剣匠は語る④
鍛治師殿との出逢いを語った。
ワルプルブス問題を解決し、故郷に帰って来た今となっては、懐かしい思い出だ。
あれから数ヵ月が経ち、私の領主たる領内の地盤も急速に落ち着きを取り戻しつつある。
この世は弱肉強食なのだ。
実は鍛治師殿と出逢った時は、領主を継いだばかりで政治的地盤も弱く、内外からこの領は狙われていた。
それが鍛治師殿の旅に同行したことで箔がつき、しかもワルプルブス問題を解決したとして、国際的に認められ、更に後ろ盾に鍛治師殿が付いていると看做され、我が領の政争も私に都合良く万事上手くいってしまった。
実際には、鍛治師殿とは故郷の港町で別れてから会ってはいなかったから後ろ盾も何もない。
残念ながら懇意とも言えず、別れ際もアッサリとしたものだった。
私としては、数週間に及ぶ船旅を通じて、多少なりとも政治的な思惑は抜きにして、仲良くなったつもりではあったが、どうやらわたしの片想いだったらしい。
別れ際の私の口上も、鍛治師殿からアッサリスルーされてしまった。
返って来た言葉は「…そう。」だけだった。
鍛治師殿は、振り返ることなく、帰らずの森へとサッサと帰って行ってしまったのだ。
余情もなにもない。
立場上、感情の揺れ幅は、なくしているつもりだったが、無情な鍛治師殿とのあんまりな別れに、ついシェフに当たってしまった。
「流石、永遠を生きると言われるハイエルフだ。人間の一人などは、路傍の石にも等しいらしい。」
端的に言えば、これは八つ当たりだ。
…分かっている。
しばし、黙って私の言を聞いていたシェフだったが、この時は珍しくも言い返してきた。
「私たちって、石でもなく、嫌われてるらしいわよ。以前、「人は直ぐに居なくなってしまうから嫌いだ」と一人で呟いていたもの。」
…
…これには参った。
鍛治師殿は、表情は殆ど変わらないが感情が無いわけではない。
それは旅を同行していた事で分かっている。
しかも私は、僅かな表情の陰から、その感情を何となく察することまで出来るようになってしまっていた。
鍛治師殿は、今までに数多くの別れを経験してきた筈で、それらは永遠の別れで二度と会うことはないのだ。
夕陽が照らす船上の甲板で、一人寂しそうに先程の台詞を呟いている鍛治師殿を想像してしまった。
…なんてことだ。
ムカついたので、シェフの頭にチョップをかます。
些か自分の事ばかり考えてしまったようだ。
そこで、私と我が領に多大な恩恵を与えてくれた恩人に、恩返しする名目で、鍛治師殿の自宅まで道を作ってみた。
工事料はかなりの額が掛かったが構わない。
体力作りの山岳トレイルだと思い、一時間も山林道を走れば鍛治師殿の自宅に着いてしまう。
訪問した際の鍛治師殿の驚いた顔が忘れられない。
直ぐに無表情に戻ったが、内心では嬉しく思っていることを察することが出来た。
そしてそれは、きっと気のせいではないはずだ。




