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2話:ちょっとは成長したけどまだまだやりにくいです

転生から三年ほど経過時しました。この物語、学園に行ってからも本筋のルートに入るまではこんな感じでちょくちょく時間系列を飛ばしていきます。

そしてブックマークが二人増えていて驚きました。読んで下さりありがとうございます

「よっと」

 写真騒動から大体三年程が立ち、身体の自由がききはじめた今日この頃。

 私、ツルギ・ソードガルフは四歳になり、ステータスに表示されるレベルは王国騎士と同等の八十三になりました。転生チート、恐るべし。

 私は大きな庭の高い木にスキルフル発揮でよじ登り、誰にも見えないようにマニュアルノートを発現させ、スキル追加のページを開く。

「えーと、『料理スキル』は……あ、これか」

 料理スキルの欄の《製菓》スキルをタッチし、自分のスキル欄に追加する。それ以前の《調理》はこの前取ったから問題は無し。

 なんでこんなことをしているのかといえば、それは来週ミルアの誕生日があるからだ。

 最近ではたくさんの言葉を覚え、普段から甘い両親の顔が緩みっぱなしなくらい愛されているミルアは来週にはもう三歳になる。……将来あの子がワガママにならないかが物凄く不安である。

 ちなみに《創造》スキルでもお菓子は原子レベルから創り出せるのだが、そうしないのはあくまでこれが私の気持ちだからだ。ポンポン作り出せるものより、手間暇かけて作った方が貰い手としては嬉しいだろう。あくまで私の主観だが。

「もう三年……か」

 私がツルギとして生を得てから四年、自我を持ってから三年、そして最後に死神のルナと会ってから一年が経過した。

 あの空間に行くと身体は元の《剣》に戻るらしく、そして衝撃の事実を教えて貰った。


「あ、別に元の《地球》に行けないことはないよ?」


「……WAHTなに?」

 こいつは いったい なにを いって いるので しょうか ?

「流石に『間違えて殺しちゃってごめんねー異世界に住む権利(義務)あげるから許してちょ☆』じゃー神様の信用だだ下がりだから、転生者が然るべき年になったらあっちとこっちに行き来出来るようになるのですよ」

「そういうことは先に言っておいて欲しかったです……」

 というかそういう融通をきかせられるなら普通に地球に転生したかったかな。なにが『強くてリスタートは出来ません☆』だ。適当すぎてもはや笑えてくるわ。

 ルナ曰く『然るべき年』っていうのは大体『学園』に入学するくらいの歳らしい。だから後六年くらいかな。

「因みに君をアステラルに転生させたのは、君が一番『転生するならここがいいなー』って願ってたところだから、というのが理由だよ」

「ほんとに大切なことを言いませんねこの死神風情は」

 はぁ、と大きめに溜息をつく。

 まあ、六年後に帰れるとしても帰る気は全くないんですけどね。

「え、そうなの?」

「心読むのやめて下さい。……それはまあ、最期はちょっと思い出したくないことされてたみたいだし」

 地球に戻ったとして、私はどうなるのだろう。

 私は後輩に殺されて、地球に『城崎 剣』という存在はもう居ない。だからそこに死んでるはずの『剣』が行ったとして、周りの人を困惑させるだけだろう。そもそも私が『剣』の体を持って行けるわけではなさそうだし。

 ……ただ、私が『剣』としてあの世界に戻る時は、『あの子』が本気で願った時だけだろう。

「ルナさん、ちょっとお願いがあるんですけど」

「なあにー?」

「『あの子』が『剣』に会いたいって、助けってって願った時、迷わずに私のことを『現世』に飛ばしてくれますか?」

 いつに無く真面目にいうと、ふざけた雰囲気のルナは急に真面目になり、「うん」と頷いた。

「それじゃあ、取り敢えず私は帰りますね。ルナさん、また二年後に」

「はーい、次来る時はお菓子持ってきてくれると助かるかな☆」

「野菜のおがくずとタバコの吸殻とハバネロを混ぜてチンしたものがお菓子だと言うのなら、それで良ければ」

「うん、それはお菓子というか辛めに味付けしたただの『生ゴミ』っていうんじゃないかな」

 笑顔で冷や汗を垂らすルナを見て思わず笑って、私はアステラルに帰ってきた。


「っていう会話をしたのは一年前だけど、ちょっと聞きたいこともあるしまた今度行こっかな」

 開いたステータスの一番下、『ログアウト』ボタンを見て思慮に耽る。

 ……というかどうでもいいけど『ログアウト』って何ですかルナさん。これはゲームであって遊びではないとでも言いたいんですかちょっと。

「まあ、この世界の元ネタ考えたらそうなんだろうけどさあ……」

 トップ画面が天界の死神の部屋とかいろんな意味で困るわ。というか焦るわ。



 一応ここでこの世界のことを整理してみようかな、と考える。

 ここ、異世界『アステラル』は私が生前プレイしていたゲーム、所謂『乙女ゲーム』と呼ばれるものの舞台であり、私こと『ツルギ・ソードガルフ』はもとは『リンカ・ソードガルフ』という名前であり、この『イケメン魔法学園〜彼と私の恋する魔法☆〜』とかいう歯が浮くような題名のゲーム(通称・コイまほ☆)に登場する悪役令嬢だ。

 その悪役っぷりったらプレイヤーの青筋を破裂させるレベルで、主人公を陰湿なイジメの対象に仕立てあげたり、バッドエンドでは攻略対象から手痛い仕打ちを受けさせたり、実家の権力で主人公を奴隷身分に戻してこき使ったり、主人公の攻略対象を奪い取り横恋慕したり、行く先々で攻略対象が居なくなった瞬間嫌味を言ったりジュース掛ける地味に痛い嫌がらせをしてくるなどetcetc……とにかく本気でウザイ。ついでに精神は根っこの方から腐っているという、『お前どんだけスタッフに嫌われてんだよ』と言いたくなるほど悪役に仕立てあげられたキャラだ。現に私はプレイ中上記に上げた全ての仕打ちを体験した。デート中のそれには「お前ホント暇だな! 侯爵令嬢が聞いて呆れるわ!!」とかなんとか言って妹にうるさいと怒られた。

 しかしそんなウザキャラな反面、ハッピーエンドでもノーマルエンドでもバッドエンドでも、全てのエンディングで漏れなく『死んでしまう』残念なキャラだったりする。

 イジメに関しては全ルート共通だが、奴隷身分に戻された時はそれが攻略対象(王子)にバレてもっと強大な権力により処刑される。横恋慕の時は確か攻略対象(王子の側近)に辛辣な言葉で拒絶され、主人公が暴走して主人公に殺害され死亡。一番酷いの(攻略対象・生徒会長)だと主人公に取り巻き全てを改心させられて集団イジメに逆に合い、今までしてきた悪行が親にバレて慕ってくれていた妹に「これ以上ソードガルフ家の生き恥を増やさないで」と家宝の剣で刺されて死亡。

 何だか一番最後の殺され方は親近感がもてるけど、私と彼女ではまず根本的なものが違う。私の場合は愛憎故の殺害で、彼女の場合はただの自業自得だから。いや、自分で言っといてアレだけど女の子に刺されてもな。慕ってくれるのは悪い気はしないけど。

 ……まあ話を戻すと、つまりは私は色々とまずい状態なのだ。

 このままストーリーに忠実に進んでいけば私は実に300%強の確率で(絶対に)死ぬか殺されるか天に召されるかの選択肢しか与えられないことになる。それは嫌だ。

 だから私は決めた。

「もう顔とかまんま女顔の男子だし胸は前世よろしく全くないし、このまま男ですとか言ってもすんなり受け入れられそうだから男装しよう」、と。

 そもそもリンカさんは奴隷上がりの主人公・ミク(デフォルトの名前)が王族だったりその側近だったり公爵家の一人息子の生徒会長だったり学園一のエルフの賢者や王国騎士隊の獣人部隊長の息子、イケメン優男な魔族の先生に近付くのが許せないとか言うトチ狂った理由で嫌がらせしてたのだから、私が彼等と『恋仲』になれない状態にすれば良いだけだ。いらないフラグは範囲攻撃でへし折りましょう。

 ちなみに私が『女の子』にモテる可能性については、前世での経験から私が『女』として紳士に接するからダメなんじゃないかなーといった反省を得た。前にルナに聞いたところ、後輩が私を殺した理由が『先輩は女の子だから、女子の私たちは恋愛対象に入ってるわけないし、何時か男に取られるくらいならいっそ……』とかいうものだったからだ。……まて、私『たち』ってことは後輩以外にも他にいたってことかな? 今頃悪寒がやばいです。素直に死んでよかったのかもしれない。

 そんな訳で私が『男』として彼等、そしてミクさんに極力近付か無いことが、一番厄介事に巻き込まれる可能性が低くなるんじゃないかなぁ、とか思っちゃったわけでございます、はい。

「まー『男装したい』って母さんに言ったら卒倒しそうな勢いだったのが不安だったんだけどね」

 そんな不安も父さんの肯定の一言で吹き飛んだ。

 私が生まれたこの『ソードガルフ家』はどうやら名のあるお家柄だそうで、なんと侯爵家らしいのです。凄いよね、だって侯爵家って上から二番目だよ? 公爵の次。まあ言われただけじゃ一番か二番なんてわかりっこないが。

 そんなソードガルフ侯爵には息子が居ないわけで、娘しか居ないわけで。

 母さんの身体もそんなに強くないからこれ以上新しい子供を産むことも出来ないらしく、父さんとしては養子を取ることを考えてたけど父さんの母さん、つまりおばあちゃんがそれを許してくれないらしく、そんな中で私が『男の子になりたい(というかフリをしたい)』なんて言い出したんだから、まあ便乗しない手はないよねっていうお話。

「あ、あった。『転性魔法』だ」

 種類的には闇魔法か変化に入るんだろうけど、ルナ曰く「転性魔法は特殊な部類に入るんだよね。変化+闇+光+創造みたいな感じで」とのこと。転性の何処に光の要素が入るのかは疑問だが。

 そういえば最近気付いたことといえば、この世界の人間、もしくはそれに準ずる生物はたまにほかの人(私は除く)には使えない特異な魔法を持つ場合がある。本当はそういう特殊魔法はみんなが持っているらしいんだけど、条件やらなにやらで発現しないことが多いらしい。私の場合はただのチートで手に入れた魔法なんだけど。

「よーし、製菓スキルも転性魔法も取得したし、ノートも更新した。……けど、レベルが上がっているのは気のせいだよね」

 いらないブラウザ(仮称)を閉じて改めてステータスを見ると、先ほど八十三だったレベルが八十六になっている気がする。気のせいかな? 気のせいだよね?

「……もしかして私のレベルが高いのって、スキルたくさん詰め込んだから?」

「お嬢様」

「!?」

 木の上でそんなふうに唸っていると、目の前にいきなりメイドのユリさんが来た。

 突然の事でバランスを崩し、木から真っ逆さま。わー、走馬灯が見える気がしないでもないなー……なんて笑顔で落ちていき、衝撃に備えて目を瞑ると、

「危ないですよ、お嬢様」

「……あはは、すいませんありがとうございます」

 まあ、予想通りというかなんと言うか。

 気付いたら私は気の上に居たはずのユリさんに抱きとめられていて、所謂お姫様抱っこ状態。ほんと凄いなこの人。

「木の上に登るのは構いませんが、見つけたのが私で良かったですね」

「……あー、確かにヒルダさんだったら不味かったですね」

 ヒルダさんというのはソードガルフ家に仕えて十五年のベテランメイド。礼儀作法に煩く木になんか登っていたら「はしたないですわよ!!」とかなんとかお咎めを喰らう。心配してるのだろうけど、自分としてはほっといて欲しい。

 その点彼女、ユリさんはこんなふうに多少の事は許してくれるし、危なくなったら助けてくれる。それがお風呂であろうが木の上であろうが。……本当にこの人忍者かなんかじゃないのかな? というかお風呂で助けてくれた時はマジでどっから来たんだとビビりましたよ。

「お嬢様、そろそろ習い事のお時間でございます」

 私を地面に下ろし、目を見ながら彼女は言う。彼女が『習い事』と称する時、習うそれは必ず新しいものだ。

「あー……また父さん何か増やしたんですか?」

「いえ、ルシア様ではなく、そのお母様でございます」

「おばあ様ですか……あの人何私をどうしたいんでしょうか」

 私に習い事は必要ない。何故なら全て『スキル』として簡単に手に入れることが出来てしまうから。

 それがいつか身を滅ぼしそうで怖いなーというのはあるので取得する際は出来るだけ『頭の中身』に関する事は取らないようにしているけど、ピアノだとかバイオリンだとかはもうだいぶ前にスキルとして修得してある。ランクは気付いたらA辺りになっていた。

「で、その習い事とは一体?」

「魔法学に関する習い事です」

 ……そう来たか。

 アステラルにある私達が住む国、アルフラド王国は三つある大陸のうちの一つ、ユーゼンブルグ大陸のほぼ半分を閉める大きな国だ。他の大陸にある国の多くは小さかったり、何処かの植民地だったりするのにも関わらず、ユーゼンブルグ大陸では全ての国がアルフラド王国と友好条約を結んでおり、建国から千年立つ今でも国同士の大きな戦争は起きていない。周りの国も平和で、地球と違って人種差別なんかは何処にもない。……男女差別や身分制度は少しだけ残ってるけどね。主にこういった金持ちの間で。奴隷とかさ。

 そのアルフラド王国では国が大きすぎる故、国を五つに分けて、中央は王族が統治し、東西南北はそれぞれ王が信用する公・侯爵家がそれぞれ治安維持等に当たっている。ソードガルフ家は西の領域、ヒアシアル領を統治する唯一の侯爵家ってこと。割とすごいことなんだよ、これ。

 北のらアルゼン領には主に鉱山や鉱石などの発掘所があるのでそこで働く人の家や工場なんかがあって、東のリュートニア領には学園都市、開発ラボ、職人達の街がある。西のヒアシアル領は冒険者達のギルドや大きな鍛練場、コロシアムなんかがあるけど、ソードガルフ家の本家自体は郊外の静かな所にあるので私は行ったことがない。ルシア父さんはちょくちょく仕事で行ってるらしいけどね。そして南は海に面しているためか市場や漁港、中央よりになれば農場や牧場と、有名な料理店が多いかな。

 話を戻すと、私のような子供は十歳になるとリュートニア領にある学園都市に行き、八年の寮生活を余儀なくされる。別に絶対に行かなきゃいけないわけじゃないけど、『学園都市で学ぶ』ことが貴族にとってはステータスになるらしく、爵位を持つ家の子供は必ず学園都市で学ぶ。まあ凄い人は飛び級とかも出来るし、途中編入も普通に認めている。留年とかもあるし中退もあるけどね。

「魔法学なら楽しいですし、私も好きですから大丈夫だと思います」

「……お嬢様、何時も言っておりますがメイド如きに敬語を使うのは如何なものかと」

 あ、ユリさんがなんか眉を顰めてる。

 この世界ではお金持ちの家がメイドや執事を雇ったり奴隷を買ったりするのは普通のことで、勿論立場的には彼等より私や両親などの方が上だ。だから私がユリさんに敬語を使う必要は無いし、威厳的な意味でも使うべきではない。

 けど。

「ユリさんは年上ですし、個人的にも敬うべき人だと思っています。私が好きでやっているので、ユリさんが恐縮する必要はありません」

 と、そこまで言ってハッとする。

 恐る恐るユリさんの顔色を伺うと、やはり驚いたような表情でこちらを見ていた。

 ────やってしまった。

「……時々、お嬢様のお歳が分からなくなる時があります」

 ふわりと微笑みながらそういう彼女に、自責の念が出てくる。

 今の私、四歳じゃーん。

 普通なら夜中のお手洗いもまともに行けない四歳児が何難しい言葉使ってんだか。しかもまだ成人ほど呂律が回らないしこの高めの声のせいで必死な感じが出かけている。

 次からは気をつけねば……こんな時、ホームズ顔負けな身体が小さくなっちゃった少年探偵ばりの演技力が欲しいわ。いや、切実に。

「そのような嬉しいお言葉、私には勿体ないですよ、ツルギお嬢様」

「ええと、本心ですよ?」

「本心でも、です。私はしがないメイドですから」

「……ふふふ、では勝手に呼ばせていただきますね」

 ここは譲れないからね。いや、事実ソードガルフ家とこれに仕える人達の中で一番強いのは彼女だから。それはもう二年前からスキル《盗み見》で知っている。……年齢実に十八歳でレベル九十前後だった事を知った時、この人には出来る限り逆らうまいと本気で思ったのは言うまでもない。

「では行きますよ、お嬢様」

「はい、ユリさん」

 余談だが、魔法学の習い事に関しては私が張り切りすぎて講師の人が挫折してしまった為翌日から無しになった。てへっ。


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