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テレビジャック

「滝島。今どこ?」


くぐもった声で訊ねる高橋の声は、少しいつもと異なるような気がした。


「高橋…大丈夫なの?」

「俺は無事だよ。お前がいなくなって警察は大変な騒ぎになってる。でも、俺はお前を信じてるよ」

「高橋・・・」


高橋の優しい声は私の心に浸透し癒した。これほどまでに高橋を頼りに思ったことは無い。そんな時、私の携帯電話をナオトが奪った。いつの間にか木から飛び降りて携帯電話に耳を近づけて聞いていたようだ。


「高橋さん?」


ナオトが問う。


「誰だよ?お前」


ぶっきらぼうな訊き方だったが、高橋の質問は正しい。この携帯電話の主は彼ではない。


「弟です」


彼は堂々とはったりを言う。


「ねぇ。そこにリヒトって人いる?」


高橋は何も答えない。畳み掛けるようにナオトは更に問う。


「あんた、コア、だろ?」


私はナオトの言葉に目を見開く。信じられない。血液が逆流するような感覚がよぎる。


「高橋さん。親玉に代わってくれないか?」


高橋は黙りこみ、しばらく後に声を上げて笑った。


「キミが弟じゃないことは知ってたよ。彼女に兄弟はいないからな。なるほど、忍海に保護されていたのか。残念だけどリヒト様は多忙でお前達なんかにかまっている暇はないんだ。というわけで話し相手は下っ端の俺で我慢してくれよ」


高橋の自供に近い発言を聞いてナオトの口調は鋭さを増し、傍らにいる私までビクリとしてしまう。


「お前達が彼女を狙っていることは前から知ってた。彼女をどうするつもりなんだ?何が目的なんだよ」

「俺は知らないよ。言われたとおり彼女を動かしてるだけだ。滝島には悪いけど」


また高橋の笑い声が電話から漏れている。どこかで聞いたような笑い方だと思い、ふと放火犯の山岡雅文の醜悪な顔が浮かんだ。


「テレビをつけてみろよ。面白いことが起こるからさ」


そう言って高橋は一方的に電話を切った。私は訳が分からずナオトが握った携帯電話を見つめていた。


高橋がコアの一派であり、私を警察から追い出す計画に一役買っていたということを、私はナオトの口から聞いた。


「俺はこの前気付いた。カオルの同期の高橋ヒカルはコアだってことに」


ショックを受けたのは言うまでもない。彼がコアであろうと人間であろうとまぎれもなく彼は私の同僚であり、二人の間の信頼関係は真実であろうと信じていたからだ。


「もう誰も信じられなくなりそうね」


私は吐き捨てるように言った。辛かった。

ふとこの数日で心が傷だらけになっているような気がした。


ナオトは澄んだ瞳で私の顔を直視している。心の中を見透かされそうな気がして、思わず笑って誤魔化す。


「私だってそんなに子供じゃない。今あなた達の力を借りないと私は生き残れないのだから。あなた達のことを利用しながらあなた達が信用できるか考えることにするわ」


強がりがこんなに悲しく響くのは何故だろう。ナオトの眼には明らかに哀れみの色が浮かんでいて私が無理をしていることは分かっていると言わんばかりの表情だ。


「とりあえず集落に戻ろう。高橋の言っていたことが気になる」


テレビを見ろ、と彼は言った。正直言ってこんな時代から切り離された所にテレビがあるとは思えなかったが、ナオトの話によるとこの集落には一通りの生活機具は揃っているらしい。テレビも今時には珍しいブラウン管の箱型の形をしているが、正常に機能しているようだ。

電気がこんな辺鄙な地に届いているのは信じがたいことだが、今ノエルの部屋でテレビを眺めている現実は確かに本物だ。


ナオトは足早に集落へ戻りすぐにノエルに高橋の言葉を知らせテレビをつけた。まるで幼子が毎週楽しみにしているアニメを見るような愛らしさを感じるが、彼の眼は真剣そのものだった。


テレビの中は平和そのものだった。


昨日まで眺めていた画面の中のバーチャルな世界が私を覆う現実よりも平凡であるように思えてくる。画面の中の男と女は手をつなぎながら河原で愛を語り合っていたし、別のチャンネルでは青少年達がラグビーの熱い戦いを繰り広げていたし、アナウンサーが淀みない美しい口調でニュースを告げていた。


しかし午前10時を過ぎた時、テレビに変化が起こった。


全チャンネル同時に画面が切り替わったのだ。


画面の中心には首相が誇らしげな笑みを浮かべて立っている。


「おはようございます。総理大臣の屋代タケシです。国民の皆さんに重大なお知らせがございまして、緊急でこの場を借りさせていただき発表させていただきます」


画面越しに見ているだけの私の目でさえ眩しい夥しいカメラのフラッシュを浴びている男は、それに慣れているせいか瞬きひとつしない。何やら凄い偉業を成し遂げたような自信に満ち溢れている。


「これまで我々政府は皆さんを脅かしている命蝕に対する対策法案を練ってきました。しかし地球規模で起こる未だかつてない災害の力は絶大であり我々は指を加えて見ているしかなかったのです」


テレビをジャックして彼らは言い訳を始めた、と冷めた気分で私はテレビを眺めていた。言い訳と綺麗ごとは政治家の専売特許だと私は思っている。


「でも我々に救世主が現れたのです。皆さんは彼らをご存じないと思い、この場を借りて彼らを紹介しようと思います」


ゾロゾロと舞台裏から現れる7人の男女。食い入るようにナオトとノエルは画面を見つめる。

やがて彼らの中で一番華奢な若い男が前に出た。


画面を通して青年の存在感の凄みが伝わってくる。


「はじめまして。僕は桐谷リヒト。実はここにいる僕達は人間ではありません。貴方は信じますか?それとも信じられないですか?貴方達にとって僕達は脅威の存在かもしれませんね。僕達はコア。命蝕の犠牲の上に立つ悲しみの宿命を負った存在です」


ナオトは睨むように画面の中の男を見ている。鋭い眼光は昨夜部長に向けられた冷たいものではなく、怒りすら含んだ熱いものに見える。


「僕達コアが表舞台に立つのはこれが初めてです。僕達は自然から独立した独自の生命体であり、貴方達に拒まれ迫害されることを恐れたからです。しかし僕達はこの悲しみの連鎖を断ち切りたい。これ以上世界は傷つくべきではない。僕達は貴方達の力になりたいのです」


熱く演説をする男は本当に美しかった。そして、おやと思う。この人間離れした美しさは隣でテレビを見つめる少年に似通った部分がある、と。


「僕達は命蝕により生まれました。コアは人間にはない絶大な力を持っています。貴方達ならその未知なる力をこう呼ぶでしょう。奇跡の力『魔法』と。貴方達日本国は戦争のない平和をこよなく愛する優しい国だ。貴方達ならば僕達を受け入れ、世界を創造できると確信している。私達は魔法の力を使って貴方達日本国民を命蝕のない新世界へと導くことを約束しましょう」


そして青年は私を見つめる。


そのガラス玉のような澄んだ瞳で私の心を、身体を射抜く。


「力を貸して下さい。貴方は選ばれし人間です」


小説書くのって難しいですね。

魅力的な物語ってどういうものなのでしょうか。

私は分からないものが分かっていく感覚が好きなので、そういう話を書きたいんですけど・・・。難しい・・・。


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