ワルプルブス会談再び①
主に、剣匠の功績であろう、道中は平和に進みて、目的地に着いた。
料理人に言わせると、道中いろいろあったらしいが、そんな些末な事象など、僕は知らない。
島の港にて、万事を垣間見る。
何処の港でも共通した、波止場の風景である。
そこで僕は、この場の緯度経度を測り、都市ワルプルブスの位置情報と同一であるを確認した。
…よろしい。
一際高台にある橙色の屋根が景色に映えた建物が眼についた。
アレが…であるか。
早速僕は、眼についた建物に向けて足早に歩を進める。
…と、後ろから、剣匠の慌てた声が追って来た。
「…鍛治師殿、待たれよ。政庁や代表議員に、先ずは約束を取り付けねば、無駄足になりまする。」
僕には関係ない。但し、剣匠がするのは自由だ。勝手にしろ。
「…ない。…しろ。」
僕が親切にも返答してあげると、剣匠は料理人に対し、僕に付いて行くように指示すると、僕とは別の方向に走って行った。
僕との船旅の数ヶ月で、優秀な剣匠は、更に優秀になった。
慌てる料理人は変わらず。
料理の腕だけが上がった。
…よろしい。
ワルプルブス荘の前に、僕は立つ。
…
ここが、500年前にイーハトーボが訪れた地であるか…当時の痕跡などないだろうが…かつてこの地を訪れた甥の姿が、他の七英雄と連れ立って歩いて僕を通り過ぎ、扉に入って行った姿が…見えた。
…
付いてきた料理人が、急に立ち止まった僕の背中にぶつかって来た。
…衝撃に右足を半歩前に踏み出してしまう。
反射的に斬り捨てる…を、止めた。
この料理人は、帰りにも居り用だから。
・ー・ー・ー・
きっと、剣匠は、仕事を素早く済まして、ここに来るに違いない。
僕は、ワルプルブス荘の扉を開きて中に入り、今代の荘主に面会を求めた。
意外にも待つことなく来たこの歴史的に有名な高級ホテルとなった宿泊施設のオーナーは、中肉中背の中年の男であった。
平均的な目立たない、ホテルと調和した印象の静かな男に対し、単刀直入に、ここに来た用向きと、ワルプルブスの刃を見分させて欲しい旨を、僕は伝えた。
…
一拍の間を開け、荘主は丁寧なお辞儀をした後、落ち着いた口調で返答した。
「…かしこまりました。森林の騎士様。ようこそおいでくださりました。歓迎いたします。まずは、お部屋にご案内致しますか?」
…ん?!
ヒト種には稀な予想外の対応!
初見であるし疑われると思ってました。
その対応に、様々な試算が働いたが、益のない仮想演算を止め、「…先ずは刃の見分を」と僕は口にする。
…
…荘主に案内された、ラウンジの奥まった広間の暖炉の上に、それはあった。
一本の薪に突き刺さっている。
周りには、立入禁止の看板が掲げられ、黒鎖で周囲から隔てられていた。
荘主は、躊躇なく黒鎖を外して、平然と突き刺さった薪ごと手に取り、普通に僕に手渡してきた。
人社会では、準国宝級の扱いを受けてると聞くに、如何にも気軽な所作に、僕の方が軽く戸惑う。
室内照明に照り返すその刃は、確かに500年前、僕が作りて、イーハトーボに渡した一振りに間違いはなかった。
無造作に薪に突き刺さっているものの、時の経過を感じさせないほどに手入れされていることが分かった。




