剣匠は語る⑥
扉をノックして、しばらく待つ。
鍛治師殿と、又逢える。
そう思うと昨日は、興奮してよく眠れなかった。
屋外でも映えるテーブルを作らせて、既に運びこませてあるし、段取りを何度も反芻しているうちに寝てしまったが、夜明け前に目覚め早速、魚と雷亭を訪ねた。パン屋なら既に起きている時間だ。
だが縫いぐるみを抱えて寝巻き姿で出て来た幼馴染みの女料理人からは「オマエ、イイカゲンニシロヨ」と怒られた。
…些か早かったらしい。
しかし、ここから鍛治師殿の住まう処まで、ゆっくり走って一時間は掛かるのだ。
今から行かねば朝食には間に合わない。
一応初回なので、料理人や材料、道具を運ぶ人足まで用意した。
この時間が妥当であるとは、昨日も説明したが、このポンコツな幼馴染みには聴こえてなかったらしい。
内心、オマエコソ、イイカゲンニシロヨと思いつつ、この土壇場で臍を曲げられても困るので、下手に出て愛想良く振る舞った。
しかし、何でこのポンコツ料理人は、殊更鍛治師殿の事になると不機嫌になる気がする、何でだ?
しかし、現場に着いて、料理の準備に着手してからの洗練された動きは傍目からも素人とは一線を画するプロの動きであると見てとれた。
そこには受けた依頼は妥協せず手を抜かない料理人としての矜持を感じとれた。
なんて落差の激しい奴…料理人に畏敬の念を抱く。
だが、そんなお前のお陰で準備は万全、感謝するぞ。
さあ、あとは鍛治師殿が起きるのを待つだけ…。
室内からトコトコと軽い足音が聞こえた後、突然扉が開いた。
左様に気軽に開けるなど鍛治師殿の警戒心を心配した途端、…息を呑んだ。
ちょうど、最初の朝日の一筋が木漏れ日となって、出て来た鍛治師殿を照らし出していた。
そこには輝けるハイエルフが佇立していた。
長い金髪を腰の下まで垂らし、その身は純白のシルクのような寝巻きに包まれている。
わたしを見つめる寝惚け眼だけが、彫像ではなく生きていることを物語っている。
…う、美しい。
神々しいほどの美しさだ。
思わず拝謁したい衝動に駆られたが…耐えた。
生ける美の化身を目の当たりにして、頭がクラクラしたが、鍛治師殿と会うは船旅で耐性が着いているはず!だが警戒心なく無防備に上目遣いに私を見る瞳には魂が引き込まれてしまいそうになった。
「…コホン。」
この時、背後からわざとらしい料理人の小さな咳払いが聴こえ、ハッとした。
「おはようございます。鍛治師殿。実に気持ちの良い朝ですな。一緒に朝食など如何ですかな?既に用意は出来ておりますぞ。」
心臓を鷲掴みされた気分でドギマギしながらも、練習通りの言葉を発することが出来た。
やはり、あらかじめの準備や予習はしておくべきだと改めて確信を得た。




