第7話/痕跡
霧が立ち込める早朝の山間部。吉羽恵美、渡辺直樹、片瀬梓の三人は、先に発見された防腐処理遺体の現場を起点に、犯人が次に動く可能性の高い範囲を捜索していた。前夜、蛇の目とKAZUHAコアの解析で得たデータが、彼らの判断を後押ししている。
「……霧が濃すぎる。」渡辺が小声で呟く。
吉羽は地図と端末のデータを交互に見比べ、指でルートをなぞった。「ええ。でも犯人もこの霧を読んで動くはず。視界が悪いからこそ、安全な死角を選ぶ。過去の海外事件も同じような環境で発生していた。」
片瀬は端末を操作しながら言った。「KAZUHAコアの解析では、犯人は警戒心が非常に高い。人の目が届かない場所、地形の複雑な場所を選ぶ傾向があります。前回の発見地点と今回の地形を照合すると……この谷沿いの廃墟が次の可能性として高いです。」
渡辺が眉をひそめる。「……廃墟か。人の声も反響しない、死角の死角だな。」
吉羽は息を整え、低く呟く。「ここで慎重に進めば、犯人が残す痕跡を見逃さずに済む。」
廃墟に近づくと、瓦礫の間に微細な土の盛り上がりと、かすかな血痕が確認できた。吉羽はしゃがみ込み、手袋で慎重に土を触る。
「……やはり、微細な痕跡も残している。」吉羽が低くつぶやく。「過去の海外事件でも、同様に微細な痕跡は犯人心理を映していた。」
渡辺は周囲を警戒しながら瓦礫の間を覗き込む。「……ここで足跡や道具痕も確認できれば、動きが読めるな。」
片瀬は端末を手に、蛇の目にデータを送信する。「現場データ送信。蛇の目、痕跡解析を開始。」
「了解。防腐処理痕、土の盛り方、瓦礫配置の意図……海外事件との共通点と照合中。」蛇の目の声は冷徹で正確だ。「過去の傾向に基づく予測:犯人は廃墟内の死角を経由し、谷沿いに移動する可能性が高い。」
吉羽は目を細める。「……心理パターン通りに動いている。逃げ場のない場所で痕跡を残している。」
渡辺は唇を噛む。「……まさか、監視カメラも無いだろうし、この廃墟内の微細な痕跡だけが手掛かりになる。」
吉羽は瓦礫の影に隠れ、静かに声を潜めた。「犯人が次に通る可能性のあるルートを読んで待つ。心理パターンは海外事件と一致している。過去の連鎖を理解すれば、行動の先を読むことも可能よ。」
片瀬は端末の解析結果を確認しながら言う。「防腐処理手法、防腐剤の配置、遺体の向き……全て心理的メッセージです。犯人は必ず計算している。」
渡辺は懐中電灯を握り、周囲の影を見つめる。「……でも、ここで油断すれば、犯人に逃げられる。」
吉羽はゆっくりと呼吸を整え、低く応じる。「ええ。だから私たちは、一瞬たりとも集中を切らさない。過去の事件を参考に、心理の先を読む。」
廃墟の中、瓦礫の奥から微かに足音が聞こえた。吉羽は指を立てて二人に合図する。「……来たわ。」
蛇の目が静かに解析を始める。「動きは過去パターンと一致。次の位置を予測中。」
片瀬は端末で表示される青い軌跡を見つめる。「……心理的傾向から、犯人は角を曲がった後、崖沿いの通路を通るはずです。」
渡辺は懐中電灯をさらに強く握る。「……ここから先は、視覚だけじゃなく、勘も重要だな。」
吉羽は息を殺し、瓦礫の間を低く進む。足音を最小限に抑え、微細な変化を見逃さない。
「……痕跡だ。」吉羽が指を差す。微かに散らばる瓦礫の配置、土の盛り方、擦れた跡。犯人が通った痕跡は、海外事件で解析された行動パターンと完全に一致していた。
渡辺は息を呑む。「……この微細な痕跡だけで、行動パターンが読めるのか。」
吉羽は静かに頷く。「ええ。心理パターンを照合しながら進めば、犯人の次の行動を予測できる。過去の影が示す通りに動いている。」
片瀬は端末の画面を見つめる。「……予測ルート通りです。次のポイントで接触する可能性が高い。」
三人は互いに目で合図を交わし、廃墟の奥へと進む。霧と瓦礫、冷たい空気に包まれたその空間は、まるで過去事件の影が現実世界に引き出されたかのようだった。
犯人の輪郭
廃墟の奥で、吉羽は一瞬立ち止まり、息を潜める。「……来る。心理パターン通りなら、逃げ道はここしかない。」
渡辺は拳を握る。「……ここで全てを見逃すわけにはいかない。」
片瀬も頷き、端末で蛇の目とKAZUHAコアの解析を確認。「過去の海外事件と照合済み。犯人心理が浮かび上がっています。」
吉羽は瓦礫の間から影を見つめ、静かに息を吐く。「……次の一手で、犯人に迫る。」
霧に包まれた廃墟の中、数か月にわたる死の連鎖、その背後に潜む冷徹で計算高い犯人の影を、吉羽たちは確実に追い詰め始めていた――。
霧が立ち込める山間部の廃墟。瓦礫と倒れた柱、苔むした壁に囲まれた空間は、まるで過去の死の連鎖を映すかのように静まり返っていた。吉羽恵美、渡辺直樹、片瀬梓の三人は、先に現場で確認された微細な痕跡を手掛かりに、犯人の行動範囲を慎重に探っていた。
「……足音、聞こえる?」渡辺が低く呟く。
吉羽は耳を澄まし、瓦礫の奥を見つめる。「霧があるから、視覚だけじゃ判断できない。微細な動きと音で読むしかない。」
片瀬は端末の解析データを確認しながら言う。「KAZUHAコアの過去解析では、犯人は死角を選ぶ傾向があります。ここから先は、廃墟の奥の谷沿いに移動する可能性が高いです。」
渡辺は懐中電灯を握り、光を瓦礫の間に投げかける。「……光に反応するかもしれない。慎重に行こう。」
吉羽は静かに頷き、低い姿勢で瓦礫の間を進む。足元の土や倒木の微妙な変化を観察しながら、過去の海外事件で解析された心理パターンと照合する。
瓦礫の隙間に、かすかな土の盛り上がりと、微量の血痕が確認できた。吉羽はしゃがみ込み、手袋で慎重に触れる。「……ここだわ。手口が完全に一致している。」
片瀬は端末の画面を指でなぞりながら言う。「過去の防腐処理事件でも、犯人は微細な痕跡を残す。心理的意図を読み取るためには、この小さな違和感が鍵になる。」
渡辺は息を殺しながら瓦礫の奥を覗く。「……ここで少しでも動きがあれば、逃さない。」
吉羽は微かに息を吐き、瓦礫の奥の影を凝視する。「……心理パターン通りに動いている。海外事件の解析でも、このタイプは逃げ場のない死角を選ぶ。」
蛇の目が端末から冷徹に解析を開始する。「動きの軌跡を追跡中。過去事件との共通点を照合。次の行動予測を提示。」
片瀬が画面を確認する。「……心理傾向から、犯人は廃墟奥の通路を経由する。次の接触地点はこの先。」
渡辺は懐中電灯をさらに強く握る。「……緊張するな。ここで一瞬でも気を抜いたら、逃げられる。」
瓦礫の奥から微かな足音が聞こえ、吉羽は静かに指を立てて二人に合図する。「……来たわ。」
瓦礫の間に影が動く。吉羽は息を潜め、端末で蛇の目とKAZUHAコアの解析結果を確認する。「……過去の海外事件と心理パターンが一致。逃げ道はほぼ封鎖されている。」
渡辺は短く息を吐き、光を影に向ける。「……動くな。」
片瀬も端末を手に、予測軌跡を指でなぞる。「……この動きに従えば、犯人心理は完全に読み取れる。」
吉羽は静かに一歩前に出る。「……次の一手で、犯人に迫る。」
影は廃墟の奥で立ち止まり、微かに振り返る。吉羽はその表情を見逃さず、微細な動作から心理を読み取る。
「……警戒心が高い。だが焦りも見える。」吉羽は低く呟く。「ここで動きを封じれば、逃げ場はない。」
影は一瞬微かに動く。吉羽、渡辺、片瀬の三人は同時に呼吸を整え、微細な動作を見逃さない。蛇の目が静かに解析する。「心理傾向一致率98%。次の行動予測完了。」
片瀬が端末を見つめ、「……ここで犯人心理を読み切れば、追跡の優位が確定する。」
渡辺は拳を握り、心の中で決意する。「……絶対に逃さない。全てを拾い上げる。」
吉羽は瓦礫の間から影を見つめ、息を潜める。「……次の一歩で、この連鎖を止める。」
霧に包まれた廃墟の中、数か月にわたる死の連鎖。その背後に潜む冷徹で計算高い犯人の影を、吉羽たちは心理と痕跡の連携で確実に追い詰め始めていた――。




