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見下ろす者達
「動いたようだね」
青年はビルの屋上で眼下に広がる粗雑な街並みを眺めながら言った。
「そうですね」
彼の横には黒いスーツを着たスマートな若い男がいた。茶色の長い髪を後ろで一つに束ねている。
「ねえ。チェキ」
青年は街の道路を走行する青い車を指差した。
「あの車に彼女が乗っていたんだ」
「乗っていた?」
「そう。さっきまで。もういない」
青年は微笑んでいる。風が強く吹き付け、彼の滑らかな黒髪がそよいでいる。
「彼女は僕が隠れ家に送っておいた。あの車にはもういない」
「リヒト様、あの女性が」
チェキと呼ばれた男の言葉に被せるように、青年は答える。
「あの女性が、【眼】を受け継いだ者だよ」
「そうですか。では、星が彼女を狙っているということですね」
青年は頷く。
「可哀想に。宿命なんて陳腐な言葉で片付けるのは好きではないけれど」
青年は車が視界から消えると向き直り、チェキを真っ直ぐに見た。青年の漆黒の大きな瞳は美しく輝いている。
「聖母マリルの再臨・・・か」