20節 悪魔の誘い
「ーーーっ黙れ!!!!」
叫び、ヤコブは覆い隠した。
地面より生やした植物群で、自分の姿をしたラースを。
「だからさぁ!!」
しかし、世の常とは非情である。
「無駄なんだって!!」
「!」
どんなに目を逸らそうと、自分からは逃げられない。
ラースの邪悪な魔力が弾き飛び、生やした植物が散っていく。
「少し痛くしないとわかんねーかな!?」
「!」
距離を詰めたラースの拳に、黒い魔力が集約される。
それは、命を根絶する魔力の波。
(これは、まずい!)
咄嗟に、ヤコブは自身とラースの間に植物の壁を作り出す。
「だから!意味ねーよ!!」
突き出した拳。それは、ヤコブの作り出した植物の壁を、ミサイルの威力さえも抑え込んでしまう強度の壁を、まるで発砲スチロールのごとく粉砕する。
「なーーーっ!」
拳が、直撃。
かろうじて腕でガードするも、しかしその威力が殺されることはなく、ヤコブは血溜まりを口から吐いて吹っ飛ばされる。
「ーーーっーーーっっ!!!」
勢いのまま、幾つかに壁と家屋に突撃し、その後力なく、ふらつきながらもなんとかヤコブは立ち上がる
「……うっ………く……そ……」
悲鳴を上げる体に、傷を治すために魔力を組まなく流し込む。完全復活とは言わずとも、応急措置にはなるだろう。
「……?」
その突如、ヤコブの脳裏に、謎の映像が流れ出す。
こちらを囲む人々、笑顔を向ける女性、積まれたたくさんの本、アルカディアニューヨーク支部の光景。
「ははは!」
「!」
笑い声に、ヤコブの思考が現実に戻る。
勢いを増し突撃してくるラースに対し、ヤコブは距離を取るために再び植物の波を形成、迎え撃つ。
「どうした兄さん!困惑してるな!もしかして見えたのか!?“俺の人生の欠片”が!!」
「!?」
ヤコブの伸ばした植物群を、しかしラースは華麗に交わし、ヤコブの懐へと潜り込む。
「知ってるか兄さん!“預言者”は本来!1人しか生まれないんだよ!」
再びラースの拳に集約される、破壊を孕む歪な魔力。
「俺らみたいに!2人いるのはありえないことなんだよ!」
ヤコブの体を勝ち上げ、空へと吹き飛ばす。
そしてヤコブの脳内に再び巡りだす、謎の光景。
手を握る、床に伏せた女性。こちらを向く、人々の冷ややかな視線。優しい笑顔を向けてくれる、明るい少女の顔。
「俺も感じたよ!兄さんの魔力を受けながら、兄さんが歩んできた人生の記憶を!!」
後を追い、ラースも高く飛び上がる。
ヤコブも負けじと反撃しようとするが、しかし体が言うことを聞かない。
「誰より国民を信じて!そして裏切られ続けてきた人生を!」
飛ばされたヤコブよりもさらに高く飛び上がったラースは、そのまま自身の魔力を頭上に集め、やがて一つの巨大な黒陽を完成させる。
「もしかしたらさ!一つになろうと共鳴してるのかもしれないな!」
今にはち切れんと言わんばかりの魔力の胎動に、ヤコブは自身の背後、こちらを見つめる、ウセリオリ支部の住民の視線を感じ取る。
「ーーーっ!まて!」
静止の声も、虚しく溶ける。
「だから兄さん!素直になれよ!」
絶命の暗雲が、爆発する。
「うあぁ……!」
ラースの頭上、巨大な魔力の塊は、一目散に拡散し、地表全域へと振り注ぐ。
命を奪う、災厄の雨。
それを、自分の生き写しが起こした。
「うわぁぁぁぁああああああ!!!」
絶叫しながら、ヤコブは痛みに走る体を無理やり反転させ、すぐさま住民を守ろうと、戦闘開始直後にも張った自然のシェルターをあたり一面に広げ作る。
しかし、降り注ぐ絶命の雨は、そのことごとくを貫通し、無慈悲に住民へと襲いかかる。
「クソ!クソ!!」
思い出す、ヨハネスブルク支部で見た光景。
自分のために、他者を毛落とそうと醜く争う、国民の姿。
失望しかけた彼らの存在を、自分と同じ存在が、容赦無くねじ伏せる。
「クソォォォォォォォオオオオ!!!」
1人でも助けようと急降下するも、しかし突如、背中に激痛が走った。
見れば、それはラースの放った攻撃、黒い雨の一粒。
必死になるあまり、周りが見えていなかった。
「うぅ……!」
魔力の操作が効かなくなり、ヤコブは再び家屋へと落ちる。
混濁する意識の中で、ラースの魔力を受けたことにより、また彼の記憶が脳裏に流れ出す。
炎に包まれた街並み。祭司服を見に纏う、「教会」所属の人間たち。こちらを睨む、「聖天騎団」のメンバー。
ーーーそして、こちらへと微笑むように笑う、どこか自分と同じ面影を感じる、2人の男性と女性。
「ーーーっ!」
落ちそうになった意識を、すんでのところで耐え忍ぶ。
痛みに悶える体にムチを打って起こせば、それは視界に飛び込んで来た。
「うがああああああ!!!」
「痛いぃぃぃ…!溶けるぅぅぅ……!」
「誰かぁぁあああ!!誰かぁあああああ!!!」
建物が崩れ落ち、逃げ遅れ命を落とし、絶叫が響く光景。
災禍の中で苦しみ叫ぶ、ウセリオリ支部の人々の姿。
「…………」
言葉が出ない。頭も回らない。
ただ、悶え苦しむ住民の声と光景が、ヤコブの精神を犯していく。
「ーーー俺も、同じだよ」
頭上から声が聞こえた。
見上げてみれば、そこには純粋な笑みを浮かべるラースの姿。
「信じて、そして裏切られた」
「………」
ラースの言葉が、嫌と言うほどに心に染みる。
「俺だけが……俺だからこそ……兄さんの気持ちを理解できる。だから兄さんーーー」
目を背けてきた自分が、手を差し伸べる。
「ーーー俺と一緒に、世界を壊そう」
阿鼻叫喚の中で、ラースの声だけが、やけに透き通って聞こえてきた。
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