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かりそめのパーティ

会場はだだっ広いセレモニーホールで、100人ほどの各界著名人が談笑しながら開始するその時を待っていた。あまりテレビは観なくて詳しいわけではないが、政治家、芸能人、作家等様々な人が目の前にいるのは違和感がある。

彼らは皆派手に着飾り、特に女性は色彩豊かなドレスに身を包んでおり、鳥達が自らの羽の美しさを主張し合っているように見える。


またテレビ局からも来ているようで、カメラマンがたくさん待機している。


やがて司会者と思われる中年の男が会場の前に立った。


「お待たせいたしました。これより新生日本国誕生祝賀パーティを開催いたします」


なるほど、そういう名目だったわけか。私は苦笑してしまう。


マイクの前に屋代タケシ総理が立つと会場は静寂に包まれた。


「今日はようこそお越し下さいました。我々は今この上ない喜びに包まれています。我が国日本がまさに平和の使者として選ばれたのですから」


精神的に高揚しているのだろう。マイクに彼の鼻息が当たり、ブスブスと所々で雑音が入っている。


「改めて彼らを紹介しましょう」


屋代がそう言うと私の背後にあった扉から、リヒトとチェキが入ってきた。颯爽と歩く美しいその姿に着飾った女性陣の表情が和らいだ。

リヒトがマイクの前に立つと聴衆は静まり、彼に注目した。


「皆さんはじめまして。僕は桐谷リヒト、彼はチェキと言います。今日は僕達のためにこんなに盛大な場を設けて下さいましてありがとうございます」


彼の瞳から放たれる眼光が鋭い。その完璧な美しさは尖った水晶のようだ。


「本当は僕達全員で参加したいところだったのですが、都合により今夜は僕とチェキだけになってしまいました」


私の周りにいる女性陣は「気にしないでいいのよ」という寛容な笑顔でリヒトを眺めている。一方で私は「都合」という2文字で片付けられた事柄が気になって仕方がない。


「今日はヒトとコアが共に歩み始める歴史的な日になることでしょう。僕達の力が正しく世界に作用できることを心から祈っています」


白いテーブルに並べられた一同が赤ワインの注がれたグラスを手に取り、乾杯と言う未来への希望に満ちた明朗な声が響きわたり、各々談笑を始めた。


私は有名人と馴れ合うためにここに来たわけではない。リヒトと話し、私が今どういう状況にいるか確認することが目的だ。

私は1人でやって来たが、ナオトがどこかに潜んでいるはず。そう思うと心なしか勇気が湧いてくるような気がした。


「めでたい席でそんな顔をしていてはいけませんよ」


突然背後から声をかけられて慌てて振り返ると、白いファーを首に巻き付けた黒衣の女性が立っていた。この女の顔は世間知らずの私でさえ知っている。

去年、小説でなんとか賞をとった羽須美アキとかいう作家だ。


パーティにそぐわない険悪な表情を浮かべる私に声をかける彼女は相当物好きな女だと思った。


「何か気にかかることでも?」


羽須美アキは思っていたより年老いていたが予想に反して明るく社交的な女性だった。


「いえ。そういうわけではなく」

「体調が悪いのですか?」


そう言って羽須美は俯いた私の顔をのぞき込む。顔を近づけられドギマギする私の様子を見て羽須美はクスリと笑う。


「カオルって不安とか苛立ちとか顔に出すぎなのよね。素直なのは貴方の素敵な所なんだろうけど」


女性は小さく可愛らしくウィンクをした。


「ジャガイモのスープを食べた時も、本当においしそうに食べてくれたものね」

「まさか、サキ…?」


目の前にいる女性にサキの面影はないがその愛らしい仕草と、ジャガイモのスープというキーワードで浮かび上がるのは彼女しかいない。彼女はイタズラな笑みを浮かべ、人差し指を唇の前に持ってくる。


「今宵はパーティですわ。新たな一歩を踏み出すための大切な日です。貴方にとって今日が良き日になりますよう祈っています」


声も顔も全く別人だ。

サキの面影は一切なく、羽須美アキが完璧に仕上がっている。

忍海はただの武装している集団ではなく、潜伏にも優れているスパイ集団なのかもしれない。


「ありがとうございます」


私は見ず知らずの人間にするように羽須美アキに深々と御辞儀をした。彼女はエロティックな真紅の唇の端を上げて私に微笑み、その場を後にした。

取り残された私に声がかかる。


「カオル様」


チェキだった。先ほどまで女や記者達に囲まれていたが、すでにその役はリヒトに集中しているようだ。


「お話したいとおっしゃっている方が会場の外でお待ちしています」

「一体誰ですか?」

「それはロビーに行っていただければ分かります」


チェキの無機的な表情からは何も読みとることはできなかったけれど、私に話がある人間は1人しかいないのだから予測はつく。


リヒトは会場にいるではないか、と咎めるのは無意味であると知っている。彼らはコアであり、私達の考えなど到底及ばぬことを易々とこなしてくれるのだから。


私はパーティ会場を出て、足早に真っ直ぐにロビーに向かった。



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