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日記15 青い刃の昔話

「どういうことです?」


私は思わず声をあらげていた。鰐渕が何故それを在処を知っているのか。冷静になると、すぐに挑発のためのハッタリと思い直し途轍もない後悔の波が押し寄せてくる。

しかしそんな私の心情を余所に鰐渕はさらに続ける。


「実は忍海が我々にとっての敵ではないならば協定を結びたい、というのが今回貴女を呼んだ正式な理由なんですよ」

「協定…ですか」

「そう。どうやら貴女は私が知るより命蝕に詳しいようです。それに命蝕に積極的に関わろうとする姿勢、実に素晴らしい。私の部下にも見習わせたいくらいです」


急にブレーキを踏んだせいで私は前に押し出されそうになる。


「青い刃が必要ならば、その在処を教えましょう。自由に活動していただいても結構です。ただし貴女には私達に知っていることを全て教えていただきたいのです」


鰐渕は首を90度回して私の方を見た。表情は決して固くはないが真剣な鋭利な眼光は車内の空気に緊張感を与えていた。


「私が嘘をつく可能性は考えないのですか?」

「そんなことする利点が貴女にありますか?貴女は聡明な方だ。会って数日しか経たないがそれくらい分かる。貴女にとって都合の悪いことは省いていただいても構いません。ただ私達は少しでも情報がほしいだけです」


何か腑に落ちない。あまりに天秤がこちらに偏っている気がする。


「やはり納得できませんね。何を企んでいるのですか」


私がはっきりと告げると鰐渕は鉄砲玉を顔面に食らったような顔をしてからぷっと吹き出した。


「まぁ早い話、青い刃は国が管理できずに放り出したものなんですよ。それを国の役人がやっぱり返してなんて言えません。言ったら殺されちゃいます」


鰐渕は笑っていたが、目は全然笑っていない。信号が青になり突然車が発進したため、また私は前のめりに倒れそうになる。


「良く言うと神聖な、悪く言うと野蛮な一族に管理させてまして。青い刃はかなり訳ありの一品なんですよ」

「だから私達を動かし、手に入れてもらおうというわけですね」


鰐渕は微笑を浮かべたまま前を向いている。答えるまでもないと言いたげだ。


「青い刃は何故国で管理できなくなったのですか?」


私は内心興奮していた。やっと掴んだ青い刃の情報だ。少しでも多く掴みたい。


「青い刃が生まれたのは群雄割拠の戦国時代だと聞いています。弱肉強食の世界で覇を唱えるにはより強い力が求められた。故に人道を踏み外した者もいた。より強い武器を作るために命さえも犠牲にする愚か者が青い刃を生み出したのです」


「昔話ですか」


「その者は国を治める大名だったのですが、その国の民1000人を溶鉱炉に捧げ、その鉄で刀を造らせたそうです。生み出された刀は青く光輝き、何より強かった。刀を手にした者は女子供関係なしに強大な力を手に入れることができました」


私はただ黙って鰐渕の昔話を聞いていた。


「しかし刀を手にした者は命に対する欲に支配され獰猛な野獣に成り果てた。あまりに強すぎる力、そして危険な力に大名は恐れを抱き、これを壊そうとしたけれど刃は壊れなかった。その力を風の噂で聞いた馬鹿者達は力に群がり、その刃を奪い合った。やがて刃は更に多くの命を奪い、流れに流れ、江戸時代に幕府に回収されたようです。しかし、その時刃はすでに余りに多くの血を吸いすぎていた。本当かは知りませんが、刃は周りにいる人間の欲望を増強し理性を奪う力を持っていて、人を斬る力と絶大な魔力を与えると言われています」


「そしてある一族に管理を任せた、というわけですか」


めでたしめでたし、と続かないのが残念だが、これで手がかりは一つ掴んだことになる。


「青い刃は命に飢えています。空腹状態が続くと人間を巧みに操り大虐殺を始める。だから彼らには特別に刀を鎮める許可を与えています」


刀を鎮める許可とは刀に命を捧げる許可を与えているということだ。なるほど、だから極秘なのか。私は納得する。


「随分お喋りね。私がそれを吹聴してまわる可能性もあるというのに」

「それはありませんね。貴女が青い刃を渇望していることは知っていますから。そんなことをしても何の利もありません。まぁ一応忠告しておきますね。一般市民の耳に入れるな、と」


鰐渕は飄々としている。車が急停車し鰐渕がふぅと息を吐いた。どうやら国民宿舎に着いたらしい。鰐渕はスーツの内ポケットから折り紙ほどのメモ用紙を手渡した。


「青い刀はここにあります。気が向いたら行ってみて下さい。そして彼らに事情を話し、協力を依頼してみればよいでしょう。ただし、彼らは殺人を許可されているということをお忘れなく」


鰐渕が歪んだ笑みを浮かべた。


「ありがとうございます」


決して善意の賜物ではないし利用されていることも分かっていたけれど、私は心から感謝することができた。


「無理はしないことです」


去り際に鰐渕が言った。妙にその言葉が心に残った。



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