13節 恐怖の原因
ヤコブとローサは、当初の予定通り街の状況を、そして助けを求めている人がいないかを探すため、街中を歩いていた。
もちろん、ヤコブ自身も“英雄捜索”のため、自身の魔力感知の方に気を張っている。
「………」
歩き、変装用の黒いカツラが揺れるのを感じるのと同時に伝わるのは、恐怖や戸惑いといった感情。
外の世界から入ってくる人が珍しいのか、ウセリオリ支部に住み着いている住人は、皆物陰からこちらの様子を見つめるだけだ。
(……やっぱり、ここにいる人は皆とても弱々しい)
その中でも、ヤコブは住民の体調が芳しくないことを、僅かに見える傷や魔力の様子から判断する。
ただ傷を治すだけなのなら、ヨハネスブルクでやったように、無差別に自分の魔力を分けあたえればいい話だ。
しかしここは“危険区域”。紛争と犯罪の絶えない街。
治した矢先に、他者へと危害を加える者が現れないとも限らない。
(今のところはそういった悪意は感じませんが、弱気になっているだけということも考えられる。やはり、なりふり構わず助けるのは避けた方がいいですかね……)
耽る中、ふと後ろで鳴っていた足音が止むのを感じる。
「ローサ?」
「……」
振り向き、どこかを見つめる白髪の少女。
ヤコブに問われたから、徐に真横へと指を刺し始める。
「どうしましたか?」
「……助けを呼んでる」
「え?」
突然、ローサは走り出した。
「ちょ、ローサ!?」
その後を、ヤコブもすぐに追いかけた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
ローサが向かった先は、先ほど歩いていた大通りよりも脇に外れた、路地の中。
人目にあまりつかない場所だからか、先ほどよりも寝床が多く目立つ。
その中を、ヤコブとローサは駆けていく。
「ローサ!どうしたんですか!?」
「あっち!あっちにいるの!」
「?」
わけもわからぬままに、ヤコブはひたすらローサの後を追う。
その気になればいつでも捕まえることはできるが、「助けを呼んでる」というローサの言葉が頭にこびりついて、ヤコブは手を出せずにいた。
「ここ!」
言い、ヤコブも足を止める。
景色は変わらず路地裏で、しかしまるでそこは舞台の上と言わんばかりに、静かな路地の中で、ローサの指差す方向だけが騒がしくなっていた。
小さな男の子と成人の男性。
演目は、弱者が弱者を痛ぶる話。
「だから!それっぽっちで薬をやれる訳ねーだろ!!」
「お願いだ!足りない分は今度払うから!」
「しつこいんだよ!」
男性の方は、足にしがみつく少年を忙しなく足蹴にする。しかし少年は、絶対に離れないと、必死の形相で食らいついている。
「あれは……あ!」
目に入ってきた光景に驚いていると、ローサが真っ先に二人の方へと向かう。
「お願いだ!これが無いと弟が!」
「知らねーよ!」
「やめてよ!!」
ローサの一言で、2人の動きが止まり、少女の方へと注目が集まる。
「まだこんな小さい子を、可哀想でしょ!?」
「……はぁ?なんだよお前……」
男性が、ローサの登場で力の抜けた少年を軽くあしらい、近づく。
「おいガキ。誰にもの言ってんだ?」
「貴方に!」
「な……」
「何がガキよ!こんな傷ついてるのに優しくできないなんて、貴方の方が子供じゃない!」
「こいつ……!」
ローサの言葉に、男性の血管が切れる。
大きく振り上げられた拳に、ローサは目を瞑って、全身に力を入れる。
そして、肌を叩く乾いた音が鳴り響いた。
「ーーーあれ?」
覚悟した痛みは、しかしいつまで経っても訪れない。
ゆっくりと目を開けて見れば、降ろされた男性の拳を、見事に受け止めてみせたもう一つの腕が目に入る。
「なっ!?」
「それ以上は、見過ごせませんよ」
ヤコブの剣幕が、男性を貫く。
震え、離そうとする男性の手を、しかしヤコブは涼しい顔で下げながら、ローサとの間へとその体を挟み込む。
「クソッ!」
間も無くして、解放された拳をさすりながら、男性はヤコブの方を強く睨む。
「てめー……覚悟はできてるんだろう……な……?」
しかし、その鋭い視線は、みるみるうちに青ざめたものへと変わっていった。
「?」
溢れ出す汗、先ほど以上に体を震わす男性に、ヤコブも何が起こったのかまるで分かっていない。
すると突然、男性は大きく体を折り曲げ、頭を地面へとつけて、叫び出した。
「す、すすす、すみません!まさ、まさか貴方だとは、思わ、思わなくて!!」
「え?」
震えて、上手く回らない滑舌を必死に動かしながら言葉を紡ぐ男性に、ヤコブは、そしてローサも困惑の顔を浮かべる。
「も、もう、もう2度とこのような、ようなことはしませんので!どうかおゆるるしを!!」
「いや、別に僕は危害を加えようとは……」
「ひやぁぁぁぁああ!!」
手を伸ばすヤコブに、男性は自分の頭を押さえて丸くなる。
「一体……どういう……」
わけもわからぬ事態に、ヤコブは先ほどまで足蹴にされていた少年の方へと視線を送る。
「ひっ……!」
少年もまた、ヤコブの視線に涙を浮かべた。
「……これは」
次第に、ヤコブも気づき始める。
少年と男性に限らず、先ほどからずっと住民が物陰より除いでいたこと。そして、感じた恐怖や戸惑いといった感情も、それらの全てが、ウセリオリ支部の現状ではなく、自分自身が発端であることを。
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