003 あなたの知らない世界
すみません、久々です。
はろー、皆さま。本日もユールシアでお届けいたしまーす。
最近お仕事でバタバタしておりましてごぶさたでしたが、本日はそんな私のお仕事の様子をごらんにいれようかと思います。
闇の精霊王と悪魔合体しちゃった私なので、基本はこの世界で転生する魂の管理なんかをしています。……とはいえ、私が管理をする【世界】はこの一つではありません。
なんとその数、数千世界。
……例のあんちくしょう悪魔の支配域全部が、そのまま全部私の支配圏になってしまったので、とんでもない数になっています。
だから偶に仕事を逃げ出して、どっかの世界で遊ぶのも仕方のない事なのです。結局見つかって旦那に怒られるんだけど。
それにしても狂乱公女の奴、どんだけ手を広げてたんだよ……その数千の世界のうち、七割が地球人と似たような遺伝子を持つ人間型が住んでいる星で、その中でも半分が地球の中世のような文化様式になっていた。
アイツの趣味で似たような文化様式になっているとは知っていたけど、未開の惑星とかにも、人間型の遺伝子をばらまいた痕跡が見つかった。
多分だけど、考古学で猿から途中経過も発見されずに、いきなり人類が発生したような世界だと、狂乱公女が種を蒔いた可能性が高いのです。
……10万年以上もこんな事をやってたのね。
きっと趣味に合わずに失敗作として滅ぼされて、何度も周回している世界がいっぱいあるんだろうなぁ。地球でさえも一周目じゃないっぽいし。
そんなわけで本日はとある世界の管理風景をお届けしたいと思います。
中には乙女ゲームのようなドロドロの愛憎劇を繰り返している地域もあったりしますが、今回の世界は、MMORPGゲームのようなスキル経験値を得てスキルレベルを上げるような世界のようです。
その世界では、人がいてエルフがいてドワーフがいて獣人がいて魔物がいる、何というか“普通”の世界でした。……普通って何だ? そんな哲学的な考察はどうでもいいとして、その世界では、技能を【スキル】として与える女神様が存在していました。
人々は弱く、凶悪な魔物に倒れていく人間たちを見た女神様は定命の人々を憐れみ、自らの恩恵を与えることにしたのでした。
けれど、その女神様は今、わずかな乾燥ワカメだけで一日二十三時間働く某企業戦士のような過度な労務に身体と精神を苛まれ、その命が蝕まれていたのです。
普通に仕事をしていればそんな事にはなりません。中には自らの美声を自慢するために、いちいち『レベルが上がりました』とアナウンスをする女神様も居て、扁桃腺炎で苦しんでいる方もいますが、それは自業自得というものでしょう。
では、その女神様の世界では、人々はどんな生活を送っているのか、ちょっくら覗いてみようかと思います。
とある所に鍛冶士を目指す少年がいました。彼の父は有名な刀鍛冶で、十五歳で成人した彼は父を超える刀剣を作るために、毎日必死に修行をしていたのです。
カンッ…カンッ…と、鎚で金属を叩く音が聞こえてきます。少年は自分の作業場で修行のために釘を作っていたのでした。
「ジム(仮名)、今日も精が出るな」
「あ、父さんっ! 当たり前だよ、父さんの子なんだから」
ジム(仮名)は鋳造してある程度の形になった鉄の棒を、金槌で釘の形に整え、毎日大量の釘を作っていたのです。父親は出来上がった釘の一つを拾い上げるとジッと見て顔を顰める。
「ジム(仮名)、良く出来すぎているぞ。これでは時間が掛かるだろう」
「そうだね……。もっと沢山数をこなすために(適度に)頑張るよっ! あと五千個も作ればD級の剣も作れるようになると思うんだ」
目を輝かせる息子に、父親は優しい笑みを浮かべて彼の肩に手を置いた。
「それでこそ、父さんの子だ。鍛冶のスキル経験値を得るには、釘が一番効率が良い。俺も何百万本と釘を作ってようやくA級の剣を作れるようになったんだ。頑張れよ」
「うん、父さんっ!」
……あれ? 何かおかしいぞ。
とある街に針子の少女がいました。その街には有名な仕立屋の職人がいて、その職人に憧れた少女は、自分も綺麗なドレスを作りたいと願い、毎日修行を繰り返していたのでした。
「……う、もう目が霞んで見えないわ」
「無理をしてはダメよ、メアリー(仮)。身体を壊したら元も子もないわ」
「大丈夫よ、母さん。どんなに疲れても夢のためなら辛くはないわ」
そう言ってメアリー(仮)は、ランプの明かりだけが照らす部屋の中で、一心不乱に針の穴に糸を通す作業を繰り返した。
疲れ目が霞もうと、指先が震えて苛ついても、少女は夢を諦めない。
「今日はあと一万回は糸を針に通したいの。初歩の初歩だからスキル経験値は最低だけど、スキルレベルさえ上がれば、きっと夢は叶うから」
「メアリー(仮)……」
…………何をやってるの?
とある城に貴族の青年がいました。彼の家は武門の名家として知られ、祖父は剣聖として何度も魔物との戦いに勝利し、父も騎士団長として何度も国を護ってきた英雄だったのです。
その子である青年も、祖父や父のように国のために働きたいと思っていましたが、彼が何万回木刀を振ろうとも、剣術のスキルレベルは思うように上がりませんでした。
「ピエール(仮)」
「お祖父様(剣聖)っ!」
敬愛する祖父(剣聖)を前に、ピエール(仮)が毎日木刀を振りながらも上がらないスキルレベルを恥じるように下を向くと、祖父(剣聖)はそんな孫の様子を見て静かに頷いた。
「顔を上げろ、ピエール(仮)。お前が努力をする姿は見てきたつもりだ。そろそろお前にも我が家の秘伝を教えてもいい頃だろう。ついてきなさい」
「お祖父様(剣聖)……」
祖父(剣聖)に連れられてピエール(孫)が城の地下に降りると、その閉じられた部屋には小さなスライムが沢山飼われていました。
「これは……?」
「ピエール(仮)よ。これが我が家の秘伝だ。剣術スキルは生物を切るのが一番効率が良い。だがな、ピエール(孫)。スキルを上げるだけなら、わざわざ強い敵を斬る必要はないのだ」
「本当ですか、お祖父様(爺)!」
「その通りだ、ピエール(孫)。ここで存分にスキルレベルを上げるがよい」
「はいっ!」
そうしてピエール(仮)はぴーぴー鳴いて逃げる小さなスライムを追い回し、剣術のスキルレベルを上げたのでした。
…………何だこりゃ。
ふざけんな、技術を舐めてんのかっ! どれもこれもレベルシステムの裏をかいた、効率厨ばっかじゃんっ! そんなんで本当に技術を得られると思ってるのっ!?
最初はどうだったか知らないけど、そのせいでこの世界の女神様は、毎日寝る間もなく服装や小物のデザインを設計したり、料理の味をこっそり手直ししたり、戦いの必殺技を考えたり、目の下に真っ黒な隈が浮くまで頑張っていた。
コホン……少々エキサイティングしてしまいました。
それでも知ってしまったからには、黙って見過ごすわけにはまいりません。
私は、無理をして人々に恩恵を与えようとしていた女神様が、これ以上無理をしないように、背後から首筋を打ってきぜ……寝かしつけ、代わりに恩恵を与えることにしたのです。
釘を作るだけで勝手に神剣作れるようになるはずないでしょ! 針に糸を通すだけで素敵なドレスが作れるようになるわけないでしょ! スライム追い回しただけでドラゴンを斬れるようになるわけないでしょ!
全部、却下よ、却下!
『…………』
その女神様が目覚めたのは千年ほど経った後でした。
何故か、ある日突然ありとあらゆる技術を失った人類は、戦う術どころか生活基盤さえ全て失い、何もないまま魔物たちの脅威に曝される事になったのです。
でも、人類は強くなくても、高い適応力を持っていました。
唖然として口を開けたままの女神様の瞳に映るのは、あらゆる種族と交配できる異常な繁殖力で数を増やし、毛皮の腰蓑と棍棒だけでオークを追い回している、筋骨隆々の原始人のようになった人類の姿でした。
***
「はぁ~……」
世界を見下ろす闇の宮殿にあるテラスで、メイドが入れてくれた香り高い焙じ茶を飲みながら、溜息を吐く私にメイドが声を掛けてきた。
「何かありましたの? ユル様」
「うんとね、ローズちゃん。世の中の決まり事の裏をかいて楽しようなんて、滅茶苦茶な人たちが多いのね、って思っていたのよ」
「めちゃくちゃ……」
その言葉を聞いて噛みしめるように呟いたローズは、ポケットから何かを取りだして私に向ける。
「ユル様、鏡見る?」
「…………」
ゲーム的な世界だったらいいんですけどね(笑)
次回はまたネタが出来ましたら。





