会場を三つも使うらしい。
ここまで人が多いと、普通に来ているはずの公貴くんや華子とも会える可能性はかなり低いと思う。
一応挨拶回りが終わったらメールで連絡して合流する話もしてるけど、あの二人は私とは比べものにならないほど挨拶が多いんだろうなぁ……。
私達は家族で来て、挨拶したりされたりしていたけど、まずお母さんが離脱した。
帰ったんじゃなくて、企業の奥様達に捕まったのか捕まえたのか、話が終わりそうになかったんで私達がその場を離れた。あそこはこの世の魔界だ。
次は大葉お兄ちゃんが二句之ハムの重役さんに捕まった。お兄ちゃんが就職したらお世話になる部署の人らしいので、そちらの話も終わりそうにない。
そして……
「そうだっ、柚子、向こうにケーキバイキングがあったのよっ。何か取ってくるねっ」
「あ、琴お姉ちゃんっ」
その後ろ姿が……本日、琴ちゃんを見た最後でした。また明日からスイミング通いが激化するのでしょう。
「お、お父さんは側にいるからなっ」
「失礼します、塔垣社長。当社の二句之がお話ししたい件があるので、おいでいただきたいと……」
「「………」」
お父さんも二句之ハム社長秘書の方に言われてそちらに向かい、私は面倒そうだから廊下に出た所にあるソファで休憩することにしました。
そこで華子にメールを打っていると、誰かが近づいて来る事に気付く。
「あ、モブ子っ、あんたなんでこんな所に来てるのよっ」
「ぶほっ、」
そこにはツインテールを見事なドリルにして、ピンクのプリンセスドレスを着た可愛い女の子が、私を仁王立ちで指さしていた。
……えっと、あ、マツリか。相変わらず顔だけは可愛いな。センスは昭和アイドルのステージ衣装並みだけど。
「あんたも一応はお嬢様だったのねっ。ぷぷっ、なにその地味なドレスはぁ? まぁ、所詮はモブだから手抜きされているのねっ」
「マツリはどうしてここに?」
「はぁ? 馬鹿じゃないの? ヒロインがいないパーティなんて“イベント”が起きないじゃない。パパが招待受けてるから、令嬢の私がいないとねっ。こんな可愛い娘を持ってパパも幸せ者よ」
「へぇ」
華子はもう少し掛かるのか。私は華子から来たメールに、私のほうは終わったと返信する。
「でもパパったら、最初は私のこと連れて行かないつもりだったのよっ。ただのモブ親のくせに気がきかないのよねぇ」
「ふぅ~ん」
「だから私、パパを困らせてやるんだからっ。モブ子、あんた私の取り巻き設定なら、凄い嫌がらせアイデアとかあるんでしょ?」
「……え、ああ、鶏のガラだったら良いの手に入るよ」
「なんで嫌がらせで鶏ガラなのよっ!? ホントあんたは使えないわねぇ」
ああ、ガラ違いか。そう言えば父ちゃんのところに良い物を回して貰ってるから、私も二句之社長に挨拶するべきだったかな。
王子くんにもメールしておくか。
「モブ子、公貴くん来てるはずなんだけど、見た?」
「ん~? 見てないよ」
「この前も公貴くんに、学校の曲がり角でぶつかったんだけど、イベントが発生しないのよ。やっぱり夜じゃないとダメなのかなぁ。パパったら久遠家の爺さんが引退したなんて話をしてるんだけど、バッカじゃないの。イベント終わってないのにそんな事ある訳無いじゃないっ。モブ子に話しても分かんないでしょうけどぉ~」
「ほうほう」
「やっぱり華子が何かしてるのかしら……。くそっ、腹立たしいっ。なかなか尻尾を出さないのよ、あいつ。あんた、何か華子の弱みは見つけた?」
「最近、公貴くんと上手く話せないらしいよぉ」
「へぇっ! ついに本性がばれたのねっ! いい気味だわ」
そうそう、今まで幼い恋心だったのが、早めの思春期で恋愛感情に突入したらしく、かな~り可愛い状態になって、公貴くんも二人きりになるとドギマギするらしい。
……間違いは起こさないでよ? フリじゃないよ?
「そうだっ、華子がいると思って良いの持ってきたのよっ。モブ子、隙を見てコレをこっそり華子の飲み物に混ぜなさい」
「ん? なにこれ」
「ふふふ、良いものよっ。モブが知る必要は無いわっ。ぷぷっ」
「あ、そう」
とりあえず面倒なので、そのままマツリが持ってきていた飲み物にそのまま入れておく。良い物なら問題ないでしょ。
「それとモブ子、美王子くんのことだけど」
ビクンッ。
「最近二句之家に関わってる女を知らない? どうやら彼の婚約者の座を狙っている奴がいるらしいのよ」
「それは聞いたこと無いなぁ」
王子くん最近モテるからなぁ……。そんな子がいてもおかしくはない。
「なんでもえっと……カボスとかザボンとか、柑橘系の名前らしいわ。そのくらい分かれば愚図のあんたでも調べられるでしょっ」
なにその、冷凍庫様の付属品みたいな奴は……。
うちの学園にも、私以外に柑橘系の名前の子がいたんだね。
「美王子くんのイベントも始まらないのよねぇ。結局音叉くんに知り合わないと何も始まらないのかなぁ。ホント腹立つ。モブ子もさっさと音叉くんを捜さなさいと、私の取り巻きから外すわよっ。モブが私と関わらなくなったら人生おしまいよぉ、あははっ、ウケるぅ」
そんな愉快なことを一方的に話した後、マツリは会場のどこかに消えていった。
相変わらず何がしたいのでしょ……? 私のことも人間じゃなくて物語の登場人物とでも思っているのでしょうか。
ハハ、まさか、そんなアホはいないか。
「……あら?」
そのままソファで携帯電話を弄っていると、間も置かず二つのメールが来た。一つはお父さんで、もう一つは王子くんだ。
どちらも内容はほぼ同じで、なんでも二句之夫妻が私に来て欲しいそうで、王子くんがここまで私を迎えに来てくれるらしい。
……これって王子くん絡みの話だよねぇ。
相変わらず会話が噛みあいません。
次回はちょっとシリアスっぽい、パーティの続きです。





