ワルプルブス会談
今回の事案を説明するには、まずワルプルブスの刃とは何かと説明すべきであろうな。
外出する為の支度しながらワルプルブスについて、脳内検索する。
そうなると、多少なりとも人の歴史から説明しなければならない。
思い出してみる。
…あわや愚かにも人類滅亡しかかった超古代時代の末期を乗り切った人類は、その後、厳しい環境に適応した亜人と混ざりあい都市政府主体の古代時代を経て、都市と都市を結ぶ大航海時代を迎えるようになる。
だが、愚かにも又も力をつけた人類は7大都市間において、戦端を開いてしまったのだ。
これが、人世界大戦の始まりである。
…全くインゲンどもめ、迷惑極まり無い。
いっそ滅亡してくれれば良かったのに。
思い出しながら、人の愚かさにウンザリする。
その大戦を、力と智慧、あらゆる力を使って終息せしめた英雄と各都市の代表者達の会談が開かれた場所がワルプルブスで、その会談の食事の最中に、甥のイーハトーボが小刀を片手に握りながら、各国首脳級の面々に対し演説したらしい。
「この刃は、戦で今まで何人切ったか分からない俺の大切な守り刀。だが、今この瞬間から平和が訪れるからには無用の長物。これからは食事する際のナイフ代わりをするが良かろう。」と語り、皆へローストビーフを切り分け与えたという有名な逸話がある。
その後、暖炉上の木片に突き立てられたその刃は、いまでも其処にあるという。
つまり、イーハトーボは、率先して武装解除して胸襟を開いたのだ。
その言葉通り、その後の人生においてイーハトーボが武器を持つことはなかった…馬鹿な奴め、個人と世界の平和、どっちが大切であるかは自明の理ではないか。
僕が刃を贈ったのは、甥の君を護るためであろうに。
履き違えおって。
だが以来、その小刀は世界平和の象徴として、ワルプルブスの刃と呼ばれ、木片に刺さったまま、宿泊場所のラウンジに飾られているという。
ああ…なんてショーマン的なパフォーマンス。
実際、本当のところは分からない。
だが、それに近いことは言ったに違いないのは、その後のイーハトーボの行動から分かる。
心優しい彼のことだから、きっと「今此処で皆が戦わないことを誓ってくれるならば、俺も一生涯戦うことはしないと誓おう。その証拠に俺の武器を手放そう。」などと宣ったのかもしれない。
武器を持ってさえいれば、一騎当千の英雄が誓った言葉です。この言葉の意味は重い。
いずれにせよ真実は藪の中だ。
だって、その頃、会談に出席した者は、全員墓の中です。
そして、このワルプルブスの刃に関して、問題は現代に起きてしまった。
それが、この手紙の内容なのです。




