手紙
手紙が届くことは分かっていた。私にとって大切な手紙だ。
誕生日に手紙が届き始めたのは11年前からだ。私が15歳になったその日に差出人不明な手紙が届くようになった。
『寂しく思うことは無い。キミはひとりじゃない』
意味不明で気持ち悪いと思いつつも、私は消えた父親の面影を感じていた。いや、無理矢理重ねていたのかもしれない。
手紙は時に私を温かい言葉で励まし、時に意味不明な言葉で私を苛立たせた。内容としては毎年基本的に私のことを気遣い、身体は元気か、とか仕事にかまけすぎるなとか、心配を全面に押し出したものになっている。いつも文章そのものは短く5行にも満たない。
夜を越えて朝を迎えると当然次の日が来るわけで、私はごく当たり前に28歳の誕生日を迎えた。
そして例年通り、私に差出人不明の真っ白な封筒が届いた。しかし、いつもの他愛ない内容の手紙とは違っていた。
『滝島カオル様
危険が近づいている。
キミは窮地に追い込まれる。
キミを救いたい。
キミに会いたい。
もし追い詰められたならば、隠れ家に逃げるように』
警告の手紙は初めてだった。警察官は確かに危険と隣り合わせの仕事だが、そんなことを今更忠告するのもおかしい。
しかし別の危険の見当はつきそうもなかった。今回の手紙は私を苛立たせる方で決定らしい。
香ばしい香りを放つコーヒーに手を伸ばす。カフェインが頭に行き渡って、私の一日は始まるのだ。
冷静に考えてみる。
手紙が私に何を言いたいのだろう。
逃げるべき場所なんて皆目見当つかないのは、カフェインが足りていないことが原因ではないはずだ。そもそも誰か分からない手紙の差出人の言うことを真に受けている自分が滑稽に感じる。
手紙は私を陥れようとしているのか、それとも救おうとしているのか。
救おうとしているならば一体何から救おうとしているのだろう?
ふと時計を見ると、すでに時間は7時を回っていた。私はコーヒーを飲み干し、手紙を掴んで立ち上がる。寝癖だらけの髪の毛の反乱を手で宥めながら車に乗り込み、私は警視庁に向かった。
気持ちの良い晴れた日だった。
かなりスロースターターで申し訳ないです。あんまりファンタジーが出てこないですが、しばしお待ちを。
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