29節 二対の巨星
バルバルスとラース。両者が対峙する、その数時間前。
旧ウセリオリ支部正門付近。
その上空に、バルバルスと、抱えられたトゥレトスの2人はいた。
「なんか、やけに大きなドンぱちしてませんか?」
「………」
2人が到着した時。それは、ちょうどヤコブとラースが戦いを始めた頃だった。
「……教皇様が戦ってますね」
「え!?」
バルバルスの言葉に、トゥレトスが声を荒げる。
「な、何故教皇様が!?というか第一、何故ここにおられるのですか!?!?」
「……分かりません」
「分かりませんじゃないでしょう!!!」
トゥレトスの言葉は聞き流し、バルバルスは冷静に戦況を俯瞰する。
(……教皇様が何故ここにおられるのかは置いといて、少なくとも教皇様が戦っておられるということは、フラムもここにいるということ……)
目に映る、『奇跡』と「悪魔」の激しいワルツ。
バルバルスに、一つの光明が差し込まれる。
「………よし」
「?」
バルバルスの声色に、トゥレトスが怪訝な表情を見せる。
「作戦が決まりました。もしかすると、「悪魔」をここで打ち取れるかもしれません」
「へーそれはまたまた……勝率は如何程で?」
トゥレトスの問いに、バルバルスは淡白に答える。
「99%以上です」
「…………え?」
漏れる声。
「……マジですか?」
「マジです」
答え、バルバルスはそのまま降下する。
そして、地面に降り立つと同時に、正門付近にいたローブの集団が、こちらと視線を向ける。
「多いですね。勝てるんですか?」
「負けるわけないでしょう」
トゥレトスの質問に吐き捨てるように答えると、突如、バルバルスの体が分裂する。
現れたのは、バルバルスと瓜二つの見た目をした少女と、小さな蝙蝠のような生物。
「トゥレトス、側を離れないように。そうすれば、命は保証します」
「分かりました!」
そして始まった、バルバルスとローブの集団による多対一。
結果はもちろん、周知の通りバルバルスの完勝である。
ーーーーーーーーーーーーーーー
そして、時は現在へと巻き戻る。
睨み合う、2対の巨頭。
片や、相手を殺す勢いを視線に乗せて。
片や、相手を蔑む視線を向けて。
張り詰めた緊張の中で、黒髪の少年が、悪戯に歪ませた口を開ける。
「……一応聞くけど、“5年前”のことを忘れたわけじゃないよな?」
「もちろんですよ」
5年前。「未曾有の大火災」が起こり、ウセリオリ支部が壊滅した日。
バルバルスの率いた「聖天騎団」の部隊が、負けた日。
「そっか。じゃあ分かった上で、もう一度俺と戦うんだ」
「5年前と同じ結果になるとでも?」
バルバルスの答えに、ラースは笑みを深める。
「悲しいな……。人は、過ちを繰り返してしまう」
ラースが、構える。
「自己紹介ですか?貴方にも、ユーモアがあるんですね」
バルバルスも、構える。
歪む、強者だけの空間。
ここよりは、誰1人として許可なく入ることは許されない。
観戦する際は、自己責任の程を。
「ーーー!」
肉薄。先に仕掛けたラースは、その勢いのまま左の膝蹴りをかます。
「!」
ーーーが、これをバルバルスは冷静に右手で押さえ込む。
そしてそのまま、空いている左手で顔面へ目掛けて拳を一閃。
「残念……!」
しかしラースはその攻撃を交わし、そのまま、自身の左膝を抑えたバルバルスの右腕ごと、腰へと両手を回し抱きしめる。
そして、絶命の魔力を発動。
「このまま真っ二つにしてやるよ!!」
ラースの魔力が、バルバルスの体を燃やす。回された手からは、滲んだ血が浮かび上がる。
「出血死が先か!それとも体がバイバイするのが先か!!」
逃さぬよう力を込めるラースに対し、だがバルバルスは、努めて冷静に口を開く。
「……そうですね。溺死はどうですか?」
「ーーー?」
ラースの耳下で囁かれた、冷たい声。
拘束を逃れたバルバルスの左腕、その体温の無い指先が、ラースの首元に優しく触れる。
破壊の魔力によって、指先の皮が剥がれて肉が見えようとも、しかし少女は顔色一つ変えず口を開く。
「体の内側を弄られた経験はありますか?」
触れた指先が、怪しく光る。
「!?」
瞬間、ラースは感じた。
自身の体、その中で起こっている何かを。
(これは……まさか血液……!?)
バルバルスの触れている首元、その皮膚の下が、青黒い不気味な色へと変色し、ボコボコと奇妙な音を立て始める。
「どうですか?体内の血液が、流れを無視して暴れるのは」
耳元に届く、冷徹な声。
幼子は、容赦を知らない。
「自慢になりますよ。血で溺れた経験は」
文字通り、内側からの反逆。
いくらラースといえど、自分の体内からの攻撃を防ぐ術は無い。
「……指が触れているから魔法が発動している」
「だったら、何ですか?」
ラースが口にした、バルバルスの魔法への考察。
悪魔の口元が、ニヒルに笑う。
「ーーー短絡的なバカなら、そう思うよな」
「!」
瞬間、ラースは自身の纏っていた魔力をバルバルスの触れている首元へと集約。
根絶の黒き魔力。
バルバルスの魔法を砕くと共に、触れていた指先を灰燼とす。
「さっきの答え、聞きたいか?」
首元に集約した魔力を、次いで自身の腕へと集約。
「ーーーっ!」
想像できた未来。
すぐさま対処しようと動こうとするも、しかしラースは、逃げれぬようしっかりとバルバルスの体をホールド。
「どうやら、バイバイが先らしい」
血肉のつぶれる音と、骨の断末魔。
バルバルスの胴体が、上下に分裂する。
「確かに、5年前とは違ったな」
空に舞う、赤色の雨。
その身に浴びながら、ラースは血塗られた髪をかきあげる。
「ーーー今度は、死んだ」
真っ二つになったバルバルスの体。
下半身はそのまま足元に倒れ、上半身は宙を舞った後、地面へと力なく落ちる。
「ま、暇つぶしにはなったかな」
真っ二つになったバルバルスを見つめながら、ラースは口元を歪ませる。
「……にしても意外だ。真っ二つになっても、そんなすぐに死ぬことはないんだな」
かろうじて意識があるのか、僅かな呼吸音を、ラースはバルバルスから確かに聞き取る。
「だがまあ……もう少し、何かあると思っていたがな」
「………し…………ろ…………」
「……?」
呼吸に紛れて聞こえた、バルバルスの声。
高まる危機感。
体を真っ二つにされた人間が、果たして声を出せるのか。
僅かに警戒しつつ、ラースはその声に耳を傾けーーー
「ーーー後ろ」
「!」
喋った。それも、口を大きく動かして、ハッキリと。
刹那、ラースは体を捻って、その場でジャンプ。
その下を、血の光線が通過する。
(まさかーーー)
ーーーその最中で見えた、正門付近の光景。
バルバルスにやられた部下たちより発射されし、血のビーム。
「……貴方の魔力は、触れた瞬間にものを壊す魔法じゃない」
「!」
着地すると同時に、ハッキリと声が聞こえた。
振り返って見てみれば、先ほど躱した血のビームが、真っ二つに転がった上半身の断面部に集まり、覆うように巨大な血溜まりなっている。
「ヤスリのように……じわじわと削り殺すもの」
ラースの足元の下半身が、何かに引っ張られるよう引きずられ、バルバルスの上半身の下へと動き出す。
「だから、魔力を一点集中する必要があった。火力を上げるために」
そして、くっつく。
真っ二つに分かれた体が、その断面が消えるよう綺麗に繋がる。
「……化け物」
笑いながら、ラースは言う。
「そんでもって、なんで服まで元に戻ってんの?」
ラースの言う通り、体だけでなくバルバルスの身に纏っていた黒いドレスまでもが元通りになる。
まるで、生きてるかのように蠢きながら。
「……私の血を浴びましたね」
「?」
体の調子を確かめるように腰を捻りながら、バルバルスが問う。
意味がわからず膠着するラースに、バルバルスは手のひらを向けーーー
「!」
ーーーそして、浴びた血が輝き出した。
(これは、魔法ーーー)
覆水不変。もう遅い。
「ーーー『彼方に焦がれて(リメンバーユー)』」
魔法の詠唱。バルバルスの“専攻魔法”。
ラースに染み付いていた血が、体に深く刺さりこむ。
「ーーーっ!」
吐血。喉元まで登ってきた血が、ラースの呼吸を妨げる。
「言ったでしょう?“溺死”だと」
白い肌と銀色の髪を靡かせて、少女が見下げる。
その視線に、ラースは血で溺れながらも、笑みを深める。
一歩も譲らぬ、2対の巨星。
輝きは、増していく。
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