蔦と蔓(前編)
食を堪能した僕は、シェフに賛辞という褒美を与えた。
そして満足な気持ちで、泰然と料理店を出た処で厳つい粗野な男達に囲まれた。
…
おや?500年経っても、ヒト社会では街中で無法者が横行してるのかね?
しかし、僕は既にヒト社会の頸城から放されて久しい。
それにむさ苦しいのは嫌いだね。
だが、食後の良い気分なのに血の匂いを嗅ぐのも、気が進まない。
そこで僕は、腰に佩いた鉈はそのままに、向かって左の男から順番に裏の拳で丁寧に頬を撫でてやった。
ん、ん、んん〜♪
僕は概ね無言実行をむねとしている。
そしてやろうと思ったことは即やる派なのだ。
何故かって?
ハハハッ、だって、その方が格好良いだろう?
なあ、イーハトーボよ…
ここで、僕は気がついた。
確か、昔、似たような事があったような…既視感か…
記憶がフラッシュバックする。
小さいイーハトーボが、「叔父さん、ヤメて!」と僕を止めようとし、厳ついシェフが扉から…
「お客さん!お代いただいていません!」
若いシェフの女の子が慌てて扉を開けて宣い、周りの男達の状態を見て悲鳴を上げる。
何やら固有名詞めいた呼びかけをしていることから、どうやら知り合いだったらしい。
そんなことより、僕は彼女の言葉の内容が気になった。
お代?
お代とは何ぞや?
ああ!…僕は思わず拳で逆の手の平を打った。
そうそう、思い出した。
人社会では、等価交換に見せ掛けた富の収奪システムを採用していることを。
なんて不完全な社会システムを採用しているものなのか…そして500年前も同じ状況に遭ったことを思い出した。
小さなイーハトーボが何故にか下賤なヒト種らに一心不乱に謝っていたっけな…懐かしい。
優しい、叔父思いの良い子だった。
…
瞼を閉じて、シミジミ懐かしんでいると、妙な気配を感じた。
眼を開けると、さっきより、より一層むさ苦しい男達に多層に周囲を囲まれていたのだ。
山で時折り見掛ける興奮した猪のような雰囲気を醸し出している。
…
どうやら、僕はヒト種との交流に失敗したらしい。
イーハトーボが「叔父さんは、私が居ない時は、一人で街中を彷徨かないで!」と普段僕を尊敬した眼で見ていたのにマナジリを上げてキツく言っていたのを思い出す。
ふむ…だがそれは、無理だろう。
だって、オマエは既にもういない。
何故なら、オマエは、世界を救った後、信用したヒト種らの策略に落とし入れられ…
…
そう言えば、このヒト種らは、山々のシブトい蔦や蔓に似てるのう。
僕は、自然と自分の口角が上がるのを感じた。




