表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Invitation  作者: 一奏懸命
4/13

01.Rain days(後)

 あれから一週間がたった。


 沖見 亮平はいつもの駅で呆然と空を眺めていた。

 偶然だが、今日もあの日のように曇り空だ。ひょっとすると、もうすぐ夕立が降り始めるかもしれない。西のほうからゴロゴロと雷の音も聞こえてくる。

「参ったな……雨の日が嫌いになりそうだ」

 自嘲気味に亮平は笑った。

 駅の改札を出ると、生ぬるい風が頬をなでた。あの日もそんな風が吹いていた。駅前の横断歩道。不意に、一週間前に千尋と歩いている自分の姿が蘇ってきた。

「……。」

 急に涙が出てきた。この一週間、自宅でどれだけ泣いたかわからない。なぜあんなことをしたのだろう。思いを伝えたいが故にあの日、コーヒーを千尋がもらいに行っている間にメールアドレスを変更した。よく考えたら、あんなのドン引きされるに決まっている。おまけに、前のアドレスも二度と使えないようになっているので友達に無意味に変更しました、のメールを送信しまくった。もちろん、あのアドレスでは送れないので変更しているが。

「なんで俺、あんなことしたんだろう……」

 亮平は今まで小学校から高校までずっと男子校に通っていた。女性と喋ったりするだけでドキドキして、今まで相手にもあまりされなかった。

 千尋と出会ったのは、大学に入ってすぐだった。駅で、帰りの電車で、時々見かけた。そのたびに千尋のほうを見て、話しかけたいと思っていた。けれど、女性との会話に慣れない亮平にはかなりの度胸が必要だった。

 そして、このあいだ。

 偶然にも雨が降った。偶然にも千尋が駅にいた。偶然にも自分は傘を持っていた。様々な偶然が重なって、二人は出会った。

 この機会を逃すと、自分は二度と恋愛ができないのではないか。

 なんでそんなことを考えたのか、自分でもわからない。焦っていたのかもしれない。結局、焦りが招いたのは誤解、そして別離だった。といっても、自分からすべて蒔いた種。今更どうしようもない。

「あきらめるしか……ないか」

 涙で濡れていた頬に、別の液体が――雨がかかってきた。あっという間にその雨脚が強くなり、みるみるうちに亮平の服を濡らしていった。


「……?」

 急に、亮平の周りだけ雨が止んだようになった。上を振り向くと、黒い大きな円形のものが眼に入る。


「よろしければ、入りませんか?」


 千尋の優しい声。優しい目。

「千尋……さん」

「びしょ濡れだと、風邪ひきますよ?」

 千尋が持っているのは、このあいだ亮平が放って行った傘だった。

「……。」

 亮平が涙目で千尋を見つめた。

「泣かないでくださいよ。私だって、泣いたんですよ」

「えっ……?」

「実は、沖見さんのこと、ずっと好きだったんです。毎日、電車で見てたんです。だから、駅で一週間前に声かけられたときはとても嬉しかったです。でも私、口下手で……考えさせてって言おうと思ったけど、ちょっと言い方がマズかったみたい」

 千尋はペロッと舌を出して笑った。

「じゃあ……」

 千尋はスッと傘を亮平に手渡した。

「受け取ってください」

 千尋は差していた傘を折りたたみ、亮平の手にギュッと握らせた。

「これって……」

「鈍い人だね」

 千尋はギュッと亮平の体を抱きしめた。


「私のそばに……ずっといてね。本屋さんにも、時々誘って。お茶、しようね」


「うん……もちろんだよ」


 二人は雨の降る中、しばらく抱き合っていた。

雨がキッカケで出会った二人。今度の連鎖的恋愛経験者はいったい誰でしょうか? 今後の展開にご注目ください♪

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ