星の器
ルイは僕に寄り添って眠っていた。安らかで無垢なその寝顔に僕は思わず微笑んでしまう。
「ルイ」
僕は名前を呼びながら彼女のシンボルとも言える硬めの赤毛をそっと撫でた。頬はピンクに染まり、赤ん坊のように見える。健やかな寝息が何もないこの白い部屋に響いている。
彼女はゆっくりと瞳を開けた。いつもの二重瞼がよりくっきりとしている。
「リヒト様・・・」
「おはよう」
ルイは微笑んで擦れた声で「おはようございます」と言った。ベッドで寄り添う2人は、恋人のようであるが、決してそういう関係ではない。
「ごめん。僕がわがままを言ったせいで」
「構いません」
彼女は笑顔で応える。彼女は僕のお願いをいつも聞いてくれる。
僕は最近自分が自分でなくなることが頻繁になった。つまり星に身体を使われ、世界の裏側で命蝕を促進させることが増えた。
僕はそんな自分が怖い。自分が本当に自分なのか。ここに桐谷リヒトとして生きているのか。そんな不安に駆られ、居た堪れないときはルイを呼ぶ。彼女に傍にいてもらう。そして、彼女の肌に触れ、彼女と共に眠る。
「珍しいな。今日は星が来なかった」
「そのようですね」
目覚めたら、夜会に行った後だったり、手が血みどろだったりすることは日常のことだ。それがないのは最近では珍しい。
「リヒト様」
彼女は目を合わさずに、僕の名を呼んだ。
「何?」
「私は、リヒト様が苦しむ姿を見るのはイヤです」
「・・・」
「何故、リヒト様ばかり星に狙われ、身体を利用されなければならないのですか?コアは溢れるほどいます。私だってコアだし、他にも・・・」
僕は彼女の口に、指を重ねる。
「昔、星はある女性のために、身体を作ろうとした」
僕は語りながらその女性のことを思い浮かべる。彼女と出会い、過ごした2年間というあの時のことを。彼女のことを思い出すだけで、僕は涙が滲みそうになる。
「でも、女性の心がその身体では決して振り向かないと気付いた星は」
彼女はお伽話を聞く子供のように、寝そべったまま僕の声に耳を傾ける。
「造られた身体を捨て、彼女が求める者に成り代わろうとした」
「成り代わる?」
僕は頷く。
「それが貴方、ですか」
全てを悟ったように、ルイは正解に辿り着き、嘆息を吐く。
星が求める者。それは忍海マリル。
僕は星にとって道具に過ぎない。そのための器に過ぎない。
「忍海マリルは貴方のことを・・・」
「さあ、僕は知らないよ。コアになった時から、彼女とはほとんど会わなかったから。本当にそうだったのかもしれないし、星が勝手に思い込んだだけかもしれない。でも悲しいよ。捨てられた身体は一体何のための犠牲だったんだ」
ルイは僕の胸に顔を埋める。赤毛が僕の顔にふさふさと当たった。
「ご自分を責めないで下さい」
彼女はくぐもった声でそう言った。
「貴方は優しすぎる」
僕には自然と笑みがこぼれていた。そして目を閉じ、首を横に振った。