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一年後に捨てられる貧乏シンデレラですが、氷の社長の心を溶かしてしまったようです~秘密の趣味がきっかけで極上の愛を注がれてます~  作者: 水凪しおん


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第7章:社交界デビューと、予期せぬ庇護

『Lune Fleur』のプロジェクトは、涼の鶴の一声で、驚くべきスピードで進んでいった。社内に専門チームが組まれ、美月は「葵先生」と呼ばれながら、デザイナーとしての日々を送ることになった。毎日が目まぐるしく、戸惑うことばかりだったが、自分の生み出したものが形になっていく過程は、これ以上ないほどに刺激的で、充実していた。

 そんなある日の夜、涼が帰宅するなり、美月にこう告げた。

「今夜、パーティーに出席する。妻として同行しろ」

 それは、大手取引先が主催する、企業の創立記念パーティーだった。政財界の名士や、各界の著名人が集まる、大規模な社交の場だ。美月にとっては、生まれて初めて経験する世界だった。

「そんな、私、着ていく服なんて……」

 狼狽する美月に、涼は「用意してある」とだけ短く答える。彼が用意したのは、有名デザイナーが手がけた、月光を思わせるような上品なシルバーグレーのロングドレスだった。シンプルだが、上質な生地が美しいドレープを描いている。

「それから、これをつけろ」

 涼が差し出したのは、試作品として完成したばかりの『Lune Fleur』のネックレスだった。夜空に浮かぶ三日月をモチーフにした台座に、美月が選んだ小さな白い花、レースフラワーが閉じ込められている。

 プロのヘアメイクを施され、ドレスとネックレスを身につけた美月は、鏡に映る自分の姿が信じられなかった。まるで、魔法にかけられたシンデレラのように、別人に生まれ変わっていた。

 しかし、いざ華やかなパーティー会場に足を踏み入れると、その煌びやかな雰囲気に完全に気圧されてしまう。誰もが自信に満ち溢れ、楽しげに談笑している。自分だけが、この場に相応しくない、偽物のように感じられた。

 足がすくみそうになる美月の腕を、涼がそっと掴む。

「僕の隣から離れるな」

 低く、しかし確かな力強さのこもった声に、美月はこくりと頷いた。彼の隣にいることだけが、唯一の心の拠り所だった。

 涼は、次々と挨拶に訪れる人々にてきぱきと対応しながら、美月を「妻の美月です」と紹介していく。その度に、値踏みするような視線や、好奇の視線が美月に注がれ、彼女は身の縮むような思いをしていた。

 そして、そんな二人を遠巻きに眺めていた一人の女性が、ついにその前に立ちはだかった。

 燃えるような真紅のドレスを身にまとった、人形のように美しい女性。彼女こそ、涼との政略結婚が噂されていた社長令嬢、西園寺麗華だった。

「まあ、涼様。ご結婚おめでとうございます。こちらが、噂の奥様?」

 麗華は優雅に微笑みながらも、その瞳は笑っていなかった。彼女は、あからさまな侮蔑の視線で、美月を頭のてっぺんからつま先まで、じろりと見下ろす。

「どこの馬の骨かと思ったら……随分と、地味な方ですこと。Éclatの社長夫人が、そんな安っぽいアクセサリーでは、会社の格が下がってしまいますわ」

 彼女の視線は、美月の胸元で輝く『Lune Fleur』のネックレスに注がれていた。その言葉は、美月だけでなく、このプロジェクトを立ち上げた涼に対する侮辱でもあった。

 棘のある言葉に、美月は顔から血の気が引き、何も言い返すことができない。悔しさと情けなさで、唇を噛みしめることしかできなかった。

 その時だった。

 今まで美月のことなど、空気のように扱っていたはずの涼が、すっと一歩前に出た。そして、氷のように冷たい声で、麗華を制したのだ。

「僕の妻に、無礼な口を利くな」

 その声の冷たさに、麗華の表情がこわばる。

「彼女は、君など足元にも及ばない、素晴らしい才能の持ち主だ。そのネックレスは、我が社が総力を挙げて立ち上げた新ブランドの記念すべき第一号作品。その価値もわからない君に、彼女を侮辱する資格はない」

 凛と響く涼の言葉に、周囲の空気が凍りついた。一番驚いていたのは、他ならぬ美月自身だった。

 守って、くれた……?

 契約上の妻を守る、体面上の義務感からだろうか。それとも……。彼の予期せぬ庇護に、美月の心臓が、どくん、と大きく高鳴った。

 麗華は屈辱に顔を歪ませ、「失礼しますわ」とだけ言い残し、ヒールを鳴らして去っていった。


 パーティーからの帰り道、車の中には気まずい沈黙が流れていた。窓の外を流れる夜景を眺めながら、美月は先ほどの出来事を思い出していた。

 やがて、彼女は意を決して、か細い声で口を開いた。

「……あの、さっきは……ありがとうございました」

 すると、涼は前を向いたまま、そっけなくこう返した。

「契約だからだ。妻が侮辱されれば、僕の評価にも関わる」

 それは、いつもの彼らしい、合理的な理由だった。けれど、その横顔はなぜか、ほんの少しだけ不機嫌そうに見える。

 美月には、彼の本当の心が、まだ少しも読めなかった。

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