消極的ナチュラルメイク
唐突だけど、アタシは手先が器用だと思う。
例えば、シルバ(相棒のママチャリ)のパンクは
自分で直すくらいの技術はある。
そんな器用なアタシでも、
壊滅的にセンスがないことがある。
それは、女子の必修項目――メイク。
どのくらい壊滅的かというと、
眉はメイクするより素のほうがマシ。
やり直し過ぎて、粘着力が尽きたツケマが
山のようにある。
壊滅的な原因も自覚している。
鏡の中の自分の手が、
思ったように前後左右に動かせないのだ。
従って、普段は
“ナチュラルメイク”という上限値で大学に行っている。
一つ納得いかないのは、
玉子を割れないさくらねえが、
メイクテクは神がかっていること。
それは置いといて、
今日は友達と出掛けるので、
少し頑張ってメイクしている。
そして最難関のマスカラ。
マスカラ――
……マスカラが無い。
もちろん、ツケマも無い。
仕方がない――
「さくらねえ、マスカラ貸して」
開けっ放しのドアに向けて、声を掛ける。
「いいよ、持って行くね〜」
同じく開けっ放しのドアの向こうから返事。
すぐに、マスカラを持ったさくらねえが来た。
受け取ったマスカラに、見覚えがある。
「さくらねえ、これアタシのマスカラ……」
「ああ、そうだっけ。ゴメンゴメン」
相変わらずズボラだ。
まあ、貸した本人も忘れているのだから、
そうそう責められないが。
「さくらねえの、そういうとこは直さないと!」
睨んだが、
さくらねえの視線は、
アタシの目の前にある物に刺さっていた。
「ひばり、そのチーク、わたしのじゃない?」
(あ、ヤバい)
「ま、まあ……お互い様ってことで」
「そうね。借りたら、すぐに返そうね」
(ソーリー、マイシスター)
さくらねえの視線が、アタシの顔に移動する。
さくらねえは自分の部屋から
メイク道具を持ち出し、アタシの横に座った。
「ちょっと、こっち向いて」
15分後、
鏡の中に、別人のアタシがいた。
(サンキュー、マイシスター)
こんばんは、ひばりです。
みなさんは鏡の中の手を正確に動かせますか?
鏡の中って二次元で、自分は三次元にいるから
特に前後の動きは感覚が狂います。
さて次回は、玉子を割れないさくらねえのエピソード
「積極的クッキング」です。お楽しみに!
2026年6月3日(水)公開です。




