エピローグ:二年後、愛の花束を君に
涼と美月が、本物の夫婦として結ばれてから、二年という歳月が流れていた。
かつて美月のささやかな趣味から始まった『Lune Fleur』は、今やアクセサリーだけでなく、フレグランスや上質なリネンを使った生活雑貨も展開する、若い女性から絶大な支持を集める大人気ライフスタイルブランドへと成長していた。美月は、Éclatのクリエイティブディレクターとして、生き生きと仕事に打ち込み、その才能を存分に発揮していた。
二人の二回目の結婚記念日。
その日、涼は「少し遠出しよう」と言って、美月を車に乗せた。どこへ行くのかは教えてくれない。ミステリアスな夫のサプライズに、美月は胸をときめかせながら、車窓の景色を眺めていた。
やがて車が着いたのは、都心から少し離れた、緑豊かな郊外だった。小高い丘の上に建てられた、ガラス張りの壁が印象的な、モダンで美しい一軒家。その家の周りには広大な庭が広がり、まるで絵本の世界のように、色とりどりの花々が咲き乱れていた。
「涼さん、ここは……?」
「今日から、ここが僕たちの新しい家だ」
涼は、そう言って優しく微笑んだ。
「君がいつでも、好きなだけ花に囲まれて、心穏やかにデザインができるように。そして、いつか生まれてくる僕たちの子どもが、のびのびと走り回れるように」
それは、涼が美月のことを想って用意してくれた、最高のプレゼントだった。
家の中に入ると、大きな窓から太陽の光がたっぷりと差し込む、明るく温かい空間が広がっていた。リビングの中央に置かれた大きな木のテーブルの上には、何かが一つ、ぽつんと置かれている。
それは、涼が作ったのであろう、少し不格好なレジンアクセサリーだった。
「君への、記念日のプレゼントだ。初めて作ったから、気泡だらけだし、形もいびつだが……」
照れくさそうに言う涼。そのレジンの中には、二人が二年前に挙げた小さな結婚式で、美月が手にしていたブーケの押し花が、大切に閉じ込められていた。
その不器用で、でも、たくさんの愛情がこもったプレゼントに、美月は涙ぐみながら「ありがとう、宝物にします」と笑った。
そして、彼女もまた、小さな紙袋を涼に差し出した。
「私からも、プレゼントがあるんです」
涼が不思議そうに中を覗くと、そこに入っていたのは、手のひらに乗るほど小さな、柔らかな生地でできたベビーシューズだった。
「……美月、これは」
驚きと、そして込み上げる喜びに目を見開く涼に、美月は、幸せをいっぱいに湛えた笑顔で、こくりと頷いた。
「はい。涼さん……私たちのところに、新しい家族が、来てくれるみたいです」
「……!」
涼は言葉を失い、ただただ美月を見つめた。やがて、彼は愛しい妻を壊れ物を扱うかのように優しく抱きしめ、その平らなお腹に、そっと大きな手を当てた。
「ありがとう……美月。ありがとう……。世界で一番、愛している」
彼の声は、喜びで震えていた。
窓の外では、柔らかな夕日が、庭に咲き誇る花々を優しく照らしている。偽りの契約から始まった二人の物語は、たくさんの愛に満ちた、本物の家族の物語へと、その続きを紡ぎ始めていた。
幸せな未来を予感させる温かい光景の中、物語は、静かに、そして美しく幕を閉じる。




