蔦と蔓(後編)
ふん…まずは、僕を睨んでいる正面の厳つい男の動向を視界に入れつつ…居合の要領で、鞘を引きつつ刀を発射。
刃が飛ぶように左右を八の字で滑るように一閃。
後ろからの攻撃を左前に一歩ずらして避け、軽く自身がクルリと回って、360度水平斬り。
…
一拍して、周りに、ただ立っているだけの木偶の坊共の身体が、静かにずり落ちた…。
以上、仮想の未来予想は完璧です。
さあ、あとは、実行するだけ。
躊躇はない。
「ちょっと、待ったでござる!」
僕ら、ハイエルフは言葉で繋がる種族である。
正確には違うけど、説明が面倒なので概ねこの説明でこと足りるとしている。
そして、野蛮とは隔絶している文明人と自認しており、僕らは野蛮で精神的未熟なヒトとは違うのだ。
だから、何処からか聴こえて来た、若い男の声の言葉は理解出来たので…中止して、言葉通り素直に待った。
しばらくして厳つい粗野な男達の列を掻き分けて、やって来たのは、意外にも未だ歳若い剣士だった…訂正、その動きから剣匠階級の技量の持ち主であると分かった。
しかも柄物が観賞用と見まごうほど細身の造りで反った剣状の武器。
それは刀と言われるもので、これを使う者は、古来より侍と言われている。
そう言えば、彼の言葉使いは、古代N語の更に古語の一分派の言い回しに近似している。
それは侍が好んで使った語尾変化の言い回しと言われている。
奇しくも僕が所持している剣も、片刃の反りを付けている…刀を真似して打ったから、当然。
…同好の士であるか。
僕は、差別はしないが、趣味を同じくする者は、心持ち耳を従うことにしている。
…いいだろう。
待ったぞ。僕に用があるのだろう?
さあ、言ってみたまえ!
「お主ら、まさか、この方に手を出してないだろうな?散れ、散れ![森の鍛治師]殿に無礼である。近づくな、危ないぞ!逃げろ、100メートル以上は離れるんだ!早くしろ!」
突然現れた若き剣匠は、僕に対してではなく、周りのモノ共に叫んだ。
その言葉に、周りのモノ達に動揺が走る。
「ま、まさか、伝説の[狂えるハイエルフ]か?」
「あの[狂気の騎士]なのか?」
「見ろ!爺様から聞いていた風貌に似てるぞ!」
「ま、まさか、伝説は本当だったのか?」
…先程の粗暴な雰囲気は風のように何処かに消え、周りを囲んだモノどもは全員後退りし始め、遠巻きにしたと思ったら、大声をあげて蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
若いシェフも、ヒィッと悲鳴を上げて、扉前まで後退している。
若き剣匠は、僕の前まで来ると、ガバッと土下座した。
大地に額ずいて、お赦し下さいと念仏のように唱えている。
…
…
…ああ、つまらんな。
どうやら、僕に害なすモノは、この場にはいなくなってしまったようだ。
せっかく、森を出る際に、似たモノを斬って練習したというに無駄になってしまったか。
…残念。
実に残念だ。
ヒトも存外馬鹿ばかりでもない。




