6節 再開
ヨハネスブルク支部を発った翌日。
ヤコブたちは、再び英雄探しの旅に戻り、新たな『国』に到着した。
そこは、ヨハネスブルク支部より北東の山奥に存在する場所。
例に漏れず、その国もまた、『村』と呼んだ方が適切であろう規模の場所だった。
「なんか久々に感じるな」
「そうですね」
その国の前で、ヤコブとフラムは中の様子を伺う様に立っていた。
ローマ支部を出発してからはや2週間。
最初に訪れた国を始めとして、幾つかの国を回り、見てきたヤコブにとっては、その中へと足を踏み込むのはやはり簡単なものではない。
殆どの国が閉鎖的で、そしてその日を生きるのに精一杯だ。他所の人間を迎えるほどの余裕が無いのは、今の世界においては、どの国にも共通している。
何よりヨハネスブルク支部で1週間ほど滞在していたのが、少しずつその現状に慣れてきていた感覚をリセットし、ハードルを初期の頃に戻してしまった。
加えてアルカディアは外の国に嫌われている。
今のヤコブは、そのことを初期の頃以上に重く受け止めていた。
ヤコブの感じる緊張がどう言うものか、想像するのは容易だ。
「じゃ、行きますか」
そんなヤコブの悩みなど笑うかの様に、フラムは中へと足を進める。
その肝っ玉のデカさに感動すると同時に、また励まされるのは、もはや言うまでも無い。
「セクア、ローサ、私たちも行きましょう」
「うん!」
「……はい」
少し離れた場所で待機していた2人にも声をかけ、ヤコブたちもフラムの後に続いた。
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「おー!旅のお方ですか!どうぞどうぞ、ごゆっくりしていってください!!」
「………」
国に入って開口一番、明るく自分たちを歓迎するその様子に、ヤコブは思わず呆気にとられる。
入るのに躊躇っていたのは何だったのだろうか。
「なんだ、良い奴らだな」
「ええ……意外です。嘘をついているわけでも無い様ですし」
実際、ここに住む人々は全員が笑顔に溢れ、和気藹々とした空気を作っている。
そして生まれながらの性質、他者の感情が読み取れるヤコブだからこそ、嘘偽りの無い彼らの歓迎の気持ちに驚きを隠せない。
するとふと、セクアが口を開く。
「……ここは中々に充実しています。自然豊かですし、小規模ながら農業や畜産もできています。狩りで使われるような道具も見受けられますし、自給自足の生活ができているのでしょう」
「確かに……今まで見てきたどの国よりも豊かな暮らしをしていますね」
手製の弓や石槍、中には果実などを天日干ししている様子も見受けられる。
文明レベルで言えば、よほど国などとは呼べないような場所ではあるが、しかしこうした自然の恵みを利用した生活は、見る者に少しばかりの安らぎを施す。
ここはまさに、今の荒廃した世界に浮かぶ、砂漠のオアシスのような場所なのだ。
「にしてもここはすげー楽しそうだな!」
「うん!楽しそう!」
好奇心の強い子供にとっては、特にこういった場所は、テーマパークの様な場所にも映るだろう。
それを証拠に、先ほどからフラムとローサは目を輝かしている。
「ではそろそろ、ここの人たちに聞き込みを始めましょうか」
「よし来た!」
言われて真っ先に、フラムが飛び出していく。
本来の目的である“英雄探し”を忘れている様な気もするが、しかし純粋なフラムの行動は、それをどこか許せてしまうほどに微笑ましい。
「ねえ……」
「?」
声をかけられ、ふと振り向く。
かけてきたのは、先ほどまでフラムと一緒に目を輝かせていた少女ーーーローサだ。
「どうしましたか?」
「うん。そう言えば、ヤコブたちはなんで旅をしてるのかな?って思って」
言われて気づく。ヤコブはまだ、ローサにこの旅がどういったものかをちゃんと説明していない。
「えーと……簡単に言うと“人探し”をしているんです」
「ひとさがし?」
「はい。……とは言っても、どんな人か分からないんですけどね」
「だから聞き込みなんだ!」
「はい。そう言うことです」
「じゃあ私も手伝うよ!」
「え」
「だって、それがヤコブの旅の目的なんでしょ?だったら手伝う!」
とても純粋で、それでいて真っ直ぐな少女の言葉。
他者の感情が読めるヤコブの目を、その光はどこまでも照らし、ヤコブも笑顔で応える。
「ええ、お願いします」
「うん!じゃあ、その探してる人の特徴教えて!」
「ええと……特別な力を持ってる……とか?」
「ヤコブみたいな?」
「そうですね」
「分かった!じゃあ行ってくるね!」
「はい。気をつけて」
手を振り、ローサもまたフラムに続いてかけていく。
「……さて、じゃあセクア。僕たちも行きましょうーーー」
見れば、すでにセクアは聞き込みを開始していた。
「……僕が一番最後か」
呟き、進めるその足は、しかしどこか嬉々としたものを孕んでいた。
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