第7話:選択の確定
戦場は、崩れかけていた。
アウラの“更新”は止まらない。
現実が、何度も書き換えられる。
「……厄介すぎるでしょ」
クロエが息を吐く。
攻撃は届く。
だが、“なかったことになる”。
セレナが分析する。
「因果そのものを上書きしている……」
エルが続く。
「結果ではなく、“成立前”を消している」
つまり――
「当たってないことにされてるってこと?」
「そうだ」
クロエが舌打ちする。
「チートすぎない?」
アウラは静かに答える。
「これが“外側”だよ」
その瞬間。
空間が歪む。
クロエの身体が“存在しなかった位置”へと押し戻される。
「っ――!?」
セレナが叫ぶ。
「クロエ!」
クロエは踏みとどまる。
黒が地面に食い込み、“今”を固定する。
「……戻るなよ」
歯を食いしばる。
だが、押し切れない。
その時。
セレナの視界に、分岐が広がる。
無数の未来。
だが、そのほとんどが――
「……消える」
アウラによって、選ばれる前に消される未来。
「選択できない……」
初めての“限界”。
観測しても、意味がない。
その時、アウラが言う。
「君は、そもそも戦う存在じゃない」
静かに。
だが確実に。
「観測者は、観るだけでいい」
セレナの動きが止まる。
「戻れるよ」
「“正しい位置”に」
揺らぐ。
それは、かつての自分。
役割。
存在理由。
「……私は」
迷い。
その一瞬。
クロエが叫ぶ。
「セレナ!!」
強く。
真っ直ぐに。
「もう選んだでしょ!!」
その言葉。
セレナの中で、何かが弾ける。
観測ではない。
記録でもない。
“自分の意思”。
「――ああ」
静かに、だが確かに。
「私は」
一歩、前へ。
「守る側だ」
その瞬間。
光が変わる。
純白ではない。
“色”が混ざる。
意志の光。
ノクティアが告げる。
「……定義変化」
エルが小さく呟く。
「確定、したか」
セレナが手を伸ばす。
未来を見るのではない。
“選ぶ”。
「この未来だ」
一つを掴む。
固定する。
アウラの“更新”に、初めて干渉する。
「……っ?」
アウラの表情が、わずかに変わる。
「書き換えが……遅い?」
クロエが気づく。
「いける!」
踏み込む。
黒が広がる。
終焉が、“確定した未来”に重なる。
「――今度は逃がさない」
アウラに届く。
確実に。
だが、その瞬間。
エルの視界が再び歪む。
白。
無機質な光。
冷たい床。
小さな手。
誰かに掴まれる。
⸻
「適合体、固定」
⸻
逃げられない。
怖い。
声が出ない。
⸻
「個体識別、更新」
⸻
“名前”が消える。
代わりに――番号。
⸻
「――っ!!」
現実へ戻る。
エルの動きが、一瞬止まる。
クロエが気づく。
「エル!?」
エルは答えない。
ただ、前を見る。
そして、呟く。
「……確定しない」
それは、誰に向けた言葉でもない。
「私は、決めない」
その瞬間。
エルの構造が変わる。
より柔軟に。
より“不確定”に。
アウラが言う。
「……それは、危険だ」
エルが返す。
「未確定だからな」
空間が多層化する。
アウラの“更新”を、完全ではないが――乱す。
クロエが笑う。
「いいじゃん」
セレナも続く。
「繋がったな」
三人の力が、重なる。
黒。
光。
未確定。
アウラに迫る。
だが――
「……評価を修正」
アウラの“輪”が、さらに回転する。
「次段階へ移行」
空気が変わる。
完全に。
「――まだ、足りない」
その一言で。
世界が、さらに深く歪む。
クロエが笑う。
「いいね」
セレナが構える。
「ああ」
エルも静かに言う。
「問題ない」
そして。
三人同時に踏み込む。
未確定は――
ここから加速する。
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