収穫祭 #3
フォリアは笑顔を浮かべながら、じっとアンバーを見つめている。
急に話しかけられて動揺しているアンバーだったが、何か挨拶を返さないと思い、言葉を紡ぐ。
「こ、こんにちは。確かフォリアちゃん……?」
「そうです。天使の宿屋のフォリアです」
名前を間違えなくてホッとしたアンバーの横に、フォリアは腰を下ろした。
そして、アンバーと一緒に首飾りを作りながら、アンバーに質問を始めた。
「お姉さんは、魔法使いさんですか?」
「一応魔法は使えるんだけれど、魔法使いって言えるかどうかは、ちょっと……」
「えー、なんでー?」
「私が使う魔法は、今風の魔法じゃなくて、すごく古いものだから」
「でも魔法は魔法なんだよね。すごいなあ」
クロムの魔法を見て、古代魔法に少しコンプレックスを持ち始めているアンバーは言い淀むが、フォリアは魔法が使えるアンバーのことを、素直に賞賛の眼差しで見つめる。
アンバーは下を向くと、一心不乱に首飾り作りの続きを始めた。
そんなアンバーに、フォリアはさらに質問を続ける。
「お姉さんは、なんでこの村に来たんですか?」
宿屋の従業員が宿泊客にあれこれ詮索するのは、あまり普通の振る舞いではない。
しかし、今のアンバーとフォリアの関係は、年の近い女の子が出会った時のもので、お互いそういう不自然さに気づかないまま、話は進んでいく。
「私たちは、旅をしているの。この村は、その旅の途中っていう感じ」
「旅かあ、いいなあ。私、この村から出たことないから」
「私も、旅に出るのは今回が初めてだよ。それまではずっと、生まれた村で暮らしてたの」
フォリアが、どんな村だったのかをアンバーに質問する。
旅で色々な出来事に出会ってばかりだったアンバーは、久しぶりに住んでいた村のことを思い出していた。
大きな山の麓に、村があること。
父さん、母さん、おじい、おばあ、そして村の人たちと暮らしていたこと。
羊たちを山まで連れていくのが、日課だったこと。
「お姉さんの村、とっても楽しそう!」
フォリアが素直な感想を述べると、アンバーは笑顔でありがとうと答える。
「でも、どうして旅をすることになったの?」
フォリアの質問で、アンバーは魔法使いのおじいのことも思い出す。
「私は、私に魔法を教えてくれた魔法使いのおじいに会うために、旅に出ることにしたの」
「どこにいるの?」
「わからない。でも、村を出て最初に訪ねた街はわかるから、そこで探してみるつもり」
「ふーん。探し物をする旅かあ。なんだか楽しそう」
「楽しそう?」
「そう。だって、そのおじいさんに会える日を思うと、ワクワクしちゃいそうだもん」
会えるまでのワクワクする時間。
旅に出る時のアンバーは、魔法使いのおじいさんに会う瞬間のことだけを考えていた。
でも、クロムやオリーブと一緒に旅をしていること自体も、とても楽しい時間を過ごしている。
フォリアの何気ない言葉で、それに気づくことができた。
それだけでも、フォリアが声をかけてくれたことに、感謝の気持ちを持つアンバーだった。
「それにしても、お兄ちゃんが今の話を聞いたら、羨ましがりそう」
「フォリアちゃんには、お兄ちゃんがいるの?」
アンバーは、首飾りを作る手を止めて、フォリアの方へと振り向く。
フォリアは、なんでもない話を話すように、続けた。
「そう。ジグお兄ちゃん。多分昨日の夜、料理を持っていったと思うんだけど、覚えてますか?」
フォリアの言葉で、昨日の夕食の時に料理を運んできた少年の顔を、思い出した。
そして、じろりと睨まれた感じがして、思わず身をすくめてしまったことも。
「うん。睨まれた感じがして、ちょっと怖かったかな」
「やっぱり。料理を運び終わって帰ってきた時、ちょっと不機嫌そうな顔をしてたから」
「そうなの」
「ううん、いつものことだから。それより、お兄ちゃんが失礼な態度をとってしまって、ごめんなさい」
突然、年不相応な大人びた謝罪をされて、アンバーは慌てて、気にしなくてもいいよというふうに手を振った。
アンバーが怒らなかったことで安心したフォリアは、ジグのことを話し始める。
「お兄ちゃんは、ちょっと乱暴な時もあるけど、普段は宿の仕事とかもきちんとしていて、素敵なお兄ちゃんなの」
「うん。フォリアちゃんを見ていれば、わかるよ」
「でもね。お兄ちゃんは、本当は村の外に出たいと思ってると思うんだ。だって、宿屋に旅の人が来るたびに、うらやましそうな目をしているから」
「……」
「特にお姉さんは、お兄ちゃんと年がほとんど変わらないから、なおさらうらやましいって思ったと思うんだよね」
「村の外には行かないの?」
アンバーの素朴な質問に、フォリアは首を横に振って答える。
「ときどきお父さんにお願いすることはあるみたい。でも、まだ子供だから危ないって、断られているみたいなの」
「そっかあ」
「お姉さんは、ちゃんと大人の人たちがいるからいいけど、子供一人で旅に出るのは、きっと大変だよね」
「うん」
フォリアは、そこまでいうと少しジグへの好意がこもった少し大きな声で、続きを話し始める。
「だからお兄ちゃんは、宿屋の仕事をしっかりと手伝って、村の外でもやってけるんだぞ、ということをお父さんやお母さんに見せようとしてるんだ。かっこいいよね」
「それは、かっこいいお兄ちゃんだね」
「でしょ!」
アンバーは、自分が旅に出る時の決心をなかなか親に伝えられなかった時のことを思い出した。
そして、意見をきちんと伝えて、そしてそれを証明するための行動も見せているジグのことに対して、純粋にすごいなあという気持ちが湧き上がっていた。
「アンバーちゃーん。首飾りはでき……」
アンバーの様子を見にきたクロムは、つい最近見た覚えのある女の子に気づいた。
「あれ、あなたは、昨日の夜に食堂であった……」
「はい、フォリアです」
「私の名前はクロムよ。アンバーちゃんと一緒に、旅をしているの」
「さっき、アンバーお姉さんに聞かせてもらいました」
ハキハキと答えるフォリアに笑顔を返すと、クロムはアンバーに話しかけ始めた。
「こっちは、必要な首飾りが出来上がったけど、アンバーちゃんの方はどうかなあって思ったんだけど」
「フォリアちゃんに手伝ってもらったから、こっちももう出来ました」
「それはよかった。それにしても……」
クロムは、アンバーとフォリアを見比べると、腕を組みうなづく。
「人見知りのアンバーちゃんが、こんなに早く仲良くなるなんて、フォリアちゃんはいい子ね」
「ちょ、クロムさん。確かに私は人見知りしますが、そう面と向かって言われちゃうと、ちょっと……」
「ごめんごめん。でもアンバーちゃんにも話し相手ができて、本当に良かったって思っているのよ」
本当に悪気なさそうに話すクロムに、うなだれるアンバー。
そのアンバーの首に、クロムがそっと小さな首飾りをかける。
ハッと顔を上げると、クロムはしてやったりという顔をしていた。
多分、このサプライズを成功させるために、わざと意地悪な言葉遣いをしたのだろう。
「これは、ちょっと材料が余ったので、私からアンバーちゃんに、プレゼント」
「いいなー、お姉ちゃん」
「フォリアちゃんも、首飾り欲しかった?」
「もらえたら嬉しいです」
「材料はもう少し余っていたし、そうしたらもう一つ、アンバーちゃんと仲良くしてくれたフォリアちゃんのために、首飾りを作りましょう」
「やったあ、ありがとう、クロムお姉さん」
お姉さんと言われて上機嫌になったクロムは、また娘たちが集まっている輪の中に帰っていった。
不意打ちで首飾りをかけられたアンバーは、しばらく固まっていたのだった。
少ししてから、クロムが帰ってきて、作ってきた首飾りをフォリアの首にかける。
お揃いですね、という感じでアンバーに首飾りを見せると、アンバーも同じように首飾りを見せた。
そんな二人を見ていたクロムだが、空を見上げると、太陽がもう真上に昇っていた。
お腹が空いてきたクロムは、二人に話しかける。
「そろそろ、お昼だけど、お腹空かない?」
「いいですね。天使の宿屋は、美味しいお昼ご飯もありますよ」
しっかり者のフォリアが、自分の宿の食堂を紹介する。
「いいわね。そうしたら宿に帰って、お昼ご飯をいただきましょう」
クロムのその返事とともに、三人は宿屋に向かい始める。
その道すがら、フォリアはアンバーに話しかけた。
「お姉さん。お昼を食べた後、何か予定はありますか?」
「いえ、特には」
「そうしたら、一緒に森にキイチゴを摘みに行きませんか?」
「キイチゴ?」
「そう。お母さんに、ジャムを作るから採ってきてと頼まれているんですけど、手伝ってもらったら早く終われるかなって」
同じくらいの友達から誘われたことのないアンバーは、フォリアの誘いがとても嬉しかった。
そして、一緒にキイチゴ採りに行くことを約束するのだった。




