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蛇の目/requiem  作者: ふゆはる


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第4話/複雑な影

 初夏の光が淡路島の海岸線を照らす頃、科警研第二課は、過去数か月にわたる複数の遺体発見現場のデータを再度整理していた。蒼影霊園、神戸北区の廃屋、淡路島山間部、北播磨の集落周辺……散発的に見えるそれぞれの現場には、共通する痕跡と、意図的に崩された規則性が存在した。

「……連鎖はまだ続いている。」吉羽恵美は資料を机に広げ、発見現場の写真と土壌サンプルの解析結果を照合しながら言った。「防腐処理、遺体の配置、微細な痕跡……偶然では説明できない。」

 渡辺直樹はモニターに表示された県内地図を見つめ、指で各現場をなぞる。「北区、淡路島、北播磨、沿岸部……散発的すぎる。KAZUHAコアでも完全に読めないはずだ。」

 片瀬梓は端末を操作しながら資料を並べる。「解析結果を見る限り、過去の殺人者の脳で行動パターンを推測しても、犯人はそれを裏切るかのように行動しています。複数現場の情報を統合しても、まだ予測の精度は低いです。」

 秋山慎一郎は椅子に肘をつき、低く言った。「つまり、犯人は解析や捜査の目を意識して動いている。散発的に見える行動にも、計算された意図があるということだ。」

 吉羽は資料を見渡し、深く息をついた。「ええ。でも、散発的に見えても、現場には必ず微細な規則が残されている。距離や時間、地形、死角、土壌の微妙な変化……小さな手掛かりを拾えば、次の現場への糸口になるはず。」


 課内の大きなテーブルには、各現場の資料、写真、地図、解析結果が並べられていた。吉羽は全てのデータを俯瞰し、犯人の行動パターンを可視化しようと試みる。

「複数現場の情報を統合すると、散発的に見えた行動の中にも、微妙な規則性があることがわかる。」吉羽は指で地図上の発見地点をなぞりながら説明する。「例えば、廃墟や霊園など人目の届かない場所に置かれる遺体は、必ず山間部の入り組んだルートを経由して配置されている。そして、防腐処理や痕跡の残し方も共通している。」

 渡辺は腕を組み、眉を寄せる。「……でも、現場ごとの距離や時間はまちまちだ。完全な規則性はない。KAZUHAコアでも予測できないはずだ。」

 片瀬梓が端末を操作し、発見時期と発見地点の関係性をグラフ化した。「解析では、発見の間隔はランダムに見えるが、犯人の移動可能距離や時間を考慮すると、ある種の計算が働いている可能性があります。」

 秋山はデスクに肘をつき、冷静に分析する。「規則性を意図的に崩すことで、我々の解析を混乱させている。蛇の目の推測をもってしても、犯人の行動は完全には読めないということだ。」

 吉羽は資料をまとめながら、静かに言った。「でも、微細な痕跡を拾うことはできる。土壌の変化、風向き、周囲の匂い、人の目が届かない隙間……現場でしか得られない情報が、犯人像を少しずつ浮かび上がらせる。」


 翌日、吉羽と渡辺は淡路島北部の山間部に再び向かった。今回の現場は、前回発見された廃墟跡よりさらに奥まった場所にある、旧集落の廃屋だ。湿った空気と潮風が混ざり、瓦礫や倒れた壁の間に微かに盛り上がった土が見える。

「……ここも人目が届かないな。」渡辺は声をひそめ、慎重に足を進める。「監視カメラはないだろうし、地元の人もほとんど来ない場所だ。」

 吉羽は端末で解析結果を確認しながら、瓦礫の隙間に微かに黒ずんだ土を指差す。「ここに遺体が置かれた可能性が高い。偶然じゃない。」

 二人は手袋をつけ、慎重に土を掘り返す。腐敗が少なく、防腐処理が施された遺体の一部が現れた。吉羽は冷静に言った。「前回と同じ手口。計画的に配置されている。」

 渡辺は息を呑み、瓦礫の上に遺体をそっと置きながらつぶやく。「……この数か月で発見された遺体は、もう六体目か。数は少なくない。」

 吉羽は端末を見つめ、解析結果と照合する。「発見時期や場所も計算されている。KAZUHAコアの解析では、犯人は必ず痕跡を残す傾向があると出ている。遺体の置き方や土の盛り方にも意味がある可能性が高い。」

 渡辺は瓦礫に腰を下ろし、考え込む。「……現場でしかわからないことが多い。匂いや空気、微妙な違和感。解析だけじゃ拾えない。」

 吉羽は立ち上がり、遠くの山影を見つめる。「ええ。AIは可能性を示すだけ。私たちが現場で手掛かりを拾わなければ、犯人の行動パターンは見えてこない。次の現場も慎重に、でも確実に調べる必要がある。」


 科警研第二課に戻った二人は、複数の現場から得られた情報を整理した。吉羽は資料をまとめながら言った。「複数現場の情報を統合すると、犯人像の輪郭が少しずつ見えてくる。散発的に見える行動にも、計算された意図がある。」

 渡辺はモニターを指差す。「でも、まだ完全に予測できる段階じゃない。現場の情報と解析を組み合わせても、犯人は我々の一歩先を行っている。」

 片瀬梓は端末で地図上の発見地点を再確認する。「北区、淡路島、沿岸部、北播磨……散発的ですが、行動には計算があります。距離や移動時間を考慮すると、犯人は非常に計算高く、意図的に行動している。」

 秋山慎一郎は椅子に深く座り、冷ややかに分析した。「解析は可能性を示すだけ。だが、現場の情報を組み合わせれば、犯人の行動を少しずつ削り取れる。散発的な連鎖の背後には、必ずパターンが存在する。」

 吉羽は資料を見渡し、決意を込めて言った。「……数か月にわたる連鎖の意味も、犯人の複雑さも、すべて小さな点に過ぎない。一本ずつ繋げれば、全貌が見えてくるはず。私たちは退かず、現場で手掛かりを拾い続ける。」

 科警研第二課の室内には、冷たい解析データと捜査官たちの熱気が混ざり合っていた。数か月にわたる死の連鎖、その背後に潜む計算高く散発的な犯人の存在。蛇の目をもってしても予測困難なこの連鎖に、吉羽たちは少しずつ挑戦の糸口を見出し始めていた。


 科警研第二課の会議室は、静寂と緊張感に包まれていた。机の上には、数か月にわたって収集された現場写真、土壌検査報告、遺体の配置図、さらにはKAZUHAコアの解析結果がびっしりと並んでいる。モニターには県内各地の地図が映し出され、赤い点がそれぞれの発見現場を示していた。

「……やはり、完全に読める状況ではない。」渡辺直樹はモニターに手を伸ばし、発見地点を指でなぞりながらつぶやく。「距離も場所も時期もまちまちだ。散発的に見えて、でも行動は計算されている……このバランスが厄介だ。」

 吉羽恵美は資料を整えながら、静かに言った。「ええ。KAZUHAコアはあくまで解析者。過去の殺人者の脳をもとに行動パターンを推測するけれど、この犯人はそのパターンすら崩す意図を持って動いている。」

 片瀬梓は端末を操作し、地図上の発見地点と移動経路の可能性を重ね合わせる。「解析では、発見の間隔や移動距離から行動の範囲は限定されますが、犯人は予測の裏をかくかのように移動している。距離や地形の条件が毎回微妙に変化しています。」

 秋山慎一郎は椅子に深く座り、手元の資料に目を落とした。「つまり、我々の解析は参考にはなるが、決定的な予測は不可能だ。散発的に見える現場の連鎖の裏には、犯人の計算が隠されている。」

 吉羽は深く息をつき、モニターを見渡す。「でも、散発的な行動の中にも必ず小さな規則が残されている。遺体の置かれ方、土壌の盛り方、防腐処理の痕跡……微細な手掛かりを一つずつ拾えば、犯人像は少しずつ輪郭を現すはず。」

 渡辺は腕を組み、思案顔でつぶやく。「……こういうとき、現場での五感の使い方が重要になるな。匂い、空気の違和感、土の湿り方……解析では拾えない情報だ。」

 吉羽は頷きながら資料をめくる。「ええ。それに、犯人は必ず痕跡を残している。KAZUHAコアの解析では、過去の殺人者の脳に基づくと、痕跡を残す行動は心理的な癖によるものだから、必ず手掛かりになる。」

 片瀬が小さな声で言った。「でも、解析と現場情報を組み合わせても、まだ犯人の行動は完全には読めません。次の現場で何をするかは、直感と慎重さにかかっています。」

 秋山は冷ややかに言う。「解析はあくまで補助だ。現場の微細な違和感に気づくのは人間しかできない。我々の直感と経験が鍵になる。」


 その日の夕方、吉羽と渡辺は北播磨の小さな集落周辺にある廃屋跡に向かっていた。数か月前に発見された遺体のパターンから、ここが次の可能性の高い現場だと判断された。湿った空気の中、瓦礫や倒れた壁の間にわずかに盛り上がった土が見える。

「……ここも人目が届かない。」渡辺は声をひそめ、慎重に足を進める。「監視カメラはない。地元の人もほとんど来ないだろう。」

 吉羽は端末を確認しながら、瓦礫の隙間に微かに黒ずんだ土を指差した。「ここに遺体が置かれる可能性が高いわ。偶然じゃない。」

 二人は手袋をつけ、慎重に土を掘り返す。腐敗が少なく、防腐処理が施された遺体の一部が現れた。吉羽は冷静に言った。「前回と同じ手口。計画的に配置されている。」

 渡辺は息を呑み、瓦礫の上に遺体をそっと置きながらつぶやく。「……この数か月で発見された遺体は、もう七体目か。数だけでも怖いな。」

 吉羽は端末を見つめ、解析結果と照合する。「発見時期や場所も計算されている。犯人は必ず痕跡を残す傾向がある。遺体の置き方や土の盛り方にも意味があるはず。」

 渡辺は瓦礫に腰を下ろし、思案顔で言う。「……現場でしかわからないことが多い。匂いや空気、微妙な違和感……解析だけじゃ拾えない。」

 吉羽は遠くの山影を見つめ、決意を込めた声で言った。「ええ。AIは可能性を示すだけ。私たちが現場で手掛かりを拾い、行動パターンを読み解くしかない。次の現場も慎重に、でも確実に調べる。」


 科警研第二課に戻った二人は、複数現場の情報を整理し、犯人像の輪郭を少しずつ浮かび上がらせる。吉羽は資料を並べながら言った。「散発的に見える現場にも、小さな規則が残っている。距離、時間、地形、死角……これらを一本ずつ結びつければ、犯人像が見えてくる。」

 渡辺はモニターを指差し、眉をひそめる。「でも、まだ完全に読める段階ではない。現場情報と解析を組み合わせても、犯人は我々の一歩先を行っている。」

 片瀬梓は端末で地図上の発見地点を確認する。「北区、淡路島、沿岸部、北播磨……散発的ですが、行動には計算がある。距離や移動時間から、犯人は非常に計算高く動いていることがわかります。」

 秋山慎一郎は椅子に深く座り、冷ややかに言った。「解析はあくまで補助。だが、現場情報と直感を組み合わせれば、犯人の行動を少しずつ削り取れる。散発的な連鎖の背後には、必ずパターンが存在する。」

 吉羽は資料を見渡し、静かに決意を示した。「……数か月にわたる連鎖の意味も、犯人の複雑さも、すべて小さな点に過ぎない。一本ずつ繋げば、全貌が見えてくる。私たちは退かず、現場で手掛かりを拾い続ける。」

 室内には冷たい解析データと捜査官たちの熱気が混ざり合っていた。数か月にわたる死の連鎖、その背後に潜む計算高く散発的な犯人の存在。蛇の目をもってしても予測困難なこの連鎖に、吉羽たちは少しずつ挑戦の糸口を見出し始めていた。


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