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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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身体にまつわる相談

作者: 結城 からく
掲載日:2025/12/04

 薄暗い事務所の中、男女がローテーブルを挟んで座っている。


 一方は皺だらけのスーツを着た男だった。

 顔立ちは整っているが、ぼんやりとした目つきや引き攣った微笑が不吉な印象を醸し出している。


 コートを着た女は顔に包帯を巻いており、人相が分からない。

 艶やかな黒髪は胸の辺りまで切り揃えられている。


 女の不気味な風貌にも臆せず、男は名刺を差し出した。


「どうも、はじめまして。所長の弔木葬一郎と申します」


「とむらぎそういちろう……」


 女は名刺を受け取る。

 画用紙を切って作られたそれは、下手くそな文字で名前が書かれていた。

 肩書きは「霊能探偵」だった。


 名刺を仕舞った女は凛とした声で名乗る。


「佐野です。よろしくお願いします」


「ええ、こちらこそ」


 応じる弔木は煙草をくわえると、へらへらと笑って言う。


「散らかっててすみません。整理整頓が苦手なもので……」


「あの、煙草が嫌いなのでやめてもらえますか」


「ん、こりゃ失敬」


 睨まれた弔木は煙草とライターを胸ポケットに戻す。

 彼は気を取り直して尋ねた。


「それで、依頼というのは?」


「処分していただきたいものがあるのです」


 佐野は持参したスーツケースに手を置く。

 弔木は興味深そうに訊いた。


「これは何ですかね?」


「私だったものです」


 佐野は静かに、しかしはっきりと答える。

 大真面目な様子で彼女は語り出した。


「二か月ほど前、腕から指が生えてきました。最初はイボか何かだと思ったのですが、紛れもなく人間の指でした」


「指……ですか」


「はい。放っておくと成長して、さらに二本目、三本目と増えたんです」


 佐野はスマートフォンで一枚の画像を見せる。

 そこには、彼女の前腕が映っていた。

 手首側の面に数本の小さな指が生えている。


 画像を消した佐野は、コートのポケットからカッターナイフを取り出した。

 刃には乾いた血がこびり付いている。


「怖くなった私は指を切り落としました。痛みはありませんでした」


「病院には行かなかったんですか?」


「不安すぎて誰にも相談できなかったんです。どう考えても普通じゃありませんし」


 佐野はカッターナイフを持つ手で、自身の腹部をそっと撫でた。


「指を切り落とした後、今度はお腹に眼球が浮き出てきました。翌日には顎に爪が生えて、口から髪の毛が伸びてきました」


「それは大変ですね」


「ええ、だから残らず切除しました。あちこちから際限なく出てきましたが、そのたびに抉り取ったり、無理やり剥がしたり、引き抜いたんです」


 カッターナイフを置いた佐野はスーツケースを一瞥した。

 スーツケースは小刻みに震えていた。

 滲み出した赤黒い染みがぽつぽつと床に滴っている。


「そうして取り除いた部位を集めたのがこれです」


「ほう、捨てずに集めたのですか」


「ゴミとして捨てたり、ミキサーで砕いてトイレに流すことも考えましたけどね。事件になりそうなのでやめました」


「なるほど。それで処分を僕に任せたいと」


「はい、お願いします。お金はちゃんと支払いますので」


 スーツケースが大きく揺れた。

 中から消え入りそうな声が漏れ聞こえてくる。


「だして」


 弔木はじっとスーツケースを見つめる。

 彼はジッパーの隙間から視線を感じていた。


 その時、佐野が勢いよく立ち上がった。

 彼女は呼吸を荒げて、血走った目で弔木を見下ろす。

 弔木は平然と呼びかけた。


「佐野さん」


「捨ててください」


「中身を確認しても?」


 弔木が確認した瞬間、佐野が身を乗り出した。

 顔同士が触れ合いそうな距離で、佐野は唸るような声で告げる。


「やめてください」


「はいはい、分かりました。詮索せずに捨てればいいってことですね」


「ご理解いただけて何よりです。ではお願いします」


 佐野がソファに座り直した際、彼女の鞄が倒れた。

 そこから転がり出てきたのは電子タバコだった。

 弔木はニヤニヤと笑って指摘する。


「おや。煙草はお嫌いなのでは?」


「……元カレの私物です。よければどうぞ。もう全部いらないので」


 苛立つ佐野は鞄をひっくり返した。

 財布や化粧道具、ハンカチ等がテーブル上に散乱する。


「せっかくです。これも見てくださいよ」


 鞄を投げ捨てた佐野は、顔の包帯をほどき始める。

 現れたのは、ぞっとするほどの美貌だった。

 佐野は勝ち誇った笑みで踵を返す。


「ではさようなら」


「ああ、どうも」


 依頼人の退室を見届けた弔木は、彼女の財布から免許証を出す。

 免許証の顔写真は、佐野とはまるで別人だった。


「だして。たすけて」


 置き去りにされたスーツケースが揺れた。

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