放課後。アフタースクール。
「なんだかひまですねえ。」
教室に声が響く。
「なんだかひまですねえ。」
夕焼けに声が響く。
「・・・はあ」
祥子は腕を下ろす。
「やめよ。こんな遊び。」
指につけたクマの人形を外す。
「クマさん。つきあってくれてありがとうございます。」
ぺこり、とお辞儀を一つ。
「そうです。お礼代わりにこの私がクマさんに名前をつけてあげましょう。」
祥子はクマの人形を目の前まであげる。
「ふむ。無言ですか。ふむふむ。感無量というやつですか。」
「違うよ。絶対。」
男の声。
「うわっ、びっくりした。クマさんがしゃべった。」
「違う違う。人間人間。」
「え、クマさんはくまさんですよ。くまのお人形さんですよ。指人形さんですよ。」
「おーい、こっちを見ろ。祥子。こっちだ。扉の方を見ろ。」
祥子は教室のドアの法に目を向ける。
「んん、あ、なんだ友達くんじゃあないですか。いつからいたんですか。」
「いや、まあ、ちょっと前からかな。」
「ふむ。そうですか。あ。そうだ友達くん。きいてくださいよ。いまクマさんがしゃべったんですよ。」
「それ、実は俺なんだ。」
「なんと。」
「びっくりだろ。」
「友達くんはじつはクマさんだったんですか。」
「うん。」
「じゃあ、私の私生活とかダダ漏れですねえ。プライバシーもなにもあったもんじゃないですねえ。」
「うん。」
「じゃあ、私の恥ずかしいところとかも全部知ってるんですねえ。」
「うん。」
「なんと。」
「びっくりだろ。」
「エッチですね。友達くん。私の体の隅から隅までをみしっかりとみていたってことですもんね。」
「うん。まあ。…ねえ。祥子。そのクマさんちょうだい。」
「どうしたんですか唐突に。」
「だっておまえそのクマさんで絶対エロいことしてるじゃん。」
「なぜわかった。」
「だってふつうのクマさんだったら体の隅から隅まで知らないじゃん。絶対エロいことしてるじゃんおまえ。」
「まあ、してますよこのクマさんで。」
「まじで。」
「うそです。」
「男の純情をもてあそんだのか。」
「いやですね。なにが男の純情ですか。」
「なにをいう。」
「今までの会話から私は友達くんが変態だということを理解しました。」
「なんてことだ。」
「これからは変態くんってよんであげますよ。」
「やめて。」
「嫌ですよ。変態くん。」
「もう呼び始めた。」
「そうだ。変態くん。せっかくですから一緒に帰りましょう。」
「いいけど。」
「マックとかいきます?」
「そうだね。」
「ホテルとかいきます?」
「そうだね。すこしやすみにいこうか。」
「盛ってますね。変態くん。」
「うるせーびっち。」
「ひどい。変態くんが私を淫売よばわりした。なく。」
「え、ごめんよ。なかないで。」
「はい。じゃあ、そろそろいきましょうか。」
「…ホテル?」
「マックですよ変態くん。」
「しってた。」
「ふうん。」
「なにそれしんじてないだろ。」
「まあ、はい。」
「ひどい。」
「エロい。」
「クマさんでエロイことしてるくせに。」
「私がエロイことしたクマさんでエロイことするつもりだったくせに。」
「うん…。まあ…。」
「うわあ。」
「ああ、そうだ。あのさ。」
「なんです。」
「好きだなんだけど。おれ。祥子のこと。」
「知ってますよ。」
「…そっか。」
「……ホテル行きます?」
「…行く。」
「冗談ですよ。早くマック行きましょう。」
夕焼けに二人分の声が響く。
「今日も平和ですねえ。」
「いいじゃん。」
「そうですねえ。」
「だろ。」
「そうだ。これからは恋人くんってよんであげましょうか。」
「まじで。やった。」
「ふむふむ。今日も平和ですからねえ。さあ。かえりましょう。」
夕焼けに二人分の足音が響く。