森林の騎士
先日、ワルプルブスまで、ちょっと船旅をして来た。
未だ未熟なヒト族の尻拭いと言っても過言ではない。押し付けてきた連合政府の糞爺どもにも向っ腹が立つというもの。
だが、そんな苦情を申し立てても、きっと理路整然と詰将棋のように詰められるか、「ホッホッホ、森林の騎士は、まだまだ若いのう…」と韜晦して立ち去るのが目に見えるほどに分かる。
僕は、無駄なことはしないのだ。
些か業腹だが、この件は甘受してやる。
手紙や外界からの呼び掛けは、波乱を伴う。
受け取りには要注意だ。
今度から疑って掛かろう。
これで、この件は終わりのはずだった。
生活も元に戻り、あと500年は鍛治で暇を潰せるというものだ。
ヒト族の政争、世情の争いに巻き込まれるのは、真っ平御免。経済的利得の取り合いに強制参加させられるのも御免被る…あれの本質は一種の自己都合の誤魔化し、低級な詐欺で必ず損をするように出来ている。
賭け場の胴元が儲かり、客が損する理屈と同じ。
最初から損すると分かっていて参加する客などヒト族以外いない。
ヒト族の経済圏に参加してはいけない。
よくヒト族は論理は神に対しも有効であると称し、己れらの経済活動などを正当化しているが、そんなヒト族にしか通用しない論理など、僕には全く関係ない話なのだ。
拒否して関わらないのが一番だな。
だが、あの料理人の料理は、ちょっと名残り惜しい………が、諦めよう。
僕は料理より平穏を選んだ。
こうして森林の騎士は、帰らずの森で平穏に末永く暮らしましたとさ。
おわり…
ドンドン!ドンドン!
扉を叩く音が聴こえ、寝惚け眼で僕は扉を開けた。
「おはようございます。鍛治師殿。実に気持ちの良い朝ですな。一緒に朝食など如何ですかな?既に用意は出来ておりますぞ。」
見上げれば、陽気な顔した若者が僕を見下ろしている。
…
ああ?…何処かで見た顔だ。
人族にしては端正な顔立ちで、さぞやモテることだろう。爆発すればいいのに…などと反射的に心に思い浮かんだ。
むむ…僕の返答がないことに怪訝な顔をしているな。
まあ、待て、今、思い出すから。
えーと…
もとより、僕の交友範囲は狭い。
見えない友達は沢山いるが、現実の友達は数えるほど…エルフの引き篭もりなどこんなもんだ。
若者の脇から垣間見える背景には、広場が作られ、立派なテーブルが置かれていて、紅茶の匂いが、そこから微かに漂って来ている。
その傍には、船旅の際、随行した料理人が立っていた。
相変わらず、やる気のなさそうな、帰りたいと丸わかりの表情を顔に貼り付けている。
接客業として、その態度はどうかとも思うが、彼女の料理は手を抜いた痕跡のない絶品だから、僕は気にしない。
…あ。思い出した。
この目前の若者は案内人である剣匠であるか?!
なるほど、どおりで見た覚えがあるはずだ。
ふむふむ…さては、船旅の御礼に料理を振る舞いに来るとは殊勝な心掛けであるな。
最初は、わけわからんことを呼び掛け、眠りを妨げる邪魔者であると、消し炭にしようかとも内々思っていた僕だが、魔力の発動を途中で止めた。
「おお、剣匠ではないか。勿論僕は覚えているぞ。して今日は何用じゃ?下らない用件ならば、真っ二つにしてやるぞ!勿論冗談じゃ。ハハハ。」
テーブルの上に並びたる料理からの匂いに釣られお腹がキュとした。
ところで、僕の話って、まだ続くのかしら?




