剣匠は語る
騎士アルゴと昔の文献には名前の記載があった。
この地球上には古来より、この地を支配する豪族達は、自分達より上位の貴族、神官、王族よりも、遥かに上位の生き物が存在することを知っていた。
このことは、一般庶民には知らされていない。
一定の支配階級しか知り得ない公然の秘密と言うもので、霊長類と自称する我らヒト族は、彼らの干渉しない無関心な対応を良い事に、彼らの存在を認識しながらも、公式には認めず無視を決め込んでいるのだ。
それがしも、考古学や歴史を趣味にしなければ、彼らの存在を知り得なかっただろう。
なにしろ、彼らはおそろしく希少で、しかも表に出ることはなく、大抵は引きこもりで、ヒト族に干渉することは、ほぼない。
しかし、歴史を紐解けば、アチコチで彼らの足跡は見受けられる。
…彼らは全くヒト族を虫ほども気にしてないだけで隠れる気はないらしいと察せられた。
さる民族の神話では、神と崇められ、或いは妖精とも呼称され、悪魔とも精霊とも言われ、伝説に残っている。
しかしながら、彼らの正体は、おそらくはヒトや亜族に近いものから個別に昇華した仙人に近い、まさに生物の頂点に位置する種族だと思われた。
ヒトよりも肉体的には頑健で長命であり、精神的には高貴で貴族と呼ぶに相応しい。
調べれば調べるほどに、それがしは、彼らこそ霊長類と呼称するに相応しく、その崇高な精神は、貴族を遥かに超えた貴族であると思うに至った。
一般のヒト族の貴族と区別する意味で、彼らを[真なる貴族]と呼ぶものもいる。
彼らの生態は未だ不明だが、神ではなく、一生物であるのは確からしい。
その証拠に、それがしの父が治めるこの地にも彼らの内の一人の生きた伝説が残っているのだ。
その人物の名は、アルゴ。
種族はハイエルフであり、大樹海の森に遥か昔から鎮座する。
職業は鍛治師で、位階が上がり[真なる貴族]の仲間入りを果たしのは、今からおよそ1000年前、彼らの中では若手で階級は騎士らしく、民話では、[森林の騎士]と名乗ったと記述されている。
それがし…いや、ここには誰もいないから気にせずに、わたしと名乗ろう。
わたしは、子供時代に彼らの存在を文献で発見し、以来興味深々で彼らを調べあげた。
武士の家系に生まれ、刀の振り方を修練する傍ら、文献を漁るのがわたしの趣味となった。
特に騎士アルゴは、いたくわたしの興味を引いた。
なんと彼は、500年前七都市戦争を終結せしめた七英雄の一人、この郷土から輩出した英雄イーハトーボの叔父にあたるらしいのだ。
民話の挿絵を観るに、彼はハイエルフらしい美しい見目形をしているが、意外と身長はない。
挿絵では、彼を囲む、周りの男達と比べると頭一つか二つ分も低い。
この挿絵は、当時の画家が描いたものを登用しているのは分かっているから、この絵は、かなり信憑性が高い。
そして、まるで少女のような体躯に関わらず、彼は、この地では古龍のように畏れられている。
ついた綽名は[狂えるハイエルフ][狂騎士アルゴ]と、碌でもないものばかり。
怒れる大魔神の如く、土地の民から畏怖されているのだ。
屈強な大男が裸足で逃げ出すほど怖れられ、まるで悪霊か邪神のように、この地の一部では祀られている。
その理由とは、甥であるイーハトーボを殺された怒りから、彼は、この地に大地震を起こし家屋を倒壊させ、津波が発生して海産物や沿岸に多大な損害を与えたからだ。
当時の恐ろしい様は、文献に大量に記載資料が残っており、大地震が発生した事実は間違いないことはわかっている。
…だが、わたしは調べるうちに、ある発見と疑問点が浮かび上がったのだ。
だが、調べても、その疑問の答えは出なかった。
そうとなれば、もう本人に聞くしかない。
幸いまだその本人は、500年経った今も森林の奥に住んでいるらしいのだ。
いつかは、大樹海の奥に分け入り、彼に会いに行くことが私の夢であり希望となった。
立ち入らずの森林に入る準備と思えば、ツラい剣の修行も全然苦にはならなかった。
…
ところが、月日が経ち、わたしが20歳となった頃、思いもかけず彼に会うことが、かなってしまったのだ。




