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ジャガイモのスープと決断

「よくコアが隠れてるって分かったね」


私達は集落へ戻っている道の途中だった。剣を振り回し戦ったことを感じさせないほど、ナオトは落ち着いていた。私はなんとなく沈黙に息が詰まるのを感じ、何か彼と話をしようと思った。


「モモネズミが一方的に攻撃を仕掛けてくることなんて普通ないからね」


正確に言うとルイは姿を消していたわけで物陰に隠れているよりも遙かに見つけるのは難しいだろう。


「不自然な風だったしコアが強制的に大気を動かした可能性が高いと思ったんだ。イヤな気配もしたしね」

「私、ネズミがコアかと思ってた」

「モモネズミは絆の森にしかいない固有種だから知らなくて当然。あんなにデカいネズミ、確かにコアに見えてもおかしくないよ。モモネズミは百ネズミと書くんだ。百年生き続ける希少な生物なんだよ。あの毒ガスは人間が直接吸ったら倒れちゃうし、酷い場合死んじゃうんだよね」


悪気なくサラッと怖いことを言う彼は子供に見える。ナオトが毒ガスで死ななかったというのは、彼が刀に飲み込まれ、ヒトよりもコアに限りなく近づいていることを意味しているのではないかと思ったが、口にはしなかった。


私達はその後サキの作ったジャガイモのスープをいただいた。忍海達の輪に私も加わり鍋を囲みながら談笑する様子はさながらキャンプに来たようだ。皆優しく初めて話すとは思えないほど気さくだった。

先ほど集落の近くにコアが現れたことはナオトの気遣いからか人々に語られることはなく、ノエルにのみ報告したようだった。


「スープはお口に合ったかしら?」


私の隣に座ったサキが問う。


「とても美味しかった。ありがとう」

「毎日食べてる奴らにもたまには言ってほしいけど。そう言ってもらえると作り甲斐があるよ」


サキはスープの中のジャガイモを転がしながら言った。


「ここの人達はみんな良い人ね。優しくて明るくて」

「母親が良かったからじゃないかな」

「マリル?」


サキは深く頷いた。


「そう。マリルはもう死んじゃったけど、みんなマリルを深く愛していたし尊敬していた。彼女は誰に対しても平等に接してくれたし、悪さをしたら本気で怒ってくれたわ。戦うことを説いたのも彼女だし、守ることを説いたのも彼女だった。私達の全てを与えてくれたのはマリルなの」

「大きな存在だったのね」

「ええ。彼女は私達の光だった。でもカオルがここに来てくれたお陰でまた光が見えた気がするの。カオルは本当にマリルと関係ないの?あまりに似てて無関係には思えないわ」


私の親族に忍海という姓の者はいない。しかし・・・。


辺りはすっかり夜になり人々も仕事を終え各々の小屋へと帰った頃、私は膝を抱えてぼんやりと集落の真ん中で燃え続ける炎を見つめていた。


「ノエルの話、どうするんだ」


後ろから声をかけられ、振り向くと神妙な顔をしたナオトがいた。


「それだけじゃない。パーティの話もどうするつもり?」


すでに私の中で答えは決まっている。


「行くよ。その時に私を囮にすればいい」

「本気か?」

「このままじゃいけないってことは分かってる。知らなきゃ前に進めない」

「食われてもいいのか?相手は形は人間だが人間を餌とする悪魔なんだぞ」

「ノエルだってコア。私はノエルを悪魔だなんて思わないしその刀だって…」


私の言葉を遮るようにナオトは声を荒げた。


「この刀は悪魔だよ。いつだって命を求めてる。今だってカオルを斬れってうるさいんだ。俺の意思で抑えているけど、きっといつか抑えきれない日が来る。そうなったら俺だって悪魔になるさ」


悲痛な叫びに聞こえた。


刀に食われ続ける運命を呪っているようにも聞こえる。

彼に残された人間として生きる時間は少ないのだろう。


「私が行く理由はそれだけじゃない」


正直に語るべきだ。これは決して偶然ではない。


「彼等の求める忍海マリルの正体が知りたい。私はマリルの名を幼い頃から知っている」

「?」

「幼い頃、私は小さい頃悪夢をみた。何度も何度も、リアルで残酷な夢を。そして、いつもそんな私を夢から逃がしてくれるのがマリルという名の少女だった。彼女は私にそっくりで、いつでも私の側にいた」

「それって・・・」

「そう。私に酷似している忍海マリルの存在。そして私の友達、私にそっくりのマリル。関係ないとは思えない。きっと何か関係がある。きっと星が私を求める理由も、マリルと関係あると思うの。それを突き止めたい」


山岡の証言とノエルの言葉を合わせると、星の最終目標は「忍海マリルの降臨」だ。降臨、の意味はイマイチ分からないが、間違いない。

そして一方では星は、マリルに酷似した、滝島カオルを求めている。


「貴方が私を止めたって私は行く。心配ならナオトが一緒に来てくれたらいいじゃない」


我ながら何様だと思う。しかしナオトはそれを口にはせず呆れた顔をして微笑を浮かべた。


「カオルが行くなら行くしかないだろ。忍海を恐れないだなんて挑発されたら尚更だ」


この少年は確かに私より遙かに大人だ、と心の片隅で思った。


「ただし俺を連れていくってことは、カオルの目の前でリヒトが消されるっていうことと同義だからそのつもりで」


殺害現場に居合わせる可能性が高い、ということか。通常殺人予告を警察にした者は即刻逮捕だ。

警察官なのか何なのか分からなくなった私にはどうしたらいいか分からない。

私とナオトは暫く揺らめく炎を見つめたまま膝を抱えて座っていた。


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