002 クラス召喚―異世界転移
今回もテンプレです。
皆さま、お変わりありませんか? 今日も元気に“業”を貯めて、美味しく育っていらっしゃいますでしょうか?
皆さまに好かれる愛され邪神を目指す、ユールシアにございます。
ある日、ふと見上げた空に、何処かの次元の世界に【召喚】される、“あの世界”の人たちの気配を感じました。
またかよっ。あの世界の住民は呪われてでもいるの?
まぁ、それでもその世界は私の故郷の一つでもありますし、見つけておいて見捨てても目覚めが悪い。
そんなわけで私は、お仕事がめんど…一段落したので、暇つぶ…彼らを救うため、召喚されている人たちの救済に向かうことにしたのです。
そうそう、私も最近知りましたが、意外と【スキルシステム】がある世界が多いって知ってました?
おや、スキルをご存じない? ほらアレですよ。普段使ってる技術なのに、覚えた途端便利に使えたり、作業の均一性が得られるようになるアレですよ。
なんでも世界に満ちる魔素が影響して、使っている技術が一定以上の技量になると、魂に“焼き付け”という現象が起きて、技術を忘れなくなるのがスキルみたいですよ。
今召喚されて向かっているその世界も、そんな世界の一つだった。
ただ、普通のスキルじゃなく、【加護】と呼ばれる特殊能力系のスキルを誰でも一個もらえるシステムみたい。
チラ見した様子から誰でも貰えるから、現地では『神サマの贈り物じゃあっ』って言われているけど、大抵は子供の頃にどうしようもない【加護】を得るらしく、そこで大人になっても厨二病満載の“あの世界”の人を呼んで、有効なスキルを持たせて戦わせるのが目的のようだ。
だが、それはいけない。
今回召喚されたのは10人だったけど、勇者やら、聖女やら、大魔導士やら、三重県の極みやら、みんなが素敵スキルを得るのに、どうせ一人だけ厨二病が手遅れになるほど酷すぎて、わけの分からないスキルを取って、バカにされて苛められたり、お城から追放されたり、暗殺されたりするに決まってる。(邪神の予言)
それは可哀想だ。イジメよくない。
そんなわけで私は、彼らがやんちゃをして奇抜なスキルを得ないように導いてあげようかと思ったのです。
スキップで次元を飛び越え、ふよふよと召喚されている途中の彼らを、横から掴み取るようにかっ攫う。
場所はえっと……私の固有空間の中でいいか。ただ、そのままだと光も空気もないので、口の固い上級悪魔を召喚して45リットル透明ゴミ袋で空気を持ってきてもらう。
光は……仕方ない。私が光って誤魔化そう。
ほとんど学芸会の舞台のようなやっつけな白い空間で、気を失って倒れていた10人の……高校生?が目を覚まし、不思議そうな…あるいは怯えた表情で、ドライアイスの煙漂う真っ白な空間を見渡した。
ちなみに真っ白に見えるのは白く塗ったベニヤ板で、その裏では地上に解き放てば災厄を起こし、土地神として崇められるクラスの悪魔千体が、報酬に与えたタコスルメを口に咥えながら支えている。
「……ここはどこだ?」
「俺たち、学園祭の打ち上げで……」
「そうよ、なんでこんなところにいるのよっ!」
「……私、夜に塾があるんだけど」
「俺だってバイトが…」
「今はそれどころじゃないでしょっ!」
見たところ、騒がしいのが六人に、無言のまま冷静に状況を判断しようとしているのが四人か。まぁだいたい状況は飲み込めた。彼らが辺りを探索しようかと動き出すとマズいので、その前に私が動く。
本日のコーデは白いドレスに金の翼に金光増し増し。愛され天使コーデで白い空間にふわりと舞い降りると、みんながとても驚いた顔で迎えてくれた。
「ようこそ、異世界の若人たちよ。あなたたちは今、これまでの世界から異なる世界に召喚されようとしています」
私がどっか読んだような台詞を使うと、彼らの数人が待ってましたとばかりに目を輝かせた。
「い、異世界召喚ですかっ!?」
「あなたは女神様ですかっ!?」
「チートは何個貰えますかっ!」
お前らガッついてんな。落ち着けよ。
「なんだよそれ、異世界?」
「それじゃこれって誘拐ですよね? どうなってるんですか?」
「早く帰りたーい」
お前ら五月蠅い。
「私のことは好きにお呼びください。あなたたちを召喚しているのはその世界の者たちです。そこであなたたちは何かと戦う定めにあるのでしょう。その世界ではその想いによって強力な【加護】が一つ授けられます」
「えええ、たった一個ぉ?」
「意外とケチよね……」
「女神なんでしょ~? もっとちょうだいよ」
だからガッつくなお前ら。
「もう帰れないの……?」
その中で地味で小柄な女の子が泣きそうな顔でそう呟くのを聞いて、優しい声でニコリと微笑んだ。
「それは分かりません。ですが、私はあなたたちがあの世界で生きるために、少しだけお手伝いをいたしましょう」
無理矢理彼らの体内に魔力をぶち込んで体内時間を狂わせ、一人一人、あの世界の理を使って【加護】を与えるために個人面談を開始する。
では一人目から始めようか。
【少年A:サッカー部】
「俺さっ、すっげー力が欲しいっ! 100メートルを5秒で走って、一蹴りでゾウとか倒すんだっ」
「ほほぉ……。でも最初からそんな力は無理ですよ? 成長系の加護なら、二十年……頑張れば十年くらいで得られるかもしれませんが…」
「えええ!? あんた女神なんだろ? ちゃっちゃとやってくれよぉ」
……コイツ。でもまぁ、成長系じゃない脚力強化の加護はあるな。問題は、加速する間だけ寿命を消費するみたいだけど、普通に使っていればたぶん問題ない。
でも、『ちゃっちゃとしろ』との要望なので、寿命の消費を十倍にして威力を二倍に上げておいた。
少年A【加護】:【息切れ韋駄天】
【少年B:帰宅部】
「女神様。俺、不死身になりたいんだ。不死身になったら最終的にはどんな敵にも勝てるだろ?」
「それは生物の限界を超えています。それだと身体に負担が…」
「俺がいいって言ってんだろ。文句は言わないから早くやれよ」
オッケーオッケー。でも、さすがに不死身系の【加護】は無いな。
仕方ないから私の加護をやろう。何とこのワカメを食べれば、数年で骨も内臓も脳さえも『ワカメ』に置き換わって、海の中なら不死身の力を得られるでしょう。
少年B【加護】:【漂流者】
【少女C:ギャル】
「わたしさぁ、怠いの嫌いなんだよねぇ。テレポートして元の自宅に帰れるとかだと楽だから、それにしてよ」
「転移系の【加護】はありますよ。ただし、数百メートルが限度ですけど」
「ええ~~、そんなんじゃ使えないじゃん。女神ちゃん何とかしてよ。ほら私とあんたとの仲でしょ? あんたも女神なら責任取ってよ~」
「あはは」
生きたまま、はらわた食い散らかしてやろうか、人間。
それでもギリギリ思い止まって電卓弾いて計算する。まぁ、何とかなるか。
本当に異世界間転移をするとなると、人間一人の力では一度で魂が消滅しかねないから“裏技”を使うことにする。
たぶん使う度に魂が汚染されて、最終的には【奈落】に落ちると思うけど、そのくらいの対価なら『元の世界に転移して平和な生活に戻れる』幻覚を見られるだろう。
お薦めしないが、それが彼女の望みなら仕方ない。
少女C【加護】:【異世界旅行】
【少年D:生徒会役員】
「この携帯情報端末を現地でも使えるようにして下さい。電池は無限で、検索機能も使えるように」
「これですか……」
なんかどこかで聞いたようなテンプレだね。
まぁその程度なら、新米邪神の私でもそんなに難しいことじゃない。
電池は使用者の生命力消費型にすればいいし、検索機能もグレムリンを一体、内部に潜ませておけば大丈夫。
問題があるとしたら、使いすぎると死んじゃうことと、グレムリンの知識以外は答えられないし、低級とは言え悪魔との“一生契約”なのだから、その対価はもちろん使用者の死後の魂だ。
他の神さまも、悪魔と精霊の違いはあっても似たようなことをしているはずだ。
少年D【加護】:【情報依存症】
【少女E:吹奏楽部】
「魔法を全部使えるようにして下さい」
「その【加護】だと…」
「それと新しい魔法を作れるようにして下さい」
「え……」
「あとは武器を使う技術と、今の数倍の身体能力を」
「ちょ、」
「MPは使用無制限でお願いします」
「…………」
加護は一つだって言ったよね?
それ以前にどの要求もかなり強烈なチートだ。私の力を分ければ出来ないことじゃないけど、私にそれをするメリットはない。
少女E【加護】:【最強の力】
どいつもこいつも全員似たような連中ばっかりだった。
特に“異世界転移系”? そういうジャンルの読み物を好んでいた連中は、神に頼めば好き放題できると思ってやがるか、親切で加護を与えてあげる神の裏をかこうとしやがった。
わかったわかった。全員希望を叶えてあげる。
ただし、要望によって最長五年。短ければ1年以内に【加護】が消滅するようになってしまったけど、それは私のせいじゃない。
それでも足りない分は(特に魔力使用無制限は)寿命消費型にしたけど、節度を持って使うなら二十歳までは生きられるでしょ。
そして最後の少女は……
【少女J:文学少女】
「あ、あの……女神様って」
「何かしら?」
あの帰れないのかと泣きそうになっていた女の子は、私の目を真っ直ぐ見つめて意を決したようにこう言った。
「女神様って……“神さま”じゃないですよね?」
***
「それでどうなったのかしら?」
「ハイ主様、ご報告いたします」
その日から数年後、本日からメイドの一人として働くことになった【大悪魔】の少女は、あの世界の召喚した国と、彼らの末路を教えてくれた。
「皆さん、今までの召喚された方々より凄かったので、英雄とか勇者と言われて、中には新しい王様になった人もいました。けれど、数年後には突然死したり、加護がなくなって暗殺されたりして、大混乱になりましたね」
「……それは大変だったわね」
「ハイ。生き残りの皆さん全員亡くなって、召喚した国も消滅しちゃいました。これはあの召喚した国の上層部全員の魂です。主様、お受け取り下さい」
最後の一人。あの大人しい文学少女は、彼らへ“復讐できる力”を望んだ。
彼女が帰れないと泣きそうになっていたのは、彼女を苛めていた彼らを、殺せない環境に帰らせたくなかったからだと言っていた。
だから私は、彼女に復讐の力を与えた。
その“契約”の報酬は、他の世界から誘拐をするその国の上層部の魂。そして、彼女自身の“全て”と、私への“永遠の忠誠”だった。
その彼女は、その数年の間に復讐を誓った全員分の魂を喰らい、【大悪魔】と進化して約束通り私の下へ現れた。
「では、よろしくね」
「ハイ主様、これから誠心誠意、永遠にお仕えいたします」
最後に見た時とは違う活き活きとした邪悪な笑顔に、私も微笑んで頷いてから軽く溜息をつく。
……神さまって大変ね。
怒られそうな気もするのでごめんなさい。
チートを与える神さまも楽ではないのです。
次もまた不定期です。





