第1話:鏡の中の国宝、ただし内面はコミュ障社畜
「おいアレン、またボートに乗ってるみたいな顔して。しっかりしろよ!」
幼馴染のリリアが俺の肩を小突く。
その瞬間、彼女の頬がわずかに赤らんだのを、俺は見逃さなかった。
(違うんだ、リリア。俺は今、自分の顔の破壊力にビビってるだけなんだ……)
前世は徹夜続きの冴えないシステムエンジニア。
それがトラックに跳ねられ、気がつけば中世ファンタジー風の異世界に転生していた。
神様がくれたボーナスは、凄まじい「外見」だった。
サラサラの銀髪に、吸い込まれそうなサファイアブルーの瞳。
街を歩けば老若男女が振り返り、すれ違う馬車が事故を起こすレベルの超絶イケメン。
普通なら、ここで「ハーレム王に俺はなる!」と歓喜するところだろう。
だが、現実は非情だった。
「リ、リリア……今日の髪型、その、すごく似合ってる、と思う……ぞ?」
俺は必死に、前世で培った「営業スマイル」を浮かべて褒めた。
脳内では完璧なエスコートシーンが再生されている。
しかし、鏡のような美貌から放たれたその言葉は、リリアにこう届いたらしい。
「っ……!? ア、アレン、あなた私をからかってるの!?」
リリアは耳まで真っ赤にして、持っていた木剣を俺に突きつけた。
「そ、そんな、国宝みたいな顔で、上から目線で品定めするように言われたら……バカ! 軽薄男! もう知らない!」
「え、あ、待って――」
リリアは怒ったように足早に去ってしまった。
残された俺は、トボトボと自分の部屋の鏡の前に戻る。
鏡に映るのは、憂いを帯びた表情でため息をつく、絵画から抜け出たような貴公子。
ただため息をついただけで、窓の外を通りかかった近所のお姉様が胸を押さえて悶絶している。
「……なんでだよ」
俺は頭を抱えた。
顔面が『神の一撃』すぎるせいで、俺のすべての言動に「超難解な裏の意味」や「圧倒的な自信」が自動でトッピングされてしまうのだ。
普通に挨拶する = 「フッ、俺の美貌にひれ伏せ」という挑発に見える。
緊張してモゴモゴ話す = 「お前など俺の相手に値しない」という冷酷な態度に見える。
優しく微笑む = 「お前、俺に惚れてるんだろ?」というチャラ男のドヤ顔に見える。
中身はただの「恋愛経験ゼロのコミュ障オタク」なのに、外見のスペックが高すぎて、女子たちの警戒度と要求ハードルが天元突破していた。
ちょっとやそっとのヘタレ行動をすれば「あの美貌で中身はヘタレとか、ギャップ萌えじゃなくてただの詐欺!」と幻滅される。
かといってイケメンらしく振る舞おうとすると「女慣れしてて怖い」と距離を置かれる。
「詰んでる……。転生してチート能力(顔面)貰ったのに、恋愛難易度がヘルモードすぎる……!」
美しすぎる青年アレンは、誰もいない部屋で、前世の社畜時代よりも深い、絶望のため息を漏らすのだった。




