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灰の預言者  作者: 吉越 晶
第4章
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13節 恐怖の原因

 ヤコブとローサは、当初の予定通り街の状況を、そして助けを求めている人がいないかを探すため、街中を歩いていた。

 もちろん、ヤコブ自身も“英雄捜索”のため、自身の魔力感知の方に気を張っている。


「………」


 歩き、変装用の黒いカツラが揺れるのを感じるのと同時に伝わるのは、恐怖や戸惑いといった感情。

 外の世界から入ってくる人が珍しいのか、ウセリオリ支部に住み着いている住人は、皆物陰からこちらの様子を見つめるだけだ。


(……やっぱり、ここにいる人は皆とても弱々しい)


 その中でも、ヤコブは住民の体調が芳しくないことを、僅かに見える傷や魔力の様子から判断する。


 ただ傷を治すだけなのなら、ヨハネスブルクでやったように、無差別に自分の魔力を分けあたえればいい話だ。


 しかしここは“危険区域”。紛争と犯罪の絶えない街。

 治した矢先に、他者へと危害を加える者が現れないとも限らない。


(今のところはそういった悪意は感じませんが、弱気になっているだけということも考えられる。やはり、なりふり構わず助けるのは避けた方がいいですかね……)


 耽る中、ふと後ろで鳴っていた足音が止むのを感じる。


「ローサ?」

「……」


 振り向き、どこかを見つめる白髪の少女。

 ヤコブに問われたから、徐に真横へと指を刺し始める。


「どうしましたか?」

「……助けを呼んでる」

「え?」


 突然、ローサは走り出した。


「ちょ、ローサ!?」


 その後を、ヤコブもすぐに追いかけた。


ーーーーーーーーーーーーーーー


 ローサが向かった先は、先ほど歩いていた大通りよりも脇に外れた、路地の中。

 人目にあまりつかない場所だからか、先ほどよりも寝床が多く目立つ。


 その中を、ヤコブとローサは駆けていく。


「ローサ!どうしたんですか!?」

「あっち!あっちにいるの!」

「?」


 わけもわからぬままに、ヤコブはひたすらローサの後を追う。

 その気になればいつでも捕まえることはできるが、「助けを呼んでる」というローサの言葉が頭にこびりついて、ヤコブは手を出せずにいた。


「ここ!」


 言い、ヤコブも足を止める。

 景色は変わらず路地裏で、しかしまるでそこは舞台の上と言わんばかりに、静かな路地の中で、ローサの指差す方向だけが騒がしくなっていた。


 小さな男の子と成人の男性。

 演目は、弱者が弱者を痛ぶる話。


「だから!それっぽっちで薬をやれる訳ねーだろ!!」

「お願いだ!足りない分は今度払うから!」

「しつこいんだよ!」


 男性の方は、足にしがみつく少年を忙しなく足蹴にする。しかし少年は、絶対に離れないと、必死の形相で食らいついている。


「あれは……あ!」


 目に入ってきた光景に驚いていると、ローサが真っ先に二人の方へと向かう。


「お願いだ!これが無いと弟が!」

「知らねーよ!」

「やめてよ!!」


 ローサの一言で、2人の動きが止まり、少女の方へと注目が集まる。


「まだこんな小さい子を、可哀想でしょ!?」

「……はぁ?なんだよお前……」


 男性が、ローサの登場で力の抜けた少年を軽くあしらい、近づく。


「おいガキ。誰にもの言ってんだ?」

「貴方に!」

「な……」

「何がガキよ!こんな傷ついてるのに優しくできないなんて、貴方の方が子供じゃない!」

「こいつ……!」


 ローサの言葉に、男性の血管が切れる。

 大きく振り上げられた拳に、ローサは目を瞑って、全身に力を入れる。


 そして、肌を叩く乾いた音が鳴り響いた。


「ーーーあれ?」


 覚悟した痛みは、しかしいつまで経っても訪れない。

 ゆっくりと目を開けて見れば、降ろされた男性の拳を、見事に受け止めてみせたもう一つの腕が目に入る。


「なっ!?」

「それ以上は、見過ごせませんよ」


 ヤコブの剣幕が、男性を貫く。

 震え、離そうとする男性の手を、しかしヤコブは涼しい顔で下げながら、ローサとの間へとその体を挟み込む。


「クソッ!」


 間も無くして、解放された拳をさすりながら、男性はヤコブの方を強く睨む。


「てめー……覚悟はできてるんだろう……な……?」


 しかし、その鋭い視線は、みるみるうちに青ざめたものへと変わっていった。


「?」


 溢れ出す汗、先ほど以上に体を震わす男性に、ヤコブも何が起こったのかまるで分かっていない。


 すると突然、男性は大きく体を折り曲げ、頭を地面へとつけて、叫び出した。


「す、すすす、すみません!まさ、まさか貴方だとは、思わ、思わなくて!!」

「え?」


 震えて、上手く回らない滑舌を必死に動かしながら言葉を紡ぐ男性に、ヤコブは、そしてローサも困惑の顔を浮かべる。


「も、もう、もう2度とこのような、ようなことはしませんので!どうかおゆるるしを!!」

「いや、別に僕は危害を加えようとは……」

「ひやぁぁぁぁああ!!」


 手を伸ばすヤコブに、男性は自分の頭を押さえて丸くなる。


「一体……どういう……」


 わけもわからぬ事態に、ヤコブは先ほどまで足蹴にされていた少年の方へと視線を送る。


「ひっ……!」


 少年もまた、ヤコブの視線に涙を浮かべた。


「……これは」


 次第に、ヤコブも気づき始める。

 少年と男性に限らず、先ほどからずっと住民が物陰より除いでいたこと。そして、感じた恐怖や戸惑いといった感情も、それらの全てが、ウセリオリ支部の現状ではなく、()()()()()()()()()()()()()



読んでいただきありがとうございます。

面白いと感じて頂けたら、ブクマ、感想、評価の方よろしくお願いします。


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