28節 因縁、対峙す
誰かに、身を挺して守ってもらえた。
フラムにとって、それは初めてのことだった。
「セクア!」
戦いが終わり、フラムは急いでセクアの下へ駆けつけた。
以前として呼吸はしているものの、しかし出血は止まらず、危険な状態であるのに変わりはない。
「とりあえず止血か!?」
自分の着ている服を破り、記憶に残っているやり方を見よう見まねでやってみる。
「……ダメだ!血が止まらない!!」
セクアが死ぬ。
その未来が、現実味を帯びてフラムの頭を支配する。
(回復魔法を覚えておけば……!)
戦闘にしか興味のなかったフラムにとって、それは無用の長物だと思っていた。
しかし、切り捨てたその選択肢が、今は憎みきれぬほどの後悔に繋がる。
自分の無力さに、心を打たれる。
「……!そうだ!」
フラムは思い出す。
「ヤコブなら、治せるはず!!」
ヨハネスブルク支部において、瀕死の状態だった自分を治したヤコブの魔力、その力を。
「そうと決まれば探さねーと……!」
動き出そうとしたところで、しかフラムの足が止まる。
目線を上に、見上げる先には、ヤコブと似た風貌をしている“ラース”と呼ばれる男の姿。
先ほど、スキンヘッドの男との戦闘中に彼が空中に昇っていく姿を、フラムは朧げながら覚えている。
(そういえば……アイツ、ヤコブと戦ってたよな……?)
回想するのは、ヤコブがラースに突撃し、蹴り返された一場面。
(なのにヤコブの姿がないって……まさか……!?)
脳裏に浮かぶ、最悪の想像。
顔を蒼白にしながらも、しかしフラムは、その想像を打ち消すように顔を振り、セクアを背負って走り出す。
「ごめんな。痛いかも知れねーけど、ここに残す方が不安だ。……我慢してくれよ」
ラースにバレないよう、慎重に警戒しながらも、しかし素早く確実に。
そうしている中、ふとフラムは思う。
(……そういえば、てっきり戦いに参加してくるのかと思ってたけど、結局来なかったな……)
フラムとの戦闘に、最後に見せた大魔法。
間違いなくフラムの存在には気づいているだろうに、しかしラースは、どこか上の空の様子で動きを見せない。
「……まあいいか。ヤコブ探しにいこ」
もう少し速度を出そうと力を入れたその瞬間。
「ーーー!」
突如、上から何かが降ってきた。
「なんだ!?」
相当の重量なのか、落ちた衝撃で砂塵を巻き上げながら、その声は聞こえてきた。
「ーーー一体、どこに行くんだ?」
現れたのは、先ほど倒した奴と同じく、ローブを身に纏った大男。
そして気づけば、再びフラムはその集団に囲まれている。
「めんどくせーなー。まだこんなにいるのかよ」
「逃げれるとでも思ったのか?」
大男のセリフに、フラムは鼻で笑って返答する。
「逃げる?別に必要ねーよ。お前らなんて、何人いても障害にならねーからな」
「おもしろい……!」
ローブの集団が、その手に黒い魔力を宿す。
「全員持ってんのかよ……」
言いながら、フラムは背負っているセクアの体をゆっくり下ろす。
「悪いけど……今手加減できないからな」
第二ラウンド。その開始のコングが、鳴り響くーーー
「!?」
瞬間、フラムの内に走った、強大な魔力の反応。
「なんだ!?」
「よそ見厳禁!!」
その隙をついて襲いかかる大男を、しかしフラムは軽くいなして地面に倒す。
「一体……でも、これって……」
以前として、フラムの注目は先ほどの魔力反応。
強力な存在感を放つそれに、しかしフラムは、どこか懐かしい気配を感じている。
ーーーそしてもう1人、その反応に口を歪ませる者がいる。
「……なかなか厄介じゃねーか」
空中に舞う、黒髪短髪の少年、ラース。
そして彼の視線の先は、旧ウセリオリ支部を囲んでいた、城壁跡の正門付近。
そこは、予めヤコブたちが逃げるのを阻止するために、ラースの仲間たちが陣取っていた場所。
全員がラースの魔力を有し、中には先のスキンヘッドの男と同等、あるいはそれ以上の手だれもいる。
その正門付近にて、先の巨大な魔力反応は起こった。
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「いやー……本当に、貴方の戦闘は凄まじいですね」
正門付近。そこで男は、同行者に口を開く。
「あれだけいた数の敵を、こうもあっさりと倒すとは」
男の見上げる先には、目を疑うほどに溢れている倒れた人々の姿。奇妙なのは、それら一人一人に、赤黒い紐のような物がくくりついていること。
「ーーートゥレトス」
「はい?」
呼ばれ、トゥレトスと呼ばれた男が返事をする。
「ここにいてください。……どうやら、初めから全力で望まないといけないようです」
そしてトゥレトスに指示を出すのは、黒いドレスに身を包んだ銀髪の少女、「聖天騎団」隊長、バルバルス。
「分かりました。死にたくないですしね」
バルバルスの言葉を聞いて、トゥレトスはそそくさと足早でその場から離れていく。
そして、1人残されたバルバルスが、その正門をくぐり抜け、旧ウセリオリ支部へと足を踏み入れる。
「ーーーようこそ」
バルバルスにかけられた声。
「5年ぶりかな?「聖天騎団」隊長、バルバルス……!」
「………」
対峙する、バルバルスとラース。
「未曾有の大火災」、その因縁。
両者の視線が、交錯する。
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