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悪魔公女Ⅱ ~ゆるふわアクマ旅情~【書籍化&コミカライズ】  作者: 春の日びより
第三部 第四章・【奈落編】

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4-09 奈落の旅 ③

ヒラ何とかさんをお忘れの方は、第一部の4-18あたりをご覧下さい。





『何てことなの……。ヒライネスのことだから自我は残しているとは思っていたけど、まさか、この奈落(アビス)で行動を起こせるくらいまで回復しているなんて……』

「そ、そうね……」

 深刻そうなローズに合わせて私も神妙な顔で頷いておく。

 ヤバい……。『誰それ?』とか言える雰囲気じゃない。もしかしたらもの凄い有名人なのだろうか? ローズが畏れているみたいだから、とても凄いことをした人なのかもしれない。

 私が必死に記憶の隅をほじくり返していると、ローズが少し焦ったような顔で私をジッと見上げる。

『ユールシア様、手を抜いたんじゃないでしょうね……』

「ほえっ!?」


 何だってっ!? 私とも関係のある奴なのっ!?

 でも私の記憶の中にそんな凄い人と知り合った思い出はない。しかも私が手を抜いたってどういうこと?

 まさか聖王国の貴族関連で、適当な罪(セクハラ等)で失脚させた一人だろうか? 確かに、うちの元護衛騎士であるブリちゃんやサラちゃんのお尻を触ったボンボン騎士なら、失脚させただけじゃ生温いから夜中にこっそり頭毛を根絶させたりして、悪魔になった恩坐くんでさえドン引きした顔で神仏にお祈りした程だというのに、ローズほどの悪魔ならそれすら生温いと言うのかっ!?

 ローズ、なんて恐ろしい子っ!


『……ほえ?』

「何を言ってるのかしら……? わ、私が手を抜くはずないじゃない……」

『……そうよね。ユールシア様って結構容赦ないもんね……』

「そうよっ! 私の容赦のなさは、前にやんちゃした時なんて、お父様が嫁には出さないからずっと家に居なさいって言われた程よっ!」

『……その喩えは意味が分からないわ』


 少々腑に落ちない評価を受けた気がするけど、とりあえず誤魔化せたみたい。

 それとやんちゃした時だって、王太子妃になるベティやお姉様を守るため、心を鬼にして意地悪な令嬢をイジメ返しただけだったのに、お父様ったら、私はずっとお屋敷に居ればいいって言うのよ?

 それはさておき、いまだに思い出せなくて私を見るローズの視線が段々疑心めいてきているような気がした。

 何か適当なことで話を繋げなければ……

「ほ、ほらっ、あいつもお年頃だから……?」

『お年頃っ!? ユールシア様っ、アイツが何をするのか分かってるのっ!?』

 選択間違ったっ!?


 纏めてみるとその人は、ローズが警戒するほどの人物で、過去に私とも関わりのあった人物らしい。

 しかも私が容赦ないほどとっちめたみたいだけど、正直言って私がぶっ飛ばした連中なんて、『アトラ』だけじゃなくて『地球』や『テス』でも山ほど居る。

 おかしいなぁ……。人間社会に溶け込んでいる悪魔として、かなり大人しめで堅実な生活を心掛けてきたのに……。

 昔の偉人は、人を食べた数をパンの数に例えたという。でも、とてもじゃないけど私はそこまでの域には達していない。せいぜい今まで食べたプリンと同じくらいだ。

 だから私が直にとっちめた奴なんて、プリンをプッチンした回数と同じくらいだと思う。プリンは有名店のプリンよりチープなゼラチンプリンが好きだ。

 いやいや、そうじゃない。今は思い出せなくても、きっと顔を見れば思い出すはず。せめて名前を覚えていれば良かったのだけど、色々と考え込んでいたら、ローズが名前を言ったのに聞き逃してしまった。

 今から聞いたらまずいよね? じゃあ今までの会話は何だったのかと、魔神(しやちよう)としての威厳が一気に暴落してしまう。

 確か、……ひ、ひら? そう『平なんとかさん』だ。

 確かにその名前には、聞き覚えがあるような無いような感覚が微粒子レベルで存在していた。

 ひら……平社員? まさかうちの社員達に限って、ローズが困るようなことをするはずがないじゃない。

 この集落のネズミ色の集団のように、自分が徹夜することで会社が成り立っていると考えている愛すべき社員達が、そんな非道な真似を……ハッ!

 そうかっ! 彼らにも唯一と言っていい弱点があったっ!

 彼らは若い女性社員を見ると、コミュニケーションの取り方が分からずセクハラまがいの親父ギャグをかましてしまう習性があった。

 そうか……ローズも中途入社とはいえ若い女性型だから、きっと上司には言えない辛いことがあったに違いない。

 仕方ない……現世に戻ることが出来たら、彼らのお仕事を増やしてあげよう。

 社員達の悪しき魂が、この集落のネズミ色集団が元になっているのなら、単純肉体労働をさせるだけでなく、一部を係長辺り(准大悪魔級)に格上げして我が社の商品開発でもさせて暇を無くしてやるべきだろう。


「大丈夫よ、ローズ。私がケリを付けるから」

『え? ああ、そうね。私達の力も弱体化しているけど、今ならアイツもそこまでの力は無いはず』

 しっかりとした意思表示をした私に、ローズが少し考え込むようにしながらも賛成してくれた。やはりこの対応で間違いないみたい。

「ローズも辛かったのね……」

『あ? え? いや、そうでもないけど……?』

 新しく上司になった私に気を使ってか、ローズが惚けたように健気なことを言う。

「やっぱり新しい商品はプリンがいいかしら?」

『何の話っ!?』


 おっと、話が性急すぎたようだ。ローズは(偶に間が抜けてるけど)頭がいいから、新しいセクハラ対策を理解している前提で話してしまった。

 いっそのことローズは、細かいことが好きそうだから(偏見)我が社の人事課長とかやってもらうと良いかもしれない。

 通常ヘッドハンティングした社員は、すぐにこういう役職に就けないものだけど、悪魔は人間と違って自分の知り合いをコネ入社させるような……ハッ!


「そうだったのね……私が間違っていたわ」

『え? あ、まぁ、いきなりプリンの話は驚いたけど、間違いに気付いてもらえてよかったわ。それにユールシア様の新しい商品って、あの海産物屋? オキアミ入りのプリンでも作るのかしら?』

 それはそれで個性的な商品になりそうだけど、ミレーヌの考えた『ワカメの甘味寒天ゼリー寄せ』と同レベルなので却下する。これだから生粋の悪魔や吸血鬼は……

 いや、ローズの場合は、勘違いをした私が気に病まないように小粋なジョークをかましてくれたに違いない。

「大丈夫よ、ローズ。そいつは私がぎったんぎったんに磨り潰して、ミドリガメの餌にしてやるわっ」

『ミドリガメっ!?』


 私の勘違い。それはローズがまだ入社間もないことだ。それだと我が社の社員にセクハラを受けることはないはずだった。

 疑ってごめんよ、社員達。でもお仕事はせっかく思いついたので増やしておくね。

 でもという事は、ローズは前の職場でセクハラを受けたことになる。でも、シルベルタルのような女上司の場合、セクハラには厳しいはず。

 そうなるとその前の職場か? でもゼフィルセルという悪魔公はローズの創造主であり親も同然。親が娘にそんな真似をするとは思えない。

 確かゼフィルセルは、あの職業魔王さんが起死回生で呼び出そうとした比較的理知的な悪魔公で、それをリンネが『ついやっちゃった』みたいだけど、リンネも会話が出来る数少ない存在だと言っていたので、尚更あり得ないだろう。

 となると、同業他社のチャラい営業でも来て、お茶を出すローズのお(ケツ)を触ったのだろうと想像した。

 それはいけない。万死に値する。ミドリガメの餌こそ相応しい。


『ミドリガメ……』

 そうして私達はネズミ色集団から90度のお辞儀で見送られつつ、チャラいセクハラ野郎を誅殺するべく出立した。

 ローズは何故かミドリガメが気になって仕方ないらしい。

 大丈夫よ。ミドリガメは結構悪食だから細かくすれば何だって食べるわ。


 しばらく進むと、聞いていた悪魔崇拝者達が住む集落が見える場所に到着した。

「……集落?」

『一応は、そうみたいよ……』

 その場所は遠くから見ただけでも何もなかった。あのネズミ色集団ですら、ブースのような仕切りを竜巻に壊されるたびに、賽の河原で石を積むように作り直していたのだから、悪魔崇拝者なんぞがまともな物作りをしているはずがなく、ただ岩の上に岩を積み重ねて黒いローブを着た連中が必死に拝んでいるだけの場所にしか見えなかった。

「少ないね」

『少ないわね……』

 その黒ローブの連中が聞いていたよりも異様に少ない。あのネズミ色集団……言いにくいな。研修社員でいいか。その研修社員達でも三十名くらい居たのに、黒ローブは十人もいなかった。

 どうして数が少ないのか? その理由はすぐに判明した。

「『あ」』


 突如発生した竜巻が悪魔崇拝者達のキャンプ場を襲う。

 その場には岩を積み重ねた祭壇もどきしかないのだからさっさと逃げればいいのに、黒ローブ達は『悪魔よ、我に力をっ!』とか何とか言いながら突っ込んでいって、粉々に分解されて、セルフで亀の餌にチェンジしていた。

『……これ、放っておいても勝手に全滅するのでは?』

「…………」

 一瞬私もそう思ったけど、こいつらが崇拝するセクハラ野郎が残っている。

 どこのチャラい営業悪魔か知らないが、こんな狂信者連中を配下にするなんてまともな奴じゃないのは確定だから排除しなくては。

『狂信ぐあいならユールシア様の配下も大概だと思う……』

 失敬な。彼らは仕事が好きなだけだよ。

 以前は嫌々やっていると思っていたけど、お仕事大好きならこれからは甘い顔を見せる必要もないでしょう。……ローズ共々。

『……何か寒気が』

「風邪かしら?」


 とりあえずどうしようかと辺りを見回していると、瓦礫の下から一人の生存者?が這い出てきた。

 その人が貴族のような仕立てのよいローブを着ていたので、セクハラ野郎の情報が得られるかと近づいてみると、その三十代後半くらいの男性は狂信者とは思えない理知的な瞳をしていたのに、近づいた私の姿を見た瞬間、目を大きく見開いて歓喜の表情で震えはじめた。


「おおっ、黄金の悪魔神よっ! この私をお忘れかっ、幼いあなたや殿下を誘拐して、最後にはあなたの手で滅された、ブルノー侯しゃ…」

「てい」


 また思わず反射的に蹴飛ばすと、そのブルノーなんたらは奇妙な叫びをあげながら飛んでいき、これまた丁度通りかかった竜巻に巻き込まれて粉砕された。

「悪は滅びた」

『情報とるんじゃなかったのっ!?』

 嫌、だって気持ち悪かったんだもん。その存在も思い出した。悪魔の力(食欲)に目覚めたとき、美人さん(美味)と一緒に居た人だった。

 強烈な悪魔崇拝者で自分の魂を差し出してきたけど、あまりにも雑味が酷くて生まれて初めて魂の“お残し”をしてしまった奴だ。

 そのお残しのせいで奈落(アビス)にまで落ちちゃったのね。でもこれで幼児愛好者は滅びた。やはりセクハラ野郎の下にはそういう連中が集まるらしい。


「あ、ほら見てローズっ」

『…………』

 ちょっと不機嫌になったローズが私の発見したものを見ると目を瞬かせた。

『穴?』

 あのブルノーが這い出てきた所に深い縦穴が開いていて、かなり奥へと続いているようだった。ここに居たから竜巻でも無事だったのね。

『ここを見つけていたから、さっきの奴も簡単に始末したのね……』

「そ、そうね……」

 感心したようなローズの言葉に思わず私は顔を逸らす。

 とりあえず、セクハラ野郎の居場所は多分ここだろう。ローズが会話の不自然さに気付く前に、私達は意を決して縦穴の中に飛び込んだ。




次回、ヒラ何とかさんと対決。


ユールシアがここまで覚えていないのは、名前を完璧に忘れてしまったのと、最初に変質者だと思い込んでしまったため、悪魔公≠ヒラ何とかさん、になってしまったためです。

悪魔公だと言われれば普通に思い出します。たぶん。


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― 新着の感想 ―
プリンをプッチンした回数 > かえって食事回数より多いんじゃないの? ………いや、アトラにプッチンできるプリンはないか。
[一言] 作者の迷走を見せられた気分、宇宙猫になった
[気になる点] この回は見るに堪えない
感想一覧
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