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悪魔公女Ⅱ ~ゆるふわアクマ旅情~【書籍化&コミカライズ】  作者: 春の日びより
第二部 第二章・シンデレラの砂時計 【現代編】

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2-02 小学三年生になりました ②

 ※勇気の話は若干シリアス成分多めになります。

 




 待ち合わせの時間通りに覆面も付けずに現れた四十万勇気くんは、さっきの行動を見られていたのか、挨拶も抜きに呆れた顔を向けてきた。


 私と勇気くんがこんな夜中に待ち合わせしたのは、こっそり逢瀬をしていた訳ではなく、どちらかと言えば私達はそんな感情とは程遠い。

 私達がどんな間柄かというと、地方の田舎から上京して苦労している時にバッタリ出会った、特に仲良くもなかった田舎の同級生……みたいな感じ?

 欲しいのは互いの“故郷”の情報だけ。

 それと……ほんの少しの仲間意識からくる“懐かしさ”……かな。


「それじゃ移動しましょうか」

「おい……、さっき何をしていた……って分かりきってるか。妙な実験は程々にしておけよ」

「気にしないの?」

「この世界の住人を……か? 別に誰が死のうが、殺そうが、俺には関係ない」


 殺伐としているなぁ。こっちの世界に転生した時に色々とあったみたい。

 私が何かしてても、人間辞めちゃった系魔導師の実験くらいに思ってくれるし、それに関して煩く言われた事もない。

 とにかくそんな感じで私達は移動を始めた。

 普通の人間のように乗り物を使う必要もないので凄く楽です。まぁこんな真夜中に小学生二人が乗り物使ったら目立つしね。

 勇気くんは後ろに続く私を気にもせずに、高い身体能力を使って、ぽんぽんとビルの屋上から屋上へ飛び跳ねていく。そして私も、特に何も言わずそれに付いていく。

 私もだいぶ【魔力】を使って身体を動かすことにも慣れてきましたよ。……そのせいか、腿の内側とかプニプニしてる気がするんだけど、どうしよう……。


「ここら辺でいいんじゃない?」

「そうだな」


 工業地帯の一角に大きな廃工場を見つけて、私達はそこへ降り立った。

 私と勇気くんが夜に会っていたのは、情報交換の為です。ただの情報だったら学校でも良いんだけど、勇気くんはあまり前世のことは話したがらないし、私が知りたいのは彼の世界の【魔術】のこと。そして勇気くんが知りたいのも、次元の壁をこじ開ける私の【魔法】だった。

 だから人の居るところでは実践も出来ないし、毎回場所も変えている。


「…『万物の根源たる炎よ、我が手に集いて、矢となり敵を討て』……フレアアロー」


 パシュンッ、と勇気くんの手から30センチ程の炎の矢が飛び出して、コンクリートの壁を少し焦げさせた。

「お~~っ」

「基本は呪文を丸暗記して、【炎】の【矢】を【撃つ】と明確なイメージがあれば発動する。もちろん、この世界の人間では【魔力】がないから発動はしない」

「……呪文?」

「さっき俺が唱えていた言語がそうだ」

「ああ、なるほど。変な風に聞こえるなぁ……と思ってたけど、翻訳されてたのね」

「翻訳……? お前、【翻訳スキル】持ちか?」

「スキル…? なにそれ?」

「……柚子が居た世界ではこっちと同じで【スキル】が無いのか。……いや、概念がないのか? 俺も通常スキルは無くなって【秘術】系しか使えなくなっているが……その違いは何だ? それに、そもそも翻訳スキル程度で呪文の意味までは…」

「おーいっ、戻ってこーい。別に……私が使ってるのはただの【言葉】だよ? もっとも“人”が使う言葉じゃないけど、それを知っていると勝手に翻訳されるの」

「まさか、高位精霊属性言語か……? 噂には聞いたことはあるが、人間には発音できない言葉だぞ? だが、そうなると……呪文が意味をなさないな」

「え……、どういうこと?」

「お前が使っているのが、もし高位精霊言語なら、【言葉】に魔力を通すだけで、本当の意味での【魔法】になるはず。俺が使っているのはあくまで、人間に使えるようにした“劣化版”だ。……俺が呪文の意味を分かるようになるまで、どれだけ掛かったと思ってるんだよ……」


 勇気くんが珍しく年相応の拗ねた顔を見せた。どうやら前世でも生真面目な秀才くんだったみたいだね。

 そう言えば無意識にやってたけど、あの廃校でも【神霊語】で魔法を使ってたわ。

 私は勇気くんのマネをして片手を離れた壁に向ける。

「…『炎よ出ろ』…」

 …ぷすぅ。

「「………」」

 ええ~……なんでこうなるの?


「柚子は魔力だけは強力だ。それこそ人間離れしているが、それが影響してるのかも知れん。俺が柚子を最初に見た時もその魔力を感じたから警戒した。ステータスは見られなかったが……」

「すてーたす? なにそれ?」

「…………」

 勇気くんは少し話しすぎたと思ったのか顔を顰める。でも現状は協力体制というか、“共犯者”のような形だから諦めたのか、物分かりが悪い私に丁寧に説明してくれた。

「ああ、ゲームみたいな感じか」

「……まぁ、そんな感じだ。俺もこの世界の言葉に翻訳する時、それが一番しっくりしたんだけど……これでも【勇者の秘術】なんだぞ」

「ふぅん」

 ………やっぱり、彼は【勇者】系か。

 納得すると同時に、私は勇気くんを【悪魔(わたし)】の天敵(・・)だと認識する。

「……なんだ?」

「ううん、勇気くんもゲームなんてするんだなぁ……って」

「し、仕方ないだろっ。今の両親が買ってくれるんだ。やらないと不自然だろうがっ」

 適当に誤魔化した私の言葉に、勇気くんは顔を赤くして言い訳じみた事を言う。今のご両親は良い人なんだね。私の家族も負けてないけどっ。

 ポン。

「その妙に良い笑顔で肩を叩くなよっ」

「ふふふ」

「……ちっ。柚子、ステータスを見せろ。学園じゃ時間が掛かるから見られなかったんだよ。その間、ジッと見つめていないといけないから、不自然だろ?」

「うわぁ、私も見てみたいっ。……けど、どうやって見るの? 私にも使える?」

「……俺が使う。消費する魔力によって掛かる時間が違うが、最大魔力で5分間。消費を抑えれば30分ってところか」

「では5分で」

「少しは遠慮しろ。こっちは普通の人間だぞ」

「普通ねぇ……」

 勇者様は普通の人間じゃありませんよ?


 その前に軽く説明。通常の人間の平均値を教えてもらった。

 体力:100 精神力:60

 筋力:12

 防御:10

 敏捷:10

 器用:7

 魔力:8

 これが一般的な成人男性のステータスらしいけど……。


「体力1ってどれくらい? 何を基準にしてるの? 虫の精神力ってどうなるの?」

「……難しい事を聞くな」

 だって気になるじゃん。ゲームの世界じゃないんだもん。

 勇気くんの説明によると、大昔の魔導師が【大精霊】との話し合いで決めたらしく、数値はおおよそであり、細かい数値は“切り上げ”らしい。

 だから蚊でも蝉でも同じ【体力1】で、虫は普通に踏んだだけで死ぬけど、小動物で同じ【体力1】が居ても、踏んだ程度では死なない場合がある。

 要するに同じ【体力1】でも、“切り上げ”だから実際は0.1かもしれない。

 それともし、【体力1】の人間が居たとしても踏んだだけでは死なない。これには身体の大きさによる耐久値と防御値が存在するので、軽く蹴るか殴るかしないと体力は減らない。……そんなおバカな生物はあり得ないけど。


 まぁ、とりあえずこれからは、魔法は良いとして【スキル】の事と、彼が話してくれなさそうな【勇者の秘術】を聞き出すことを目標としよう。


「では、ジッとしてろよ」

「五分って長いよね……」

「俺の苦労を労え。それに魂の情報を見るんだから、時間が掛かって当たり前だろ。上手く発動したら床に情報が数秒焼き付くようにしておいたから、見逃すなよ」

「了解」

 なんだかんだ言って勇気くんは意外と親切です。お人好しと言い換えても良いけど、育ちが良いんだろうね。

 そして勇気くんから魔力が感じられて……数分後。


「…っ!?」

「勇気くんっ!?」

 勇気くんが突然顔色が悪くなり、ダラダラと汗を流して地面に膝を突いた。

 何が起こってるのっ?

「……あ、」

 駆け寄ろうとした私は足下に光る文字が浮かんでいることに気付いた。今は見なくてもいい。……そう思っていた私の視界に、その異様な文字の羅列が光となって飛び込んできた。


 名称:ερ‰$¢σα£ 年齢:8歳 種族:ξιαβολ 性別:女性

 体力:57 精神力:μεφΨ?ι‰$£ゞ∞∈μζ……

 筋力:5

 防御:4

 敏捷:7

 器用:2

 魔力:μεφΨ?ι‰$£ゞ∞∈μζ……


「なにこれ……」


 ……何で【器用】がこんなに低いの!?


   ***


 四十万勇気は九年前、普通の一般家庭に生まれた。

 家族は両親に姉と自分との四人家族で、母のお腹にいる子が生まれれば五人家族になる。三歳上の姉は妹が生まれると信じきっていて、一緒にチャンバラやゲームをしたがる父と他愛のない言い争いをして、それを母親が微笑んで見つめていた。

 そんな幸せな家族の中で、勇気だけが違っていた。

 普通に接していながら、いつも彼だけが一歩引いていた。まるで必要以上に関わるのを恐れるように。


 風の勇者・フォーテリス。それが勇気の【前世】の名前だった。


 生まれ落ちて、目も碌に見えず耳も良く聞こえない赤ん坊は、心の中の怒りと憎しみで産声を上げた。

 勇気は――フォーテリスは裏切られた。人々を護る仲間であり、友であり戦友でもあった他の“勇者達”によって。


 勇気の居た世界【テス】では人間、エルフ、ドワーフを中心とした【光の勢力】と、ダークエルフ、獣人、知性ある魔物を中心とした【闇の勢力】が、数千年も不毛な争いを続けていた。

 力が強く、他から奪うことを得意とするからこそ【闇】であり、戦争により劣勢に立たされた【光の勢力】は、戦いの先頭に立つ【勇者】を求め、当時の天才魔導師や司祭達が長い時間を掛けて、勇者の為に【秘術】を完成させた。


 別名【勇者システム】。

 本来【勇者】は、人類に危機が訪れた時、適性者に光の精霊が加護と守護を与えることで生まれる。だが種族間の抗争を、光の精霊は“人類の危機”とは捉えず勇者は生まれなかった。

 そこで【勇者の秘術】により光の属性を無理矢理候補者に与え、半ば人工的に勇者を作り上げ、一部の者は実際に光の精霊の加護まで賜った。

 だが、それはあまりにも難解で多くの魔力を使い、才能と言うよりも【魂】の強さが必要だった。

 扱える者も少数は居たが、百年に一人や二人ではどうしようもなく、魔導師達は大規模な魔術と大量の魔力を消費して、【異世界】に勇者を求めたのだ。

 次元を渡れるような魂は強靱である場合が多く、呼び出された異世界人は全員ではなかったが強い力を発揮して、劣勢を覆すことが出来た。


 その当時に生き残った四人の勇者は、四大元素の銘と、大陸の中でも歴史のある四つの大国の王女を娶り、それぞれが王となった。

 それからも千年以上、光と闇の争いは終結することなく、何千人という異世界人が召喚され続けた。


 勇者は四人と決まっていないが、どの時代も四人を超えることはなかった。それほどまでに【勇者の秘術】は難解であり、魂の強さを必要としたからだ。

 勇気の居た時代、勇者は、召喚されたばかりのまだ幼さが残る少年達が三人だけで、唯一勇者を召喚できなかった大国ハッコーの王は、騎士団長の息子で、もっとも才能に溢れていた騎士・フォーテリスを勇者が召喚されるまでの替わりとして立たせた。


 フォーテリスは力こそ異世界の勇者に及ばなかったが、生来の生真面目さから他の勇者が会得できなかった【古の秘術】まで会得し、癒しや結界の力で、戦場で力を見せるようになった。

 そうなると、いきなり勇者として崇められ傲慢な態度を取る異世界の勇者より、民は同郷の勇者に期待を寄せる。

 そして、フォーテリスの名声が高まってきた頃、ダークエルフの王を暗殺する為、少数精鋭の勇者四人と数名の従者だけで旅立ち……風の勇者・フォーテリスは、異世界の勇者達によって嬲り殺しにされた。


 友だと思っていた戦友達の裏切り。金と名声に目が眩んだ同郷の従者達の卑劣な罠。

 苦しみと痛みと絶望の中で暗闇に飲み込まれ、目を覚ました時には赤ん坊になって、この裏切りの勇者たちの故郷で生まれ変わっていた。


 故郷の為に戦う気は無くなった。勇者達の故郷であるこの世界も憎しみの対象だ。

 そんな中で唯一、この世界でもあの故郷でもない、別の世界から来た、人間かすら怪しい“柚子”と言う少女だけがわずかに気を許せた。


 最初に彼女を見たのは小学校入学の時。

 気がついたのはこの世界でほぼ枯渇している魔力を彼女から感じたせいだが、その人を惑わす魔物のような美貌に、勇気は柚子を警戒した。

 だが、そして人外の魔導師だと当たりを付けたが、その性格は非情ではなく無邪気であり、人間と動物の命の価値の違いが理解出来てない“妖精”のような少女だった。

 彼女の力を計る為に鑑定を行い、その情報量の歪さから目眩を起こしてしまった勇気は、上位鑑定でさえ表示しきれない彼女の魔力値が、自分の魔力を大きく上回っている証拠だと気付いて静かに笑みを浮かべる。

 そんな柚子さえ利用して勇気は静かに牙を研ぐ。

 いつか必ず元の世界に戻り、あの勇者達に復讐するために……。





テンプレストーリー

『裏切りの勇者 ……俺はお前達を許さない。』追加


次は土日更新予定です。 次回、ついにあの人物が再来襲します。


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― 新着の感想 ―
何で【器用】がこんなに低いの > 超不器用。つまりそういう事だわな。そういえばドラゴンハーフTRPGにはバツ技能だか、そんなのがあったなあ。自分は得意だと思ってるのに実は真逆という技能。 テスとか、…
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