2-01 ダンスをしましょう ①
第三部第二章の始まりです。
開幕からドタバタというかバタバタしています。
「姫様っ、とてもお綺麗ですわっ」
「あ、ありがと」
私は今、数十人の王宮侍女さん達に囲まれてお着替え真っ最中です。
お祖父様である国王陛下から王太子である伯父様に王位が渡される儀式と、ティモテくんの王太子就任の式典が午前中に行われ、午後から王城前に集まった国民への新国王と新王太子のお披露目があり、国中がお祭り騒ぎになっております。
いくら反王家派を押さえる為とは言え、強行スケジュール過ぎませんか?
私が王位継承権を持つ王族になった事を示すお披露目も兼ねているので、私もてんてこ舞いなのです。
はぁ~~…シリルと遊んで癒されたい。
昨晩、お母様と弟のシリルとアタリーヌ姉様がようやく到着したのですよ。ノアとファニーが護衛していたから大丈夫とは思っていても無事でホッとしたわ。
でもシリルはアタリーヌ姉様に抱っこされてすやすや寝ていたので、朝にちょっとしか遊べなかった。髪を引っ張られても痛いけど痛くないよっ。
式典の間、シリルは仏頂面のリンネの膝の上で、ご機嫌で遊んでいます。
駆け足のような王都一周パレードを済ませ国民へのお披露目が終わったら、今度は貴族達が出席するパーティーになります。
本日四回目のお着替えですよっ! もういつもの黒銀ドレスか、あの白金ドレスでいいじゃんって思ったけど、お父様から盛大にNG戴きました。
黒銀ドレスは、ティナがちょこちょこデザインを変更しているので、着回し感は無いんだけど、姫で王女で聖女で公爵令嬢だから、黒は止めてと言われた。
やっぱ、黒はダメかぁ……。王位継承権も五位から四位に上がったし、仕方ない。
それで白金ドレスのほうだけど、当たり前というか、背中がエッチだからまだ早いとお叱りを受けました。王妃のエレア様は許してくれたんだけど、私もちょっと恥ずかしいから、それはいい。
それはいいんだけど、そうなると毎回大量の侍女さんに囲まれてお着替えになる。
しかも今日の為だけに超特急で作られたドレスだから、微調整もその場で行われる。私のドレスのようなサイズ自動調整機能はないので、両手を横に広げたままの姿勢で調整されるのできつい。……私、筋力無いんですよ。腕がプルプルするんですよ。
聖王国ではガチガチのコルセットではなくて、今はソフトコルセットが主流だけど、それでもキュッと締められると苦しい。
私の身体って悪魔の力で最適化されているけど、最適化されていると言うことは人として美しく見える数値なので、貴族女性が求めるウエストとは違うのですよっ。
「ユル~……」
あ、お仲間が来た。
私のお着替え部屋に現れたのは、私の友達でティモテくんの婚約者である、残念黒髪侯爵令嬢のベルティーユちゃんです。
お城で再会した時は、心配したと涙目でポカポカ叩かれました……。
「ベティー、そっちは終わったの?」
「わたくしは終わりましたわっ。……時間掛かりましたけど」
「うん、そのドレス似合ってるよ」
ベティーはこの二年で本当に綺麗になった。私より二つ上の15歳だけど、本当に大人っぽくなって、ティモテくんの横に立ってもお似合いだと思う。
「……だから、その情けない顔はお止めなさいな」
「だってぇ……」
ベティーは眉をシュンと下げて項垂れる。この子は美人なのに本当に残念だ。
何故ベティーがこれほど疲れているのかというと、それほどドレスの調整が大変だったからですが、大部分はベティーのせいなので文句は言わせない。
どこから聞きつけたのか、ベティーは私に『胸部装甲の強化』をお願いしてきたのですよ。
ベティーはけして小さくはないんだけど、いまだにティモテくんを狙っている、ポヨンポヨンのお姉様方に見下されたり、14歳とは思えないサイズのシェリーも側に居たから焦っていたそうな。
私はちゃんと説明しましたよ? 個人によって成長に差があるって。
私の技は、現代の所謂こちらから見ると『異界の知恵』を応用したもので、成長する余地がある場合のみ、その分の成長を促す効果があります。
神聖魔法によって、胸部の成長が止まった物質を【再生】して【活性】し、【回復】と【治癒】を使いながら、止まった成長を促す大変綿密で高度な魔法です。
だから成長する余地の無い人にはまったく効果が無い。……例えばティナみたいに。
一応、“裏技”は存在するけど、ティナが開発した特殊海綿は、人体に侵入して寄生する“亜物体”だから、私はティナを含めた関係者への使用を全面禁止にしました。
危険は無いけど、色々と面倒もあるかもよ? とベティーにも言ったんだけど、彼女の決意は変わらず、私は仕方なく、暗号名『聖母の慈悲』を施行した。
成功か失敗かと言われたら、とりあえずは成功しました。それほどの成長率は見られませんでしたけど、少し谷間が出来るようになったと大変喜んでいました。
だがしかし、私達上級貴族令嬢の着るドレスは淑女の戦闘服です。
綿密な計測の上で行う完全オーダーメイドです。下級貴族であるブリちゃん達が買ったような高級なだけの既製品とは“格”が違うのですっ。
爆撃がされる血煙舞う戦場で襲いかかる敵を殲滅し、生き残る為の武器なのですっ。
たかが数センチ、されど数センチ、そのわずかな差で刃が心臓を逸れるように、ドレスを修正しなければいけないのです。
多分ベティーのお針子さん達は全員徹夜でしょうね……。お針子さんに謝れ。
だからベティーの苦労は自業自得です。そんなおバカなところが可愛いんですけど。
まぁ、そんなどうでもいい話はともかく、私達もパーティーに出陣です。
「それではリュドリック兄様、エスコートお願いしますね」
「お前は二年の間に随分と……」
ん? 綺麗になったとか?
「肝が据わったよな」
失礼な。否応なく慣れただけですよ。
本当だったら私は、王位継承権を持っていても名目上は公爵家令嬢なので、お父様やお母様と一緒に上級貴族用の扉から入場になるのですが、今回は特別に王家用の扉から入場になります。
まあ色々と理由はありまして、救世の聖女(一応)が王家側に付いたことを貴族達に示す為と、リックがまだ婚約者を決めていないのでエスコートする相手が居なかったのと、私も婚約者がいないのでエスコートする男性がいなかったからです。
私としてはエスコートならリンネでいいんだけど、リンネは貴族じゃないからねぇ。
もちろん私もリックも、一声掛ければ生肉に群がるピラニアのように異性が寄ってくるけど、そんな地位目当ての連中はごめんだ。
婚約というとあの頭の痛い問題もありますが、私を国から出さない為には国内の貴族と婚約する必要がある。
これは下手をすると、王家としてはリックとの婚約も視野に入っているかも?
でも慌てて婚約者を決めると、正式な使者を立てて婚約を打診してきたシルベール教国の顔に泥を塗ることになる。
裏を知ってる身としてはいくらでも泥を引っかけても良いと思うけど、そういう事をすると、他国からそういう国だと見られて、他国からの輿入れにケチを付けられたりするので、政治的に教国の第二王子が留学して様子を見てからと言うことになりました。
面倒くさいな、教国は。……潰すか?
「……ユールシア、悪い顔になってるぞ」
「あらあら、うふふ」
お祖父様がお祖母様を。伯父様がエレア様を。ティモテくんがベティーを。そして最後にリックが私をエスコートして入場です。
リックの手が私の手を強く握った。リックは緊張しているのかな?
あら、シェリーはノエルがエスコートしているのね。居るのは分かったから手を振るのは止めなさい。
まずは私達四組でダンスです。私もちょっと怪しいけど、ベティーは大丈夫かな? ベティーがお城に来てからずっと、ぶきっちょ二人組で、ひーこら言いながらダンスの練習していました。
リックは意外とダンスが上手でリードしてくれた。普段は仏頂面なのにそんな笑顔を浮かべていると絵本の王子様みたいですよ。
私達が終わると、今度は上級貴族達が踊り始める。お父様、お母様、素敵です。
ノエルとシェリーもダンスを始めて、私は退散です。ダンスを申し込もうとする沢山の男性貴族を躱しながら、私のお仕事を始めます。
あの反乱に直接関わっていなかった肩身の狭そうな南方貴族もいますが、そこらの相手はリックやティモテくんに任せます。男の子の仕事です。
まずは、婚約者と離れて速攻で貴族女性達に囲まれているベティーの救出ですね。
「あら、楽しそうね。わたくしも混ぜて貰えるかしら?」
私が声を掛けると、ベティーを取り囲んでいた妙齢の女性達がビクッと震える。
「ユールシア様っ」
「わ、私たちは別に……」
ティモテくん狙いの女性達はきょどり始めるけど、中級貴族なら元から問題はない。問題なのはベティーと同じ侯爵家のお姉様方ですね。
「ユル…」
「あら、ユールシア様、本当にお戻りになっていらしたのね」
ヘコんだ顔のベティーの言葉を遮るように派手な女性が前に出る。
十代後半のお肉大好きそうな人です。真っ赤な唇に大胆に胸元を広げたドレスの女性は物怖じせずに私と真正面に向き合った。
「生肉でも食べましたの? 唇が真っ赤よ」
「なっ、いくらあなたでも失礼で――」
ぴしゃんっ、と、私は一瞬だけ威圧を放ちながら扇子を閉じる。
「まず名乗りなさい。あなたなど知りません」
「っ! あ、あなた、」
彼女が青くなったり赤くなったりしながら、怒りに震える。
あらまあ、意外と根性あるわね。………とっても私好みです。
少し興味を持って私が軽く微笑んだ瞬間、何故か分からないけど威圧もしていないのに彼女の顔が真っ青になり、ブルブル震えながら頭を下げる。
「……イゾ…ルデにございます」
私は頭を上げないイゾルデの首元にそっと撫でるように扇子を添えて。
「イゾルデ様。家名を仰いなさい。私が覚えてさしあげますから」
「…………お、お許しを…」
やばい、周りの令嬢達がドン引いている気配がしますっ! ただベティーの後ろ盾に私がついてますって言おうとしただけなんですっ。
これじゃまるで私が彼女の家族を人質に取ってるみたいじゃないっ。
どこの悪役令嬢ですか私はっ。
「ユル様ぁ!」
「シェリーっ」
ナイスタイミングっ!
「あらシェリー。ベルティーユ様をお任せしていいかしら? あなた達もお顔をあげなさい。彼女達をくれぐれもお願いしますわね」
「「「「は、はいっ!」」」」
令嬢達は背筋を伸ばして元気よくお返事してくれました。
「ユル様はどこかに行かれるのですかぁ?」
「ユルはすっごく忙しいんだから邪魔したらダメよっ。だってユルは、沢山の女性達の希望なんだからっ」
「……は?」
いや、元気になったのはいいけど、いきなり何を言ってるの、ベティー?
その瞬間、何か思い当たることでもあったのか、特定の女性達が、ハッとした顔でベティーの胸部をチラリと見て、私に向けてきっちり90度に頭を下げた。
「「「ユールシア様、お勤めお疲れ様です」」」
「え、……あ、ありがと」
なんだかあの『会』のおじさん達と同じ目付きをしてたけど、大丈夫かしら?
良く分からないけど、ベティーの味方をしてくれそうで良かったわ。
――――寄付は――カーペ商会で――――
「…………」
何か立ち去る寸前不穏な発言が聞こえたけど、気にしたら負けな気がする。
「ルシア、僕と踊って戴けますか?」
「ええ、ノエル。お願いしますわ」
お次は待ち構えていたノエルとのダンスです。私、お父様から知り合い以外のダンスを禁じられているので大変なのです。
「ルシアは今日も綺麗だね」
「あ、ありがと……ノエルも格好いいよ」
とても二年前に貴族となったとは思えないほどノエルの立居振る舞いは板に付いていた。勇者ということもあるけど、私が褒めた時の満面の笑顔に、令嬢達が結構本気の目でノエルの姿を追っていた。
「シェリーとのダンスも素敵だったよ」
「う、うん。彼女は……そうだね」
ノエルとのダンスが終わり、私はまた誰かから誘われないうちにダンスの輪から離れて、次のお仕事に取りかかる。
「あ、居た」
会場の隅のほうで、今度は貴族男性達の塊が出来上がっていた。一人の女性を取り囲んで、集団でせまっているように見えます。
お父様にも言われていたけど、やっぱりそうなっちゃいますよねぇ……。いっちょ、もう一仕事しますかっ。
「まあ、こんな所にいらしたのですね、アタリーヌお姉様っ」
ユルの技『聖母の慈悲』は悪魔の技ではなく、純粋な治療系です。
ダンスは結構本気でユルを誘っている男の子もいますが、本人気付いちゃいません。
次回はお姉様の救出。姫様は忙しいのです。





