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灰の預言者  作者: 吉越 晶
第4章
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20節 悪魔の誘い

「ーーーっ黙れ!!!!」


 叫び、ヤコブは覆い隠した。

 地面より生やした植物群で、自分の姿をしたラースを。


「だからさぁ!!」


 しかし、世の常とは非情である。


「無駄なんだって!!」

「!」


 どんなに目を逸らそうと、自分からは逃げられない。


 ラースの邪悪な魔力が弾き飛び、生やした植物が散っていく。


「少し痛くしないとわかんねーかな!?」

「!」


 距離を詰めたラースの拳に、黒い魔力が集約される。

 それは、命を根絶する魔力の波。


(これは、まずい!)


 咄嗟に、ヤコブは自身とラースの間に植物の壁を作り出す。


「だから!意味ねーよ!!」


 突き出した拳。それは、ヤコブの作り出した植物の壁を、ミサイルの威力さえも抑え込んでしまう強度の壁を、まるで発砲スチロールのごとく粉砕する。


「なーーーっ!」


 拳が、直撃。

 かろうじて腕でガードするも、しかしその威力が殺されることはなく、ヤコブは血溜まりを口から吐いて吹っ飛ばされる。


「ーーーっーーーっっ!!!」


 勢いのまま、幾つかに壁と家屋に突撃し、その後力なく、ふらつきながらもなんとかヤコブは立ち上がる


「……うっ………く……そ……」


 悲鳴を上げる体に、傷を治すために魔力を組まなく流し込む。完全復活とは言わずとも、応急措置にはなるだろう。


「……?」


 その突如、ヤコブの脳裏に、謎の映像が流れ出す。


 こちらを囲む人々、笑顔を向ける女性、積まれたたくさんの本、アルカディアニューヨーク支部の光景。


「ははは!」

「!」


 笑い声に、ヤコブの思考が現実に戻る。

 勢いを増し突撃してくるラースに対し、ヤコブは距離を取るために再び植物の波を形成、迎え撃つ。


「どうした兄さん!困惑してるな!もしかして見えたのか!?“俺の人生の欠片”が!!」

「!?」


 ヤコブの伸ばした植物群を、しかしラースは華麗に交わし、ヤコブの懐へと潜り込む。


「知ってるか兄さん!“預言者”は本来!1人しか生まれないんだよ!」


 再びラースの拳に集約される、破壊を孕む歪な魔力。


「俺らみたいに!2人いるのはありえないことなんだよ!」


 ヤコブの体を勝ち上げ、空へと吹き飛ばす。

 そしてヤコブの脳内に再び巡りだす、謎の光景。


 手を握る、床に伏せた女性。こちらを向く、人々の冷ややかな視線。優しい笑顔を向けてくれる、明るい少女の顔。


「俺も感じたよ!兄さんの魔力を受けながら、兄さんが歩んできた人生の記憶を!!」


 後を追い、ラースも高く飛び上がる。

 ヤコブも負けじと反撃しようとするが、しかし体が言うことを聞かない。


「誰より国民を信じて!そして裏切られ続けてきた人生を!」


 飛ばされたヤコブよりもさらに高く飛び上がったラースは、そのまま自身の魔力を頭上に集め、やがて一つの巨大な黒陽を完成させる。


「もしかしたらさ!一つになろうと共鳴してるのかもしれないな!」


 今にはち切れんと言わんばかりの魔力の胎動に、ヤコブは自身の背後、こちらを見つめる、ウセリオリ支部の住民の視線を感じ取る。


「ーーーっ!まて!」


 静止の声も、虚しく溶ける。


「だから兄さん!素直になれよ!」


 絶命の暗雲が、爆発する。

 

「うあぁ……!」


 ラースの頭上、巨大な魔力の塊は、一目散に拡散し、地表全域へと振り注ぐ。

 命を奪う、災厄の雨。

 それを、自分の生き写しが起こした。


「うわぁぁぁぁああああああ!!!」


 絶叫しながら、ヤコブは痛みに走る体を無理やり反転させ、すぐさま住民を守ろうと、戦闘開始直後にも張った自然のシェルターをあたり一面に広げ作る。


 しかし、降り注ぐ絶命の雨は、そのことごとくを貫通し、無慈悲に住民へと襲いかかる。


「クソ!クソ!!」


 思い出す、ヨハネスブルク支部で見た光景。

 自分のために、他者を毛落とそうと醜く争う、国民の姿。


 失望しかけた彼らの存在を、自分と同じ存在が、容赦無くねじ伏せる。


「クソォォォォォォォオオオオ!!!」

 

 1人でも助けようと急降下するも、しかし突如、背中に激痛が走った。

 見れば、それはラースの放った攻撃、黒い雨の一粒。

 必死になるあまり、周りが見えていなかった。


「うぅ……!」


 魔力の操作が効かなくなり、ヤコブは再び家屋へと落ちる。

 混濁する意識の中で、ラースの魔力を受けたことにより、また彼の記憶が脳裏に流れ出す。


 炎に包まれた街並み。祭司服を見に纏う、「教会」所属の人間たち。こちらを睨む、「聖天騎団」のメンバー。


 ーーーそして、こちらへと微笑むように笑う、どこか自分と同じ面影を感じる、2人の男性と女性。


「ーーーっ!」


 落ちそうになった意識を、すんでのところで耐え忍ぶ。

 痛みに悶える体にムチを打って起こせば、それ(・・)は視界に飛び込んで来た。


「うがああああああ!!!」

「痛いぃぃぃ…!溶けるぅぅぅ……!」

「誰かぁぁあああ!!誰かぁあああああ!!!」


 建物が崩れ落ち、逃げ遅れ命を落とし、絶叫が響く光景。

 災禍の中で苦しみ叫ぶ、ウセリオリ支部の人々の姿。

 

「…………」


 言葉が出ない。頭も回らない。

 ただ、悶え苦しむ住民の声と光景が、ヤコブの精神を犯していく。


「ーーー俺も、同じだよ」


 頭上から声が聞こえた。

 見上げてみれば、そこには純粋な笑みを浮かべるラースの姿。


「信じて、そして裏切られた」

「………」


 ラースの言葉が、嫌と言うほどに心に染みる。


「俺だけが……俺だからこそ……兄さんの気持ちを理解できる。だから兄さんーーー」


 目を背けてきた自分が、手を差し伸べる。


「ーーー俺と一緒に、世界を壊そう」


 阿鼻叫喚の中で、ラースの声だけが、やけに透き通って聞こえてきた。

 

読んでいただきありがとうございます。

面白いと感じて頂けたら、ブクマ、感想、評価の方よろしくお願いします。


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