第14話:臨界の揺らぎ
空間が、歪む。
ぶつかり合う力が、世界の輪郭を削る。
クロエが踏み込む。
速い。
だが、それ以上に――
「……重い」
セレナが呟く。
圧が違う。
力ではない。
“存在そのもの”の密度。
エルが解析する。
「出力、上昇継続」
「制御率、低下傾向」
クロエの動きは、止まらない。
むしろ、加速している。
アウラが受ける。
防ぐ。
だが――
「……変化しているな」
クロエの攻撃は、もはや“一点”ではない。
空間ごと。
意味ごと。
断ち切る。
「終わらせる」
その言葉が、再び落ちる。
静かに。
だが――重すぎる。
セレナが叫ぶ。
「クロエ!」
反応が、遅い。
一拍。
遅れて、視線が動く。
「……セレナ」
だが、その目。
揺れている。
深い。
底が見えない。
エルが告げる。
「対象認識、拡張」
「敵味方の区別、低下」
危険だった。
明確に。
クロエが、さらに踏み込む。
アウラへ。
だが、その軌道。
わずかにズレる。
「――っ!」
セレナが回避する。
直撃はしない。
だが、余波がかすめる。
空間が削れる。
「……今の」
エルが即座に分析する。
「味方巻き込み確率、上昇」
クロエが止まる。
一瞬だけ。
「……」
沈黙。
だが、その間に――
闇が、膨張する。
抑えきれていない。
アウラが距離を取る。
「……臨界か」
クロエが、息を吐く。
荒い。
「……まだ、いける」
その言葉自体が、危うい。
セレナが前に出る。
今度は、迷わない。
クロエの前に立つ。
「もういい」
短く。
強く。
「これ以上は、壊れる」
クロエが、止まる。
視線が、セレナへ向く。
その瞬間。
ほんの僅かに――
“戻る”。
「……セレナ」
名前が、はっきりと出る。
エルが報告する。
「制御率、微回復」
だが――
すぐに、落ちる。
「……長くは持たない」
クロエが理解する。
そして、笑う。
「……だろうね」
静かに。
自嘲気味に。
「このままじゃ、全部終わらせる」
セレナが答える。
「だから止める」
クロエが首を振る。
「違う」
一歩、下がる。
初めて。
自分から距離を取る。
「止めるんじゃない」
オッドアイが、揺れる。
「……合わせる」
エルが反応する。
「意味を確認」
クロエが言う。
「一人でやるからダメなんだろ」
視線を上げる。
セレナを見る。
「一緒にやる」
セレナの瞳が、揺れる。
一瞬だけ。
だが、すぐに定まる。
「……どうする」
クロエが、息を整える。
「制御、任せる」
短く。
それだけ。
エルが解析する。
「役割分担型制御」
「成功確率、不明」
セレナが答える。
「やる」
即答だった。
クロエが、笑う。
「さすが」
その瞬間。
アウラが動く。
「……調整時間は与えない」
空間が、歪む。
攻撃が来る。
クロエが動く。
だが――今度は違う。
セレナの光が、重なる。
「選択固定」
軌道が、ブレない。
エルが補助する。
「未確定補正」
クロエの一撃が、安定する。
暴走が、抑えられる。
完全ではない。
だが――
“形”になる。
アウラが、わずかに目を細める。
「……連携か」
クロエが踏み込む。
今度は、一直線。
「――通す」
一撃。
深く、入る。
アウラの構造が、揺らぐ。
だが。
同時に――
クロエの身体も、軋む。
「っ……!」
負荷が、大きすぎる。
セレナが支える。
「維持しろ!」
エルが続く。
「安定化、限界接近」
クロエが、歯を食いしばる。
「……まだ」
だが。
限界は近い。
三人とも、理解している。
このまま続ければ――
どちらかが、壊れる。
アウラが、静かに言う。
「……その状態で、どこまで持つ」
クロエが、笑う。
「さあね」
オッドアイが、揺れる。
だが、消えない。
「でも」
一歩、踏み出す。
「ここで終わる気はない」
セレナが並ぶ。
エルが構える。
三つの力が、重なる。
不完全なまま。
だが、確かに。
戦える形へ。
空間が、軋む。
外側が、揺らぐ。
戦いは、続く。
臨界は、超えていない。
だが――
その手前まで、来ている。
次で。
すべてが決まる。
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