7節 憧れ
聞き込みをしてからはや2時間。
ヤコブは木陰に座って住民の暮らしを眺めていた。
手分けをして行動したといえ、そもそもとして規模がそこまで大きく無いのもあり、“英雄探し”自体はわずか30分ほどで終わっていた。
英雄に関する情報は何も得られなかったが、それでも嬉しい誤算が一つ。
この国の人たちは、アルカディアの存在を知らなかったのだ。
もしかすると山奥というのもあり、今まで外から何らかの危害を受けたことが無いのかもしれないし、何なら来訪者がいたとしても、それによって美味しいおもいをしたのかもしれない。
そうであれば、あそこまで自分たちに対して友好的な理由もある程度はわかる。
それ故ヤコブたちは、今まで二人三脚だった緊張から外されて、一言で言うのならば自由行動。つまり一息付いていた。
フラムは観光、特に狩で使う武器に興味があるのか、住民とそのことで盛り上がっている。
ローサは、農作業や荷物運びなど、手当たり次第に住民の生活を手伝っている。
そしてセクアはーーー
「どうかしましたか?」
「……いいえ。ただ、2人と違い休憩なされていたので、どこかご気分でもすぐれないのかと思いまして」
「ありがとうございます。でも大丈夫ですよ」
「……そうですか。なら良かったです」
言い終えた瞬間、一際強い風が吹く。
木々を揺らす、自然の風。
それは、まるでどこか不吉な音に似ていてーーー
「ーーーセクア。何か不安でもあるのですか?」
「ーーー」
映る、敬愛する、神のような『奇跡』の姿。
そして霞む、見えてしまう、「俗物」としての姿。
「……いいえ。大丈夫です」
振り絞ったセクアの答えに、ヤコブはただ微笑んで。
「もし何かあったら言ってくださいね。僕たちは、仲間ですから」
以前ならば、感激したであろうその言葉も、今となってはーーー
「ーーーはい。ありがとうございます」
言い、セクアはその場を後にする。
「……風が気持ちいですね」
呟く、ヤコブの言葉を背に、木々のざわめく音は、尚も止まずに吹き荒れる。
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「ははは!すげーな!弱い奴は弱いなりにちゃんと工夫してんのか!」
狩りの道具を持ちながら、狩人たちの話を聞いたフラムは高らかに叫ぶ。
言ってることはアレだが、しかし彼女の明るさに当てられてか、狩人たちは笑いながらそれに返す。
「ひでーな!でも嬢ちゃん気に入ったぜ!良かったら一緒に狩でも行かねーか?」
「おーいいな!楽しそうだ!」
「……フラム」
「?」
呼ばれ、振り返ってみれば、そこにいたのは、メガネをかけた藍色の髪の少年ーーーセクアだった。
「ん〜やっぱりその呼び方慣れねーな」
「君の名前だろう。慣れてないのはおかしいぞ」
「いやそうなんだけどさ」
頭をかくフラムに、セクアは彼女の手に握られた石槍に気づく。
「なんだ、君にはそんなもの必要ないだろう」
「あー、いやこれから狩りに行こうと思ってさ」
「狩り?」
「うん」
「おう!兄ちゃんも行くか!?」
「………」
2人の会話が聞こえていたのか、後ろから狩人たちが笑顔で誘ってくる。
その顔を見たセクアは、フラムが彼らとただ盛り上がってたわけでなく、友好な関係を気づけていることに気づく。
「………ふっ」
「ん?どうした?」
「いや、何でもない。せっかくのお誘いだが、私は遠慮しておくよ」
「そうか?なら期待して待ってろよ!大物捕まえてやるから!」
「ああ、君ならきっとできるさ」
言い、セクアはその場を去る。
その時見えた、どこか哀愁のある彼の笑顔。
「……お前、やっぱりどこか変だぞ」
「………」
かけられた言葉に、セクアは一度立ち止まり、振り返らずに一言告げる。
「……変ではないよ。ただフラム、もしも変わったと言うのなら、それは君が変わったんだ」
再び歩き出したその姿を、フラムは最後まで見送ってーーー
「ーーー変わった……か」
彼の言ったその言葉が、ただ頭の中で反響していた。
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木陰の下、ヤコブはあいもかわらずそこからの景色だけを見ている。
特に目につくのは、元気に遊ぶ子供の姿。
ーーーそして
「ほら、そろそろ晩御飯の支度するよ」
「えーまだ遊びたい!」
「だーめ。お父さんが狩りから帰る前に用意しないと」
子供達を向いに来た、親の姿。
「………」
それは、幼い頃からのヤコブの癖だった。
シュリアムの下、血は繋がらずとも親としての愛情を感じ、そして育ってきた。
別に、そこに何か不満があるわけではない。
ただそれでも、時々だが想像することがある。
ーーーもしも、自分の本当の親が生きていたら、どんな生活を過ごしていたのだろう。
16年前、自分を産んだのを最後に亡くなったと聞く母親。
そしてその後を追う様に、事故で亡くなったと聞く父親。
親といえど、元々顔も名前も知らぬ相手だ。そこに悲しいと言った感情があるわけではない。
それでも、その目に家族が入ってしまうと考えてしまう。
そんな“もしもの世界”に焦がれてしまう。
「ーーーヤコブ」
「ローサ……」
振り返ってみれば、そこには輝く汗を額に浮かべる白髪の少女が立っていた。
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