1-09 小学生になりました ③
そう言えば、サブジャンルが出来るそうですが、この作品って現代のローファンタジー? それとも三章も考えてハイファンタジーでしょうか。
友達は少ないけど私は元気です。
クラスでは王子くんや華子や公貴くんと居るから、疎外感みたいなものはあまり感じません。お昼休みとかには、ダイエットと私の体力増強を兼ねて、王子くんと校庭をお散歩したりしています。
まぁ私が連れ出さないと、王子くんが動かないからなんだけど、手を引っ張って強引に連れ出している。
……だから、変な噂が立つ訳なんですが、今更止められない。
恩坐くんには定期的に教わっているけど、いまだに“氣”は理解できない。
例の【力】は校庭や近所の樹が追加で三本枯れてから自重しています。
恩坐くんとは学年が違うけど、今のところ一番気楽に話せる友達かも知れない。あの人、お人好しというかお調子者というか、話しやすいんですよ。
もちろん七輪の件は、ちゃんとお説教しておきました。
「山で修行すると、いつも兄貴達と兎とか獲ってるぞ?」
「ここはお金掛けているから衛生的にまともだけど、食用じゃないから気をつけないとダメだよ?」
食品加工会社の娘としては、そこは譲れない部分なのです。
えっと……他に理由がありましたっけ?
「それと女がキックとか止めとけ。その……なんだ、……お前、弱そうだし、俺が守ってやるから」
「え……うん、ありがと?」
これは河原で殴り合ったら友情が芽生えた的な……?
そんな風に過ごしていると秋になって私は七歳になりました。
そして今年も王子くんから素敵な“プレゼント”が届きました。今年は何とテクセル種の可愛い子羊ちゃんです。
『メェ』
その後、子羊を見た人は居ませんでした。軽くミステリーです。
ちなみに関係ありませんが、テクセル種のラム肉は脂肪分が少ない最高級品なので、ダイエットにも良いらしいですよ。
王子くんはだいぶ痩せてきたけど、それでも他の子に比べたら少しぽっちゃりしています。それでも王子様っぽい公貴くんから『王子』と呼ばれても、私の心の痛みもあまり感じなくなりました。
今日は王子くんと公貴くんは校庭でサッカーっぽい事をしています。
華子は甲斐甲斐しくスポーツタオルを持って近くに控えているけど、私はお日様の下に長い時間居るとフラフラするので日陰になる壁際に退避です。
「ねぇ、ちょっとっ、そこのあんたっ」
「……へ?」
初等部をぐるりと囲む壁は4メートルくらいの高さがあって、上には電流が流れている。それでもまるっきり閉鎖的ではなくて、数メートル置きに意匠のように、格子付きの縦長小窓が付いているんです。
近くにあったその窓を覗き込むと、私と同じ歳くらいの、やけに可愛い女の子が格子にしがみついていた。
「そうよ、あんたよっ、ちょっとこっちに来て」
「…………」
この子は誰……? 可愛いのに口が悪いな。顔立ちは普通の日本人なんだけど、色素が薄いのか髪と瞳の色が茶色っぽい。
「……あなた、学校は? 高峯の生徒じゃないんでしょ?」
「そんな事どうでもいいのよっ、私はこの世界の【ヒロイン】なんだからっ」
私の問いに、彼女は格子にしがみつきながら胸を張る。
「ひろいん……?」
「そうよっ、あんたみたいなモブには分からないでしょうけど、私がやる事が全て優先されるんだからっ。そんな事はいいのっ。あんた、九音公貴くん知ってる? この学校に居るはずなんだけど」
「公貴くん?」
公貴くんの友達? いやいや、彼がこんな頭のわる……愉快そうな人と友人だとは思えない。でも何気なく私が公貴くんのほうへ視線を向けると、彼女もそれを追って公貴くんを見つけたみたい。
「ああっ、あれが九音公貴くんなのねっ! 想像通りすごく格好いいっ。まだ小さいけどっ。私、スチル画像集めていたのよねっ」
「……えっ」
やばい、ストーカーかっ。それになんだろ……久遠の発音が何かおかしく聞こえる。
「あなた、……誰?」
「なによ、邪魔しないでっ、もう! 私は桜咲マツリっ。下町元気娘よっ♪」
最後にキラッ☆と擬音が付きそうな感じで、マツリは片目を瞑って、てへっと舌を出す。……うわぁああああああああああああああああ。
「それよりあんたっ、公貴くんの近くにいるのは誰? もしかして美王子くんっ?」
「……(ビクッ)」
「やっぱりそうなのね、何であんなに痩せてるのっ!? まだ太ってるけど、もうイベントが始まってるって言うの……? いや、また太るのかも知れないし……」
マツリが何かブツブツ言い始めた。
何か失礼なこと言ってるなぁ……。王子くんも間食の癖が無くなってきたから、これ以上太ることは無いと思うけど。
その後もマツリから何人か名前を出されたけど、面識が無かったり、名前が微妙に違っていたりしてあまり答えられなかった。それに個人の事を教えるつもりもない。
そして私は彼女の話に適当に頷きながら、そっと壁のボタンを押す。
「なによ、あんた、使えないわねぇ。まぁいいわっ、それなりに便利そうだから、私が高峯に転入したら、あんたを私のグループに入れてあげるわっ」
「……考えとく」
「ちょ、何よあいつ、あれ、カコでしょっ、悪役令嬢が何やって…」
ポン。
「お嬢ちゃん、そこで何をやっているんだね?」
「……え」
この学校の塀の内側には、数十メートル置きに警備室直通の【通報ボタン】が付いている。近くにあって良かったわ。
ボタンを押して2分で現れた警備員に肩を叩かれたマツリは、
『私はこの世界のヒロインなのっ』とか、
『私が攻略終わったら、あんたらクビにしてやるんだからっ』とか、
『ちょっと、あんた、こいつらに何とか言ってよっ! なに撮ってんのっ』とか、
色々叫びながらどこかへ連行されていきました。
ちなみに例の高校生の暴漢が侵入した経緯から、高峯の警備員は未成年にも容赦がないと一部の人に有名なのです。
いや~、久々に良いモノが見られましたわ。
ちなみに連行される様子は、ちゃんと携帯で撮影しておきました。
***
マツリは下町にある普通の家に一人娘として生まれた。
物心がついた時には父親は居なかったが、母が水商売をしており、不自由な生活をしたことはなく、近所の人達が気さくな人達だったので、寂しいと思うこともなく大きくなっていった。
母親はしっかりとした人物であり、女手一つでマツリを育てながら“女”としての生き方を幼いマツリに叩き込んだ。
マツリは才能があったのか無意識に男性を引き寄せる術を身に付け、下町特有の元気な明るい性格に育ったマツリは、誰からも愛されるようになった。
このまま育てば、無意識で無邪気に男性を引き寄せる“小悪魔”のような存在に育っていただろう。
だが、母親が店の客であるベンチャー企業の社長と再婚した時、ある事で、その流れが違う方向へと変わった。
「……私……桜崎マツリだ」
新しい父親となった桜咲の姓とは少し違うが、鏡に映ったその容姿は、何度もプレイした乙女ゲーム【恋重ねのミルフィーユ ~イケメンパラダイス~】の主人公そっくりだと気付いた。
その言葉を口にした瞬間、大量の記憶が押し寄せ、彼女の小さな脳はその負荷に耐えきれず、数日寝込んだすえに目を覚ました時には、今のマツリになっていた。
マツリは前世の記憶を思い出した。細かい部分は曖昧だったが、その部分に以前のマツリを詰め込んで統合した。
前世のマツリは、生徒不足で名前を書けば受かると言われた女子校の生徒で、四日間徹夜でこのゲームをして、肉まんを食べたまま寝落ちしたせいで命を落とした。
だがマツリは前世で死んだ事より、この世界に生まれ変わった事に歓喜する。
物語である、ゲームの世界に転生というのを聞いたことはあるが、この世界こそ乙女ゲーム【恋重ねのミルフィーユ ~イケメンパラダイス~】だと理解した。
ゲームの物語は、上流社会の子息子女が集まる高嶺学園の中等部から始まり、高等部を卒業する六年間がその舞台となる。
ここでマツリは、学園で見かけない下町の元気娘として、攻略対象から興味を持たれて“恋”を育てていくことになるのだ。
攻略メンバーは5人。
九音公貴。
名士であり議員でもある九音家当主の孫で、祖父が地上げに関わっている事に悩み、好感度50%以上で夜中に家出するイベントに遭遇し偶然衝突すれば、彼から悩みを聞くイベントが起こり、友人的好感度が恋人的恋愛度に変化する。
二句之美王子。
有名食肉メーカーの御曹司で、彼は長生きできない家系を精肉となった動物の呪いだと思い込んでおり、ストレスからの過食で最初は太っている。
彼から悩みを聞き出し痩せさせる事で婚約イベントが発生し、その悩みを解決することでフラグが成立する。
この他には、生徒会の腹黒眼鏡は公貴の友人で、公貴との好感度が80%以上ないとイベントが発生しない。
不思議な力を使う寺生まれの少年は、彼の力で美王子の悩みを解決するので、美王子のイベント進行が70%を越えないと恋愛度が上昇しない。
若い教師は、自分の名前が“某ゲームの電光獣”であることを悩んでおり、同じ素敵ネームである美王子の悩みを解決して、美王子に仲介して貰わないと好感度がマイナスになる。
見て分かる通り、このゲームは複数同時攻略推奨であり、最終目標はゲーム名の通りに、『イケメンパラダイス』を作ることだ。
そして現実ではそんな事はあり得ないとの批判を避ける為、最終ハッピーエンドは、“肉欲パラダイス”と言われる婚姻関係無しのただれた関係になり、18禁内容をこれでもかと盛り込んだすえに、このゲームは発売三ヶ月で販売停止となった幻のゲームだったのだ。
前世のマツリが、勉強もせずにこのゲームを2000時間以上プレイした経験から、このゲームは公貴と美王子の初期攻略が必須であると知っていた。
やっと見つけた高峯学園での彼らは設定も名前もゲームとは若干違っていた為、マツリは、ゲームが現実になったのだから多少の違いが出たのだろうと、中等部入学まで待ちきれず、初等部に転入出来るように新しい父親に強請っていた。
この世界は、【現実】であり【ゲームの世界】ではない。
現実で起こったことを偶々“予知夢”のような形で視る事が出来た者が、偶然にもゲームシナリオライターだっただけの話だった。
それでもゲームの内容に沿えば、ある程度はマツリの希望が叶うだろう。
たった一人……とある【少女】がこの世界に現れる前だったなら。
テンプレストーリー
『恋重ねのミルフィーユ ~イケメンパラダイス~』追加
次回、そろそろ物語が動き始めます。……やっと。





