004 懐かしの塩大福
ユールシアです。お久しゅうございます。
別にサボっていたわけではないのです。しばらく他の世界を温かく見守って、時には皆さまの幸せをお祈りさせていただいていたわけですが、久々に自国へ戻ってみると仕事がてんこ盛りに溜まっておりまして、相方の黒ニャンコが目に下の隈を浮かべて私の代わりをしておりました。
……魔獣のくせに生真面目な黒ニャンコめ。豪快で残忍で繊細って、昔から変わっていないけど、そんな怒らなくてもいいじゃない。
てなわけで久しぶりに地元の仕事をすることになりました。
私は数年前から我が国にて『冒険者』なる職業を創り出しました。ファンタジーの世界なんだから冒険者なんて当たり前……って意見もあるかと思いますが、元々こっちの世界で魔物はそんなに涌きませんし、街道や辺境の村を襲う危険生物を倒すのは兵士の役目でありました。
よく考えれば当たり前のことです。身の安全を保証してもらうために収入の半分以上を税金として収めているのですから、村が危険生物に襲われても村人が自腹を切って他者に頼むのではなく、兵士が派遣されて問題を解決するのです。領主の力が及ばない地域に出掛ける時は傭兵団がいますしね。
それで、どうして私が『冒険者』と『冒険者ギルド』なるものを作ったのかと申しますと、ぶっちゃけ経費削減のためでございます。この大陸も平和になって戦争する機会が減ったことで、兵士の一部を生産系に回し、兵士の仕事の一部……害獣駆除などを一般の冒険者に任せて、討伐数に応じて国が補助金を出すことにしたのです。
まぁ、害獣が減れば仕事は無くなるけど、そんなこと知ったこっちゃないという悪魔の所業にございます。
でも初めてみると意外と面白いことが起きはじめました。
討伐数で貰えるお金が変わるので、冒険者たちは兵士の管轄外だった領地と領地を結ぶ街道の害獣を狩るようになり、どっかの世界の真似をしてランクを設定してやると、超危険生物だった旅人を襲うカバやサイまで狩るようになったのです。
カバ怖いからね。野良の下級悪魔よりも怖いからね。兵士を前に出して労災に税金なんて使いたくないので助かります。たまに調子に乗った冒険者が象の群に手を出して蹴散らされるのはご愛敬です。
そうしているうちに強い冒険者パーティーもチラホラ現れはじめました。以前お姉様たちが所属していた『勇者パーティー(笑)』みたいな感じの人たちです。
まあその勇者(笑)さんは、真の勇者であるノエルきゅんに身の程を思い知らされ、仲間たちの『聖女(塩大福)』と『女騎士』に見捨てられて、唯一残ってくれた私の二番目のお姉様と……名前なんだっけ? と田舎に帰って農家をしています。
女王になってからそのお姉様にも会う機会があったのですが、なんというか、子どもが沢山いて、すっかり農家のお嫁さんになっていました。元公爵家のご令嬢なのに。
まあ、そんなことはどうでもいいのですが、その強くなってきた冒険者パーティーで最近面白いことが起きはじめていたのです。なんと強くなってきたパーティーからメンバーが『追放』される事態が起きていたのです。
なんて酷いことを! この鬼! 悪魔!
そんなわけで、人当たりのよい事務系悪魔……例の転生者や転移者を大量に送り出す名産地である例の世界から堕ちた、眼鏡にネクタイの社畜悪魔を派遣して彼らの意見を聞いてみました。
追放された冒険者A(仮名)さん、『聖女(塩大福)』さんの証言。
「いきなりパーティーを追放ってどういうことですの!? これでもわたくしエルフの聖女と呼ばれておりますのよ! 以前は勇者パーティーにも在籍していたわたくしがいるだけでも箔がつくというのに、回復が遅い? 仕事をしてない奴に分け前は払えない? そんな馬鹿な話がありますか!? あの程度の怪我で毎回神聖魔法を使っていたら、魔力なんてあっと言う間に尽きますわ! 私はパーティー全体のことを考えていたのです! そんな私をパーティーから追放するなんて何を考えておりますのっ!?」
……あの人、まだこの国にいたんだ。でも、変な種族名で変な名前なだけで、バカにするなんて可哀想です! 羽虫でも一生懸命生きているんですよ!
どこかの勇者と良い仲になりたいけど、胸部装甲が薄いからうちの宗派に縋ろうとして、寸前で教祖が私だと気づいて、無駄に高いプライドから縋ることができなかったのに、それでも私から声をかけられると信じて、ずっとこの国にいる彼女が可哀想だと思わないんですか!?
続いて次の人に行ってみましょう。
追放された冒険者C(仮名)さん、『女騎士』さんの証言。
「私だって一生懸命やってたんです! 以前は勇者と肩を並べて前衛で戦っていましたし、確かな経験があります。武器や装備も出来るだけ良い物を揃えて、後衛に負担がかからないように気をつけていました。私がいなかったら回復役の魔術師が襲われて大怪我していましたよ。私は青春をすべて剣技に捧げてきました。そこら辺の戦士なんかに負ける気はしませんし、きっと私が抜けたことで今頃後衛が大怪我をして後悔しているんじゃないでしょうか?」
なんて酷い。あの人、見かけは美人ですけど、中身は私の最初の護衛騎士だったサラちゃんやブリちゃんと同年代なんですよ! 二人ともようやく下級貴族と結婚して子どもまで出来たのに、自分から捨てた勇者(笑)に未練タラタラなんて、どう見ても不憫で涙無しには見ることができません!
こんな感じでいきなり冒険者パーティーを追放された人がいるようです。
回復役といい盾役といいどちらもパーティーの要で、上位の冒険者パーティーだと、戦い慣れた人なんてすぐに代わりが見つかるわけはないので、確かに困っているかもしれません。
きっと優秀で美人で素敵な彼女たちを追放したことを、元の冒険者パーティーメンバーは今頃後悔しているに決まってます。
そんなわけで追放した側の冒険者パーティーの意見も聞いてみることにしました。
聖女を追放した冒険者パーティーのリーダー、男性戦士(26)
「A(仮名)さんですか? 最初は勇者パーティーにいた〝聖女〟と聞いて驚きましたよ。しかも、あの有名な聖王国タリテルドのほうから来たと聞いて、諸手を挙げて歓迎しました。
でもねぇ……あの人、大魔法しか使わないんです。確かに勇者パーティーに比べたらうちは装備も貧弱ですから怪我もしますよ? でも、大魔法で回復するんじゃなくて、ちまちまと回復してくれたり、被弾率も下がる地味な弱体魔法も使ってくれるようにお願いしたんですけど聞いてくれないし、あの人最初に加護とか色々使っちゃうんで、魔力ポーション代も馬鹿にならないし、そのくせ最上級の宿屋にしか泊まらないとか言う人なんで、仕方なく辞めてもらいました。
それに、調べてみたら魔族領との国境で、彼女は傷害事件を起こして有罪になってるじゃありませんか。しかも、後から聖王国出身の人に聞いたんですが、『聖女様』は各宗派で存在するけど『聖王国の聖女』はたった一人だけで、しかも、うちの国の女王様がその聖女様なんでしょ? これって罪にならないんですか?」
女騎士を追放した冒険者パーティーのリーダー、女性魔術師(28)
「C(仮名)さんかぁ……色々凄い人だったね。勇者と一緒にいたんだって。確か大陸中央の勇者ってノエルって伯爵様でしょ? 凄いよね。でもさぁ……だからって、それをうちらに求められても困るんだよ。強い敵と戦いたいんだと思うけど、あの人の戦い方って対人戦向きで、獣とかだと鎧が重くって追いかけられないんだよね。それでも盾役としたら大したもんなんだけどさ……。だからって、装備とか騎士様なら良い物を揃えるのに、パーティー名義で勝手に買っちゃうんだよ。そりゃある程度はこっちでも融通するけどさ、さすがに困るんでパーティー抜けるか買い物控えるか、どっちかにしてくれって頼んだら、装備持ったまま辞めちまったよ。
辞められて困ってないかって? そりゃ困ったよ。でも、新しく入ってくれた女戦士はあの人ほど上手くないけど、うちらだって馬鹿じゃないから、自分たちの実力にあった敵を狩るだけさ。元々、あの人がやたらと強い敵と戦いたかっただけで、うちらは命のほうが大事だからね。
それに……、うちのメンバーは彼女と同年代が多いんだけど、みんなパーティー内でデキちゃっているから、酒呑むと絡んできてウザかった」
……あ~、え~っと……あ、そうそう! そんなこともあるんですよ! メンバーと仲違いとか、どっちもいい大人なんだからただの喧嘩で、どっちが悪いとか無いですよね!
まあ、仕方ない。音楽性の違いとか色々あるんでしょう!(たぶん)
昔の禍根とか、勝手に聖王国の勇者一行を詐称していたとかは別にして、ここは一つ大きな心で彼女たちに別の道を示してあげようではありませんか!
これでも私ってこの神聖ユルユール教国(血涙)の女王で、この世界を含めた複数世界の(邪)神様ですから、不可能はないのです。彼女たちが元いたパーティーを見返せるような最高の『パーティー』と『敵』をプレゼントしてあげましょう。
きっと彼女たちも元勇者(笑)パーティーの一員として、涙を浮かべて喜んでくれるでしょう!
*
「逃げました」
「……は?」
あれから三ヶ月後、彼女たちを見張っていたティナの一言に私は思わず間抜けな声を返す。
「最高のパーティーを用意したのよね?」
「はい。最高のパーティーと望まれたので、奈落で燻っていた『闇落ちした元勇者』と『喰人鬼の魔王』を一人ずつ、どちらも現世で『見目の良い人族』の依り代を与えて、彼女たちを勧誘させました」
「最高の敵を用意したのよね?」
「はい。とある世界で暴れていました『ばはむーと』なる魚をファニーが食材として一本釣りしてきましたので、彼らに〆てもらおうと彼らにぶつけたところ、元勇者と魔王が嬉々として戦いはじめた途端に、彼女たちが逃亡いたしました」
「…………」
なんてことでしょう……。これだけお膳立てしてあげたにも拘わらず、彼女たちは栄光を放棄して逃げ出してしまったようです。
元勇者も魔王もお魚さんも魔王級――野良の大悪魔と同じくらいの強さです。彼らには万能薬である、身体に侵食して回復するワカメの煮汁を渡してあるというのに、何故逃げたのか分かりません。
体長五㎞ほどのそのお魚さんを〆ることができれば、聖王国の勇者一行以上の賞賛を得られ、彼女たち好みの美男子をはべらせて、追い出したパーティーを見返してやれるというのに!
でもまあ、居なくなったものはどうしようもできません。きっと彼女たちは栄光よりも大事なものを見つけたのでしょう……愛(笑)とか。
仕方ないので魚は最近王都で『らうめん屋』を始めた恩坐くんに〆てもらい、私は彼女たちのような可哀想な人がもう現れないように、冒険者ギルドに教育係を付けることにしたのです。
それにしても彼女たちはどこに行ったのでしょう? 大陸西側の秘境からどうやって大陸中央まで帰ってくるのか分かりませんが、野生で生きている塩大福が一緒なので、きっと無事に帰ってくるでしょう。
そうして二日後には彼女たちのことをすっかり忘れた私ですが、それから数ヶ月後に例の農家に嫁いだお姉様(弐号)からお手紙(二メートルのスクロール)を戴いた。
「……ティナ、要約して」
「かしこまりました。……例の二人ですが、どうやらオレリーヌ様がいらっしゃる農業国家シグレスの農場に辿り着いて、半狂乱で旦那様の妾になろうとしているので、早急に引き取ってほしいそうです」
「まあ!」
シグレスまでの旅路がよほど大変だったのでしょうか? それにしても貴族でもない他人のご家庭に転がり込んで旦那に色目を使うなんて……。
とりあえず、女騎士の肉付きを気に入ったという魔王と、聖女を監禁したいほど気に入ったという元勇者に彼女たちの居場所を伝え、私たちは彼女たちの小さな幸せをお祈りすることにいたしました。
「やっぱり、パーティーを追い出されるような人は、どこか問題があるのかしら?」
「左様で」
お待たせしました。
思ったよりも更新間隔が空いてしまい、読者様を不安にさせてしまいそうなので完結設定に戻しておきます。もちろん、ネタができたら更新しますのでご安心ください。
それではまたお会いしましょう。





