表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法が全く使えない「言語学者」、異世界の古代語を解読したら全ての呪文の"誤訳"に気づいてしまった  作者: なは
第2章:共犯者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/42

三人の共犯者

 学院長との面談から三日後。


 エルネストは旧教室で、ティアとレオンハルトの二人に、学院長から聞いた内容を打ち明けた。


 研究禁止の処分。その根拠。そして——学院長が口にした「安全装置」という言葉。


「古代語が千年かけて劣化したのは、偶然ではなく……世界を守るための安全装置だった可能性がある。学院長はそう言った」


 エルネストの言葉が終わっても、ティアとレオンハルトはすぐには声を出せなかった。風が窓を揺らす微かな音だけが響いた。


 最初に口を開いたのはレオンハルトだった。


「……安全装置。呪文の劣化が、わざとだと?」


 レオンハルトは腕を組み、窓の外を見つめた。碧眼に映る空は、いつもと変わらない青だった。


「正直、学院長の話が本当かどうか、俺には判断できん。だが——嘘をつく理由もないだろう。五十年間向き合ってきた問題と言った。あの老人が、軽々しく脅しをかけるとは思えない」


「私も気になります」ティアが静かに言った。「学院長は具体的に何を恐れているんだろう」


「分からない。軍事バランスの崩壊以外に、もっと根本的な脅威があるらしい。だがその正体は明かされなかった」


「問題は、どうするかだ」エルネストが言った。「選択肢は二つ。一つ目、学院長の言葉を信じて研究を止める」


「二つ目」レオンハルトが続けた。「脅威の正体が分からないまま、研究を続ける。武闘祭にも出る」


「三つ目があります」


 ティアが言った。二人が彼女を見た。


「研究を続けながら、学院長が恐れているものの正体を突き止める。正体が分かれば、対策も立てられるはずです」


 エルネストはティアを見つめた。


「……ああ。僕が考えているのもそれだ。だが手がかりが少ない」


「見つけましょう。三人で」


 ティアの声には迷いがなかった。レオンハルトも小さく頷いた。


「管理部や爺さんの寝首は俺が監視しておく。政治の泥沼は貴族の領分だ。お前たちは研究に集中しろ。脅威の正体については——俺の出る幕じゃない」


「ありがたい。僕とティアは古代語の分析を続ける。学院長の言う『安全装置』の仕組みが解明できれば、脅威の正体にも近づけるはずだ」


 三人は旧教室を出た。


 それぞれの持ち場へ。研究者は図書館へ。実験者は練習場へ。政治家は侯爵邸へ。


 三人の「共犯者」の関係が、この日から正式に始まった。


     * * *


 その夜、エルネストは図書館の地下で、気になっていたことを調べた。


 古代文献の劣化だ。


 以前から感じていた違和感——古代文献の羊皮紙が、不自然な速度で褪色している現象——を確かめるためだ。


 エルネストは最も状態の良い写本を一冊選んだ。祈祷書の写本。典礼語と古代文字の対照テキスト。


 写本を閲覧机に広げ、特定の古代文字のインクの色と鮮明さを、ルーペで細かく観察した。基準点を定め、ノートにスケッチする。


(この劣化の加速が、僕が修正版呪文を使い始めた時期と重なっているとしたら——学院長の言う「安全装置」と関連があるのかもしれない)


 仮説に過ぎない。だが、確かな危機感がエルネストの胸の内に生じていた。


 図書館の閉館の鐘が鳴った。


 エルネストは写本を棚に戻し、地下一階を出た。


 階段を上りながら、ふと足が止まった。


 背後——地下の奥から、微かな振動が伝わってきた。地鳴りのような、だが音のない振動。


 気のせいだろうか。


 エルネストは振り返ったが、暗い階段の先には何も見えなかった。


 地下の闇は——沈黙していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ