魚
英雄イーハトーボ。
森の最奥に住まう伝説のハイエルフに育てられた、エルフと人間とのハーフ
港町にて魚を食す。
…
…
…
うん、美味いな。
魚料理に舌鼓を打つ。
店の構えは違うが、以前、訪れた場所に建っているビストロに入りて、港町ならば、やはり魚だろうと、魚料理を注文したのだ。
まずは一口食したが、魚の滋養分が、蔦や蔓と闘い疲弊した身体に摂取される悦びを感ずる。
ハイエルフは、森の生気だけで、生きていけるけど、食べられないわけではない。
実際、僕の知り合いでも、桃ばかり食べている御仁がいる。
理由は、単に桃が好きだからだ。
僕はと言えば、肉も魚も好きな方だが、そんなには食べない。
基本、身体が生きるに必要な分だけをいただく。
多少貯めるのは、構わないが、使わなければ意味がないので、ため込んだ分は、断食しても、すっかり使ってやるのが、食べた主の務めと心得てる。
森では食事を取らず、普段は森に漂う霞(精気)をいただいて生きていた。
これは、合理であり、不思議現象ではない。
人社会にも点滴という似た手段があるではないか?
だがしかし、人里に降りたからには、郷に入っては郷に従えと、エネルギーの獲得手段を食事に切り替えたわけだ。
僕は、ハイエルフの中では、割と臨機応変で柔軟な思考を持つのだ。
この野蛮なヒト種の文化をも尊重しようと考えるほどに寛容である。
ヒト種の料理するという概念は、実に無駄で贅沢で素晴らしいものだ。
食べた魚は、口内に旨味の残心を残しながら、淡雪のように消えていった。
…
トレビアーン!
ハラショー!
店内は、賑わっているにも関わらず静かだから、感動から傍若無人に叫びたい思いに蓋をし、内心で快哉を叫ぶ。
僕は、静謐と調和を尊ぶ。
このビストロが珍しくも静かな店で良かった。
適当に選んだが、僕は運が良い。
この魚の煮付けは旨味が染みて、実に素晴らしい味わいに仕上がっている。
舌や内口が痺れるほどに美味しく感じる。
食べながら、以前、博物館で見た魚の進化系統図に想いを馳せる。
思えば、魚という生物は、僕が物心ついた頃から変化がなく、数千年経とうが変わらない。
もしかしたら、魚、完成されちゃってる?
…
いやいや、変化は徐々に起こっているのだ。
だから、気がつかない。
そう、徐々の変化とは、気がつかないものなのだ。
だから、刮目して見なければならない。
僕以外の店内にいるヒト種。
この一見して愚かで、下劣で、小賢しくも己れさえも知らず、立場を弁えず、分別もなく、手前勝手で、欲望を管理さえ出来ないのに、分不相応にも小生意気で、迷惑省みない、凶暴劣悪なヒト種も、徐々に良い方向に変化しているかも… … …しれない。
…
…分かっている。
コレは、僕の願望だ。
厨房から、心配そうに僕を覗いているシェフがいるのを感知した。
ナイフで一口分切り取り、口に入れる。
この料理は、以前ここで食べた料理を彷彿とさせながらも格段に進化している。
そう500年前も、僕は、ここで、まだ小さいイーハトーボと魚料理を食べたことを思い出した。
うん…あの料理もなかなか美味かったよ。
…悪くはなかった。
覗いている若いシェフの顔が、500年前の厳つい顔のシェフのそれと重なった。
…そう言えば、顔のパーツが所々似てる気がするな。
ヒト種だから別人には間違いない。
たが、コチラを心配そうに覗いている様子が全く同じで…料理だけが、より美味しく変化している!
…フッ。
…そうだな…この味には白よりも赤が似合うかもしれない。
僕は、脇で立ちすくんでいるウェイトレスに、赤ワインを頼んだ。
マリアージュだ。
料理と酒は、掛け合わせる妙で、何倍にも美味しくなり得るのを僕は知っている。




