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悪魔公女Ⅱ ~ゆるふわアクマ旅情~【書籍化&コミカライズ】  作者: 春の日びより
第二部 第一章・悪魔を見た夢 【現代編】

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1-11 厄介ごとに巻き込まれました ②

 



「いや、柚子ちゃん、もう毎日来てくれなくても充分だぜっ!?」

 

 あれからまた、あの美味し……ゴホンッ、素敵なあの方が来てくれないかと父ちゃんのラーメン屋さんで待ち構えているのですが、他のチンピラさんが偶に来てくれるだけでなかなか会うことが出来ません。

 そんな私に父ちゃんは、毎日来てくれる事を申し訳ないと思っているのでしょう。

 他のお店にも網を広げてみますか……。

 

「……柚子、あなた、何をやらかしたの?」

 失礼ですよ、琴ちゃん。

「私は、あの素敵な男性を来るのを待っているのです」

「へぇ……柚子って年上趣味なのね。優男なんて趣味が悪いわよ」

 琴ちゃんにだけは言われたくないわ……。

 

 私が常駐するようになってから、美紗もお店をお手伝いするようになって、お客さんも増えてきたみたいです。

「わたし、兄ちゃんの手伝いして、りっぱなラーメン屋さんになるんだっ」

「うん、凄いねぇ、美紗なら出来るよっ」

「うんっ、柚子ちゃん」

 美紗は同じ歳だけど、ちょっと幼い感じがして妹みたいで可愛い。

 私が美紗を可愛がってニマニマしていると、美紗の宣言を聞いた琴ちゃんが話しに混ざってくる。

「その前に、このお店がいつまで開けていられるかよね。彼が一人前になるまで続けられるといいんだけど……」

「うん? どうして? お客さんいっぱい来てるじゃない」

 チンピラさんの嫌がらせも少なくなっている。

 私が相手をすると素直(・・)になって帰ってくれるし、そうなると他のお店に嫌がらせをしていたチンピラさんがこっちに回ってくるので、いつの間にか商店街全体の嫌がらせが減る結果となった。

 怪我の功名? ちょっと違うかも。

「ほら、店主さん結構お年寄りでしょ? スープが作れなくなったら引退して田舎に引っ込むって言ってたの。彼もいい腕しているけど、まだお客さんは店主さんの味を信用して来てくれるって部分が大きいから」

「うん、お爺ちゃんのラーメン、優しい味がするからねぇ」

「私も、じいちゃんのラーメン好きっ」

 

 上手くいかないものですね。信用……と言うか“売り”があれば違うんだけど。

 顔色が緑色なるのは売りになりませんかね?

 

   *

 

 そんなある日、お母さんの都合で運転手さんがすぐに迎えに来てくれない日がありました。

 タクシーを呼んでも良かったんだけど、どうせ家に帰っても大葉お兄ちゃんしかいないし、そのお兄ちゃんもこっちでラーメンを食べて一緒に待つことになりました。

 お父さんもお母さんも、父ちゃんや美紗のことは知っていたみたい。知っていたけど以前のことがあるから簡単に手を差し伸べる訳にもいかず、でも私達が関わるのを止めないと言う、微妙な立場を続けている。

 大人は素直じゃないね。

 

「ちょっとジュース買ってくるー」

「遠くはダメよ~」

「はーい」

 別にジュースを飲みたい訳じゃないけど、最近暑くなってきたからガンガン火を扱っているラーメン屋さんはしんどいんですよ。

 だいぶ丈夫になったけど、他の人から見れば私はまだか弱い範疇に入る。

「はぁ……涼しい」

 夜は楽だね。相変わらずほとんど眠くならないから、少し夜型になりつつある。

 普通の子供みたいに夜が怖いって感覚がないし、この半年くらい通り魔にも関わってないから、ちょっと気が抜けている。

 

 そんな夜は何かが不意にやってくる……。

 

「…………」

 自販機で買ったお茶で額を冷やしていると、商店街の路地の隙間に、真っ黒な“猫”を見かけた。

 あの神社で見た、銀の瞳の漆黒の猫……。私の心の奥底から“何か”が出てこようと、ガリガリと爪で引っ掻くような感覚があった。

 

「……あなた……だれ…?」

 

 私の唇がそんな言葉を漏らすと、黒猫の姿がふ……っと遠くなる。

「待ってっ」

 気付くと追いかけていた。私の足は速くない。でも私は【彼】を追いかける。

 ……【彼】……?

 

「きゃっ」

「うわっ」

 いきなり誰かにぶつかった。相手も小さかったけど、軟弱な私のほうが尻餅をつく形で転んでしまう。

「……ぁ…」

 黒猫は……もう何処にも居ない。

「柚子ちゃんっ?」

「あ、公貴くん?」

 ぶつかった相手は公貴くんだった。……道の曲がり角で、か。

「……食パン咥えてたほうが良かった?」

「何の話っ?」

 お約束は通じなくても律儀にツッコんでくれてから、公貴くんは私に手を差し出して立ち上がらせてくれた。

「ごめん、柚子ちゃん……でも、なんでこんな所に?」

「……公貴くんこそ。私は知り合いのお店にいて……ちょっと、お散歩よ」

「僕も……散歩だよ」

 

 嘘吐けっ、とツッコむのを私が我慢する。何か変な空気だなぁ……。あ、そう言えば地上げ騒ぎでお祖父さんと仲違いしているんだっけ?

 

「……じゃ、サヨナラ」

「えええええええええっ!?」

 さっさと立ち去ろうとした私に公貴くんは声を上げる。……めんどい奴だな。

「この流れだと、ちょっと話を聞いてくれる感じじゃないのっ?」

「いや、面倒だし」

「……正直すぎるでしょっ! 学校だともっと優しそうだったじゃないっ」

「面倒な男だな、君は」

「ひどいなっ」

 彼もちょっと“御曹司”としての“猫”をかぶってたみたい。……ちょっとこいつのせいで黒猫を見失ったのを思い出した。

「わかった。話せ」

「……柚子ちゃんはマイペースだな。そっちが“素”か」

 そうです。私は心が狭いのです。

「君にこんな事を話すのはどうかとも思う。王子なんかは一緒にいて気楽なんだけど、小難しい話を出来るような友人って、柚子ちゃんしか居ないんだよ」

 まぁ、そうでしょうね。周りは普通(・・)の小学生ですから。

「四十万勇気くん?だっけ、あの人なら理解できそうだけど……」

「あいつは、柚子ちゃん以上にマイペースだよ。どっちかと言うと、他人に構っている暇なんて無い、って感じかな」

「……私は暇そうだと?」

「まぁまぁ、そう言う意味じゃないよ。君はそれなりにお人好しそうだし、話を知っても深く関わらない分別もある。それにさ……」

 公貴くんは少し照れくさそうに鼻の頭を指で掻く。

「華子が柚子ちゃんを信用しているし……。前は僕から距離を取ってたから嫌われているのかと思っていたけど、……柚子ちゃんが華子に何か言ってくれたんだろ?」

「……まぁね」

 ほほう……、誤解が解けて、許嫁として一気に距離が縮まった感じですか。

「柚子ちゃん……そのニヤニヤ具合は、母さんに似てるから止めてよ」

「まぁいいじゃない。良かったね」

「うん」

 親友の王子くんが美少年になって来て、腐り神に取り憑かれて騒いでいる一部の上級生お姉様には不幸だけど。

 

 公貴くんの話はやっぱり、彼のお祖父さんのことでした。

 さすがに地上げの話まではしなかったけど、政界に復帰する為に色々無茶(・・)をしてお金を集めているらしい。

 公貴くんのお父さんはお祖父さんの秘書をしていて、その考えに反対みたいなんだけど、学生の頃に留学したドイツでお嫁さんを見つけてきて、お祖父さんが用意していた相手を袖にして強引に結婚したから、お父さんはお祖父さんに強く言えない立場になっているみたい。

 

「公貴くんはお祖父さん嫌い?」

「嫌いじゃないけど、好きでもない。政治()としては素直に凄いと思うけど、まともに会話した記憶もないし、母さんに結構辛く当たるからね」

「……ふ~ん」

「お祖父様も大概だけど、問題は、うちでずっと秘書や執事みたいな事をやってきた、綺堂が問題かな……」

「綺堂…さん?」

「父さんが言うには、お祖父様の為なら何でもやるって感じの人で、その人だけならまだ良かったけど、その息子が仕事を手伝うようになってから、ちょっと言えないような酷いこともし始めているんだよ……」

 

 綺堂さん……そしてその息子、か。問題あるのがこの二人ね。

 

「……あ、」

「声が聞こえるね?」

 一本向こう側の道から、複数の男性の声が聞こえてきた。

「僕を探しに来たんだ……。ごめん柚子ちゃん、聞いてくれてありがとう。ちょっと楽になったよ」

「話程度なら聞くよ? 私には何も出来ないけど」

「はははっ、それでいいよ、じゃあ、また学校で」

「またねぇ」

 

 軽く手を振り合って公貴くんは夜の住宅街へ消えていった。……御曹司なのに危ないなぁ。私も人のことは言えないけど。

 少し、この商店街の問題も見えてきたかも?

 

   ***

 

「綺堂っ、あの商店街はどうなっている?」

 

 豪華な執務室で、一人の老人が壮年の男に鋭い視線を向けた。

 この部屋にいるのは三人。着物を着た老人はソファに座り、壮年の男は老人の近くに立ち、もう一人の若い男は離れた扉の近くでジッと立ったままだ。

「立ち退き率は30%を越えました。少々時間は掛かっていますが……」

「その時間が問題なのだっ。次の選挙までどれほどに時間が残ってると思っている? それに30%だと? 先月より5%も増えておらぬではないかっ!」

「ですが、翁。残るやっかいな店主はあと数件です。そちらを落とせば、他の店も立ち退きを受け入れるでしょう」

 

 壮年の男――綺堂は、この主人に彼の父の代から仕えてきた。

 政治家として野心があるかなり傲慢な男だったが、地上げをしているのは金の為だけではなく、この地域の発展の為に必要なことだと理解して、それを知らずに立ち退きを渋る店主達に憎しみに近い歯がゆさを感じていた。

 

「そんな店は、いつもの連中を使って、トラックでも突っ込ませればいいだろう」

「翁よ、それはいけません。マスコミがまだ注目している現状で、地上げに関する事件が起きれば、翁との関係が疑われますっ」

「何か良い手立てはないかっ」

「……畏れながら」

 そう声を発したのは、それまで黙っていた若い男だった。

「控えろ京時(きようじ)、お前みたいな若造がっ」

「いや、お前の意見を聞こう」

 老人は綺堂を止め、その息子である京時に視線を向ける。

「あの商店街は、最近活気を取り戻し始めています。それに関わっていた私どもの手の者が数人様子がおかしくなり、開発が遅れております」

「……何があるのだ?」

「表だって調査は出来ませんので、それはまだ不明です。商店街ですが、不安が無くなり活気が戻ったのなら、不安を追加すればいいかと」

「だが、儂が関わると知られるような事件は困るぞ?」

「はい、地上げとはまったく関係が無い事件が起きればいいのです。……例えば」

 老人の鋭い視線を真っ向から受け止め、京時は微かに嗤う。

 

「商店街の子供(・・)が、行方不明(・・・・)になる……など、いかがでしょう」



 

 

次回、恩坐くんが主役です。

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― 新着の感想 ―
顔色が緑色なるのは > それ操ってるじゃん!? それにそんな顔色の客だけで埋まった店内は不気味を通り越してるぞ!? つーか、普通に恐いわ!
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